いまさらわかる新世紀エヴァンゲリオン㉗第弐拾四話『最後のシ者』

 本連載も、いよいよ此処まで辿り着きました。24話「最後のシ者」。英語タイトルは"The Beginning and the End, or "Knockin' on Heaven's Door""、始まりと終わり、あるいは『天国への扉』。前半は劇場版のキール議長の台詞、「始まりと終わりは同じところにある。よい、全てはこれでよい」という台詞と関係がありそうです。Qでカヲル本人も似たセリフを回収していますね。
 『天国への扉』ですが、本編中にも『ヘヴンズドア(直球)』が出てくるものの、フレーズ全体はボブ・ディランの曲のタイトルですかね。元々はビリー・ザ・キッドを描いた西部劇映画"Pat Garrett and Billy the Kid"の曲なんですが、色々な映画に使われています。基本的には死にそうなガンマンの心境を謳った歌なのですが、"it wouldn't be luck if you could get out of life alive"という一節とか、今回のエヴァとちょっと関係ありそうな。名曲なので、一度聞いてみてください。

 さて、本編……の、前に。音楽繋がりで前回紹介したMV、地味に22話のビデオ版追加シーンも一部入ってます。2:20~2:22くらいまで。書き忘れたので一応。流血表現等の都合か、登録しないと見れないっぽいですね……。

 24話、過去の回想と、アスカが全裸で空っぽの浴槽に入っている、という衝撃的なシーンから始まります。
 一体何があったのか。実はビデオ版では、この前に「シンジがアスカに加持さんの死を告げる」というシーンが入っているんですよね。なので、
アスカ「誰も私を見てくれないもの」
  とのことですが、「見てくれる人がいない」、というより「見て欲しい人がいなくなった」という方が大きい気もします。
 迎えに来るのはネルフの諜報二課。7日くらい放置されていたようですが。前回、ゲンドウやリツコさんがチルドレンのガードについて色々やってたようですし、その余波かもしれません。
 しかしアスカ、廃人のようにゲームやってても切り上げて寝たり、廃墟で風呂に入るときも服をきちんと畳んでたり、なんというか育ちがいい。

 シンジくん。レイが母親と関係があるのでは? ということに薄っすら気付きます。親父が母親のクローン侍らせていれば、そういう感想にもなる。
 が、レイの真実はシンジくんの想像を遥かに超えているわけで……。そういえば前回、レイのルーツについては巧妙に話が逸らされてましたね。「サルベージされたもの」としか言われてない。

 痴情のもつれでダミーを破壊した責任を問われるリツコ。
 ゲンドウはリツコに何も期待していなかった、との発言。仕事の面では色々期待していたようには見えますが、求めたのは違うものだった、という話でもあるのでしょう。ゲンドウにとってはユイの代わりなので。
 最後に同じ男との関係で失敗した母に縋るあたり、「Oh..」という感じになってしまいます。リツコ、結局は最後で母に縋る、という場面が多いですよね。

 加持さんの件があるので、アスカとも会うのが気まずい。レイの話をアスカにするのが不味いことはシンジくんでも何となくわかる模様。
 友達は街を去り、レイとも気まずい。こんな時どんな顔すればいいのかわからなくなる、とのことでヤシマ作戦と逆パターン。
シンジ「アスカ、ミサトさん……お母さん。僕はどうしたら……どうすればいい?」
 シンジくんが名前を連呼して助けを求めるシーン、作中何度かあるんですが、ミサトさんかアスカが先頭になってる率は結構高い。本人も意識してるか分からないですが。劇場版で最後に縋るのもアスカですし。
 まぁ、それで救われるかは別の話です。

 というところで、シンジくんを救いに(或いはトドメを刺しに)、最後のシ者、渚カヲル登場。使徒だから渚ってどういうセンスで名字つけてるんですかね。
 いきなりシンジくんと距離を詰めてくる。レイやアスカだと、その距離感まで行くのに一話くらいかかるぞ! 多分!
 カヲルくん、出会って早々からシンジくん攻略RTAを開始しますが。同時に、これはシンジくんに対するコミュニケーションの「正解例」でもあります。
 シンジくんの問題は、今までも散々書いてきましたが自己肯定が低すぎること。故に、他人から無限の愛情や肯定を求めてしまう、という気があります。だからこそ、相手の愛情に少しでも欠けがあると、「裏切られた」と思ってしまったり、相手を「怖い」と思ってしまうところがある。だからこそ、人との接触を怖がるようになった、という負のループ。
 誰も彼もが虚実を抱えて生きているエヴァの世界に放り込んではいけない人間です。そんなシンジくんに対し、無限の理解と肯定を与えてくれる存在、それがカヲルくんなのです。
 その正体は最後の使徒タブリス、今までに出てきた、「人の心をわかろうとする使徒」シリーズの完成形とも言えるでしょう。

