いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン㉔第弐拾壱話『ネルフ、誕生』Part.2

 引き続き、21話本編を見ていきましょう。ナオコ博士の回想で、ユイが実験で消失したところから。
 娘への手紙で、ゲンドウへの慕情を仄めかすナオコ博士。マギにおける「女としての自分」というのは、こういうところなのでしょうか。

 ユイの失踪によってゲンドウは一週間失踪。戻って来たゲンドウが提唱したのが「人類補完計画」。
 そう……人類補完計画を提唱したのは、ゼーレではなくゲンドウ。そして、補完計画が提案されたのは、「この段階」なのです。
 つまり、「セカンドインパクトは人類補完計画に従って起きたわけではない」ということになります。まぁ、冬月が「まさか……あれを!」という反応をしているので、近いものは俎上に上がっていたようですが。
 ゲンドウの後ろに十字架が見えるのが意味深です。

 あと、そもそもゲンドウの台頭もセカンドインパクト後なので、セカンドインパクトは別にゲンドウのせいで起きたわけではありません。
 では、セカンドインパクト時のゼーレは何をしようとしていたのか。 ゼーレの教義は、エヴァンゲリオン2によれば神……完全なる存在であるアダム・カドモンへの到達です。が、それ以上にゼーレは神(に近い存在であるアダム、リリス等)に何とかして人の因子を混ぜ込もうとしています。
 人の魂を埋め込んだエヴァ、人の身体に始祖の魂を宿した渚カヲル。そして、セカンドインパクトの引き金となったと思しき、アダムへの遺伝子ダイブ実験等。つまり、ただ神を作ろうとしていたのではなく、或る程度人(というかゼーレ)の思い通りになる神様を作ろうとしていたのではないか、と考えることができます。
 エヴァンゲリオン2における人類補完計画の解説でも『人の作りし神によって、優良な者(自分達)を神に近いところへ導くつもりであった。』となっていますし。

 逆に言えば、「それ以外の人類自体はどうなってもいい」と考えていた節が強いです。セカンドインパクトで人類滅ぼしかけても、全然懲りてませんし。もともと宗教団体という性質もありますし、「エヴァ(新たな神)さえ作れればいい」、くらいの感覚でしょう。
 この辺の思想、ユイの「エヴァを人類の記念碑として残す」という計画と根っこの部分は近いようにも思えます。ユイは元々ゼーレ関係者なので、思想のルーツが同じ可能性は十分にあり得ます。

 これを踏まえて、ゲンドウとユイが何をしていたのか。
 ゲンドウは(多分ユイと共謀して)葛城調査隊に参加。アダムのサンプルを持ってセカンドインパクト前に脱出。セカンドインパクトが起こることを知っていたかのような挙動を取ります。というよりも、「ゼーレが神を手に入れられない」ことを見据えた行動、と言うべきでしょうか。
 これは余談ですが、セカンドインパクト時のゲンドウのムーヴ、新劇場版破の冒頭の加持さんがだいたい再現していると思われます。

 さて、では……セカンドインパクト時、ゲンドウは何を知っていたのか?
 想像の域は出ませんが、答えはネルフのルーツ、人工進化研究所にあると思われます。エヴァンゲリオン2では、
『人工進化研究所はアダムの破片を手に入れた事で、ゼーレのより強い介入を受け、組織体系を強化、実質上の直轄下部組織、秘密組織ゲヒルンとなった。』
 と書いてあるんですが。セカンドインパクト間もない時期にどうやってアダムの欠片を手に入れたのか?
 と考えると……「ゲンドウが持ち込んだ」ほぼ一択だと思われます。つまり、字義通りに取ると、「ゼーレが介入する前からゲンドウが人工進化研究所に接触していた」ということになります。

 これは何故か。答えは多分、箱根の地下に存在するリリスです。ゲンドウとユイのアドバンテージは恐らく、何らかの形で「リリスの存在を知ってた」ということになります。つまり。動き出しの速度から考えても、センドインパクト前からゲンドウたちはリリスの存在を知っていた。そして……もしかすると、ゼーレの勘違いにも気付いていたのかもしれません。