 ついでなので、渚カヲルについて。その正体は、最後の使徒であり、人間ベースの身体にアダムの魂を埋め込んだ、レイと同質の存在です。この辺、「じゃあレイは使徒にカウントされないの?」という疑問も生じますが、どうもゼーレが数合わせで送り込んでいる節があるので、ゼーレがガバガバであることだけがわかります。
 カヲルくんが使徒として送り込まれた意味などは、後で説明します。ただ、初手からシンジくんを攻略に掛かっていることは覚えておいてください。
 さて、このカヲルくん。ゼーレに直で送り込まれただけあって色々真相を知っており、シンジくんにも好意的なので積極的に教えてくれるのですが……基本的に説明が下手です。リリンの言葉で喋ってくれ。
 ということで、今回はカヲルくんの言葉の翻訳、カヲリンガルを挟みながら進行します(このネタ通じるかな……)。

カヲル「知らない者はないさ。失礼だが、君は自分の立場をもう少しは知った方がいいと思うよ」
 自分の立場、直接は言っていませんが、「補完計画のキーとなり得る存在、神に近い存在となったエヴァ初号機のパイロット」という点かと思われます。シンジくんには伝わってないです。

 ミサトと日向の会話。カヲルくんは委員会が直で送り込んできた。とのことですが。ここでわかるのは、ミサトがまだゼーレの存在を知らないであろう、ということです。
 そして、シンクロテストについて。
ミサト「『今日のところは』小細工をやめて、素直に彼の実力、見せてもらいましょ」
 とのことですが。あの……もしかして、今までシンクロテストの結果弄ったりしてました……? 遠因とはいえ、シンクロテストの結果のせいで、シンジくんが使徒に吞まれたり、アスカがぶっ壊れたりしてるんですけど……? ひ、人の心……!

 コアの変換なしに弐号機とカヲルがシンクロするのは本来あり得ない。つまり、カヲルくんは「エヴァの構造と無関係に、複製体としてのアダムのボディを動かしている」ということです。
 半ば推測ですが、レイが零号機や初号機を動かすのも似たような仕組みの可能性があります。初号機だと拒絶されることもあるので、コアの意志次第でブロックされるようですが。

 ということで、レイとカヲルの接触。
カヲル「君は僕と同じだね」
 更に、ビデオ版では「お互いに、この星で生きていく体は、リリンと同じ形へと行き着いたか」という台詞があります。アダムとリリスの出自は以前noteに書いた通り、地球外からの来訪者なのでこういう話にもなる。或る意味、シンジくん達とは違う意味で「仕組まれた子供達」とも言えるでしょう。

 カヲルの正体は、ゲンドウ達にとっても不明。レイと似たような存在、というところまで当たりは付いているかもしれませんが、その目的、あるいはアダム本人であることまで行き着いているかどうか。
 ミサトさんはまず間違いなく、どこにも行き着いてませんが。

 シンジくんはプチ家出中。そりゃ、アスカも不在(入院中)だし、保護者のミサトさんに迫られたら帰りたくなくなりますわ。
 ということで、カヲルくん、グイグイシンジくんに接近します。

 ネルフ大浴場。今回急に出てきました。なんでこんな銭湯がネルフにあるんだよ!! ゲンドウとか冬月が使ってるんでしょうか。
 シンジくんは一次的接触を極端に避ける。
カヲル「人間は寂しさを永久に無くす事はできない。人は一人だからね。ただ、忘れることができるから、人は生きていけるのさ」
 そっ……とボディタッチしてくる絵面に引っ張られてしまいますが、これ、滅茶苦茶重要なシーンです。言っていることは、はっきり言ってしまうと劇場版で最終的に出てくる結論そのものです。
 同じ話を、実は何度も作中でやっている、というのもエヴァの特徴だと思います。

 更にシンジくんを褒めてくるカヲルくん。
カヲル「好きってことさ」
 言ったー!! ネットフリックス配信時、訳語がLoveなのかLikeなかで揉めましたが。シンジくんに素直に好意をぶつけるキャラ、実は初めてではないでしょうか。
 レイは自分の気持ちがよくわからない。アスカは自覚できるけど素直になれない。ミサトさんは好意というより行為をぶつけてくる。ということで、当たり前の好意をぶつけてくれたのは多分初めてでいい筈。
 ミサトさんは駄目でカヲルくんはいいのかい、というのはちょっと気になりますが。

 そして、ゼーレ激おこ。「(ネルフは人類補完委員会ではなく)ゼーレのための機関」と断言。そして、今はゲンドウの私有機関……というより、ゼーレに反抗するための人類補完計画遂行の拠点となっている、という認識。やっと現状に気付いたゼーレ。この時点でゲンドウとゼーレは決裂しています。
 旧劇場版で一度だけ対話の機会がありますが、ほぼ処刑宣告のような状態。

 そして、初号機の前で独白するゲンドウ。ゲンドウの計画にも、すべての使徒殲滅が必要であることがわかります。そして、ロンギヌスの槍も邪魔。
 「ゲンドウとユイ」が何を考えていたのか、というのは以前取り上げましたが、現在のゲンドウの願いはユイとの再会です。これについては、詳しくは劇場版で取り上げます。ポイントは、「ユイを人間に戻そうとしているわけではない」ということです。

 三人目のレイは、何故自分がここにいるのかわからない。
 レイが人のカタチをして、しかもその年齢で居ることには相応の理由があるわけなのですが。それはレイというよりも大本のリリスに関係します。詳しくは、次回の連載で。

 ミサトさんはペンペンを手放すことを決意。「家族」に対する憧れがあったミサトさんにとって、これは自分が築いてきた「家族ごっこ」に自ら引導を渡す行為でもあります。かなり酷なことだと思いますが、どうしてだろう……頭に「自業自得」の文字がチラついてしまうのは……。
 ペンペンは洞木さん家に。アスカもペンペンも洞木さんに引き取り

 カヲルくんとイチャイチャするシンジくん。
 攻め手だけでなく、シンジくんの話を聞くモードに。
カヲル「人間が嫌いなのかい?」
 父さんは嫌いだけどそれ以外はどうでもいい、と言うシンジくん。どうでもいい、というより自分のことに手一杯で周囲を気にする余裕がない、という感もあります。
 どうしてこんなこと話すんだろう、エヴァにおいては気を許してる表現としてよく出てきます。
カヲル「僕は君に会うために生まれてきたのかもしれない」
 10分足らずの間に2回も告白してくる。滅茶苦茶生き急いでいる。

 カヲルくんはエヴァと自由にシンクロできる。「シンクロ率を自由に設定できる」とのことですが、まぁ、シンクロ率という数字にはそこまで意味がないよな、という話でもあります。前にも言いましたが、エヴァ(とパイロット)のやる気ゲージみたいなもんではないでしょうか。

 リツコに面会するミサト。「ここでの会話録音されるわよ」とのことですが、「迂闊なこと言うとミサトも消されるよ」ということでもあるでしょう。監禁されていても、カヲルが最後の使徒であることに辿り着く赤木博士、流石です。

 さて、今回の山場に行く前に、ビデオ版追加シーンについて。
 ビデオ版だと、実はカヲルとゼーレの打ち合わせシーンがあります。タイミングとしては、シンジとカヲルが一緒に眠った後。
 長いので要約しましょう。気になる人は、DVDとか……買ってね!(販促)
・ゼーレは具象化された希望を追い求めている。その希望とはアダム、リリスである。
 この辺は、前に書いた「アダム(とリリス)を使って不死になろう計画」の話だと思います。地味に「リリス」のネーミングはここが初出になるはず。
・復元されたアダムの肉体はゲンドウの手の中にある
 これを聞いて「ゲンドウが自分と同じ」とカヲルくんは呟きますが。これは、「手の中(物理)」です。つまり、「アダムと融合した人類」、使徒とのハイブリッドであることを指して同じ、と言っているのか。それとも、在り方の話なのか。どちらでしょうか。
 この辺、ミサトさんの言動がミスリードになっている感もあります。またミサトさんか。
 あとは、「ゼーレの希望をゲンドウが封じ込めようとしている」という話。この辺も、前に書いたゲンドウの立ち位置の話です。
 そして、ゼーレの「希望」を嗤うカヲルくん。しかし、「そのために僕はここにいる」とも言います。