 勘違いに気付いていた、は行き過ぎにしても、ゼーレが神を手に入れても、その過ちによって世界が滅んでも、ゲンドウの行動は無に帰します。「ゼーレの企みが失敗に終わる」と、「世界が滅ばない」。二つの確証が必要です。ゼーレの企みに備えて、アダムと同格のリリスを押さえたのかもしれませんが。

 後者の確証については、アダムを滅ぼせるロンギヌスの槍の存在でしょう。ただ、実は、ロンギヌスの槍については記述が曖昧で……LD版21話では「死海で見つかった」、エヴァンゲリオン2では「南極でアダムと共に見つかった」ということになっています。
 確かなのは、当時「南極にあったロンギヌスの槍が飛んできてアダムに刺さった」のであろうという点。

 少し話は逸れますが、ここで思い出して欲しいのは、以前チラっと出てきた一般向けのセカンドインパクトのカバーストーリー。「亜光速で飛んできた極小隕石衝突による破壊」。天文学者の人が出てきました。
 完全に無から生まれたカバーストーリーでないなら、これ、「アダム目掛けて飛んでいくロンギヌスの槍を観測した」という話なんじゃないかなぁ、と推測できるわけです。ロンギヌスの槍、その気になれば衛星軌道まで行き来できるっぽいので。イメージとしては、新劇場版、エヴァ破のラストに近いかもしれません。

 兎も角、ゲンドウとユイはセカンドインパクト後を見据えて動き、その結果が人類補完計画に繋がります。
 で、人類補完計画なんですが……ざっくり言えば「人類をLCLに分解し、魂を生命始祖によって神となる肉体(エヴァ)へと導いて貰う」という計画です。細かいバリエーションはあるので詳細は省きますが。
 以前の計画と明確に違うのは、オリジナルのアダム(やリリス)ではなく、人造のエヴァを使うこと。これのいいところは、とりあえず誘導役の生命始祖さえ押さえれば、多分人類みんなに助かるチャンスがあることです。劇場版でも、ゼーレ関係者以外も補完されてますし。
 まぁ、個体生命じゃなくなるかもしれませんけど、恐らくは「生きていれば幸せになるチャンスはある」みたいなこと言ってるユイの意向が含まれた計画なので、そのへんはよしとしましょう(よくはない)。

 ……つまり、ゲンドウとユイがやっていたことは。放っておくと世界滅ぼしかねない秘密結社と上手いことやって、どうにか人類が生き残るルートを探す、ということなのではないかなぁ、というのが現段階での見解となります。
 あれ……普通にこの人たち、「世界を救おうとしてた側」なのでは……?
 この辺のバックボーンがあるなら、ゼーレを糾弾しようとしていた冬月がスルっとゲンドウの仲間になったのも頷けます。LD版の21話にもそれっぽい台詞が実はありますね。

 ちなみに。色々設定の変わった新劇場版でも、補完計画の大枠は実は変わっていないのでは、とも考えられるのですが。この辺はまたの機会に。

 とまぁ、こうしたゲンドウの事情が、冬月視点の回想になることでぜんぜんわからなくなっているのがエヴァンゲリオンの味です。同様に、冬月は傍にいながらもゲンドウの心中について実は多分よくわかってない、という話でもあります。

 こんなんわかるかーい!!

 キレるのは後回しにして、本編に戻りましょう。
 リツコはこの時点でE計画所属。
ナオコ「本当にいいのね?」
ゲンドウ「自分の仕事に後悔はない」
ナオコ「嘘、ユイさんのこと忘れられないんでしょう」
 嚙み合ってるのかどうか微妙な会話。母の不倫現場を目撃して、それでも後にゲンドウと付き合うリツコ……。

 ナオコ博士はレイについて詳しくは知らない模様。後の話を見ても、この時点ではリツコの方がレイについては詳しそうです。この辺は、仕事がE計画担当なのかMAGIの開発なのかの違いでしょうか。

リツコ「幸せの定義なんてもっとわからないわよ」
 男女関係の話をした後にこの台詞。母親に言っているようにも聞こえます。
 さて、レイとナオコの遭遇。レイに愚痴をこぼすゲンドウ、想像するとなかなか面白い気もしますが。
ナオコ「あんたなんか死んでも代わりはいるのよ」
 レイの真実を知っての台詞でしょうか。エヴァの例に漏れず自己言及でもあります。そして、レイが口にする「私が死んでも代わりはいるもの」は、多分ナオコ由来の台詞であることがわかります。自分を殺した筈の人間が死んで、殺された筈の自分が生きているわけで……。
 これ、シンジくんがミサトさんにかけられたのと同レベルの呪いでは……?

 というところで、ネルフ誕生でタイトル回収し、回想終了。
 加持さんが冬月を救出。これはゼーレの意に反する行動です。拉致したのも加持さんなんですが。
加持「真実に近づきたいだけなんです。僕の中のね」
 加持さんの口にする「真実」という言葉はなかなか複雑です。ここでは、「自分に恥じる生き方をしたくない」くらいの意味でしょうか。加持さんの「真実」については後で取り上げますので、覚えておきましょう。
 何故冬月を助けたのか、については……先程のゼーレとゲンドウの関係があるとわかりやすいでしょう。ゼーレよりもゲンドウの側に付いた方が、人類の、というよりミサトさんのためだから……ではないかなぁ。
 ちなみに、ネルフ内でのアルバイトがバレ、ゼーレの意に背いた時点でゲンドウにとっての利用価値も尽き、既に加持さんに後ろ盾はありません。よって刺客が差し向けられます。加持さんも「最後の仕事」であることを勘付いていたようですが。

 解放されるミサトと、何者かに撃たれる加持。ちなみに、「誰が撃ったか」については、ゲーム『シークレット・オブ・エヴァンゲリオン』だとゲームの主人公(オリジナルキャラ)ということになっています。

 帰宅後、加持の伝言を見つけるミサト。遺言でもスイカ畑のことを頼む加持さん。とはいえ、この後のミサトとシンジの関係を考えるに、結局、スイカ畑の件は放置されていたと考えられます。
加持「真実は君と共にある。迷わず進んでくれ」
 さて、問題はこの台詞。というより、加持さんにとっての真実とは、という話。
 前にも書いた通り、加持さんはミサトさんに敢えて「真実」の一部(ゼーレの存在等)を伏せている、むしろ真実から遠ざけようとしている節があります。
 そして、加持さんにとっての真実の定義は……実は、この後、テレビ版の26話で近い発言があります。例の「おめでとう」の手間です。
冬月「受け取り方一つでまるで別物になってしまう脆弱なものだ。人の中の真実とはな」
加持「人間の真実なんてその程度のものさ。だからこそ、より深い真実を知りたくなるがね」
 というわけで、多分、「加持さんの言う真実」というのは、こっちの真実、「物事の受け取り方」の方なんではないかなぁ、と。
 ちなみにこれ、恐らくは「人間にとっての真実」、物事の受け取り方の話で、「世界の真実」の話ではないのですが……。この辺の台詞のせいで、物語の虚構性を明らかにし、「世界の真実」をも人の心情に委ねる、所謂「セカイ系」の概念が爆誕した、とも言えるのではないでしょうか。加持さん、ミサトさんとは別ベクトルで罪深い人だ……。

 なので話を21話に戻すと、この留守電で加持さんが言いたかったのはむしろ「迷わず進んでくれ」の方、全体の意味合いとしては「達者でな」みたいな感じなのでしょうが……。この言葉の後押しもあり、ミサトは真相究明に没頭するようになってしまいます。完全に裏目。
 とはいえ、加持さんの行動は完全に無駄という訳でもなく。恐らく一度は加持さんの配慮がミサトさんを救っているのではないかとも思えるのですが、詳細は次回。

 「八年前に言えなかった言葉」、多分プロポーズでしょう。加持さんと別れた切欠だったのかもしれません。

 泣き崩れるミサト。そして、やっと主人公であるシンジの出番。
 何もできない子供なんだと僕はわかった(英語サブタイトル回収)、とのことですが。正直、「大人だったらできることがある」っていう類のもんでもないと思うよ!!!
 まぁ、その辺の区別がつかないところも含めて、「子供」というお話なのでしょう。

 なんだかんだ、エヴァで主要キャラが死ぬのは珍しい事態なんですよね。
 加持さんの死によってミサトとシンジの関係も拗れ、雰囲気は既に取り返しがつかないくらい重苦しくなってるけど、もっとヤバくなります。

 といわけで、次回。アスカがヤバい回です。今回出番すらありませんでしたからね……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?