 ……まぁ、オリジナルのアダムからしたら、他所のうち(リリス)の子が自分のとこの使徒を倒して、その力で不死になろうとしている、という話なわけで。とんだカッコウの托卵ですが。

 というわけで、いよいよ今回のクライマックス。カヲルが使徒としての力を以て弐号機を操り、セントラルドグマを降下。
 テンポよく嚙み合った戦闘シーンとBGMの歓喜の歌、初号機と弐号機の対決。深淵な世界観の開示、情報の洪水が同時シンクロし、『これぞエヴァンゲリオン』という超名シーンです。
 そして、カヲルくんの口から真事実がポロポロ出てくるので、本連載的にも気を引き締めて掛かる必要があります。

カヲル「行くよ、アダムの分身。そしてリリンのしもべ」
 リリンというのは初登場ですが、人類のことらしいです。
ゲンドウ「老人は予定を一つ繰り上げようとしている。我々の手で」
 最後の使徒を自分達の手で作り出し送り込む、という行為を指している可能性もありますが。それで順番繰り上がるものなの? という疑問。
 と、ここで気になるのがエヴァにおける魂と、カヲルと同質の存在である綾波レイのシステム。
 レイは死亡するとクローンボディに魂が移って復活する仕組み。カヲルくんも、後々エヴァ量産機がダミープラグを搭載していることから、クローンボディ自体は存在すると考えられます。
 ですが、今回死亡してから、特に劇場版までに復活した様子は無し。じゃあ、魂はどこに行ったの?
 なんと、近所にゲンドウが持っている「復元されたオリジナルの肉体」があるじゃないですか。
 そんなわけで、ゼーレの「予定を繰り上げる」とは、「オリジナルの魂が宿ったアダム(幼体)」を作り出す、というところではないでしょうか。レイを使ってリリスを手中にしようとしたゲンドウ同様、一度カヲルという姿を経由することで、オリジナルのアダムを意のままにしようとしたのかもしれません。失敗してますけど。

 あと、前回のアルミサエルで「使徒が過去の使徒の形質を引き継いでいる」という疑惑が出てきました(追記参照のこと)。セカンドインパクト時にアダムのガフの部屋が熱滅却処理されていたことから、実は使徒も同じ魂を使いまわしていたのかもしれません。

 ゼーレの皆様、登場。実は、ここも台詞が違います。テレビ版だとゲンドウへの手向けの言葉になっていますが、ビデオ版だと
ゼーレ「ヒトは愚かさを忘れ同じ間違いを繰り返す」
ゼーレ「自ら贖罪を行なわねば、ヒトは変わらぬ」
ゼーレ「アダムや使徒の力は借りぬ」
ゼーレ「我らの手で未来へと変わるしかない」
 ということらしいです。ここまで連載を追ってきた皆様なら、もう突っ込める筈です。同じ過ちを繰り返してるのはお前達だろ。
 あと、カヲルくんの力をメッチャ借りてるんですが、それはセーフ判定なんです?
ゼーレ「初号機による遂行を願うぞ」
 消去法で残りのエヴァ初号機しかないんで、単純に「カヲルを使徒として処理してね♡」という話かもしれないし、初号機が特別なエヴァであることを受けての台詞かもしれません。

 初号機、出撃。友達が使徒だと聞いて取り乱すシンジくんに、
ミサト「事実よ、受け止めなさい」
 ミサトさんはもうちょっと言い方というものがあると思います。
 とはいえ、シンジくんも「使徒でも友達」みたいな方向には行きません。ちなみに、エヴァンゲリオン2だと、トウジとシンジの熱い説得でカヲルくんが味方になったりすることもあります。
シンジ「アスカ、ごめんよ」
 今回のバトル、シンジが弐号機というアスカの誇りを自ら傷つける話でもあります。アスカ元気だったら絶対どつき回されてるぞ……。
 カヲルくん、本気で勝ちに行くなら冬月の懸念通り弐号機と融合するなりして光の巨人になっていたと思われるので(可能かは後述の理由で微妙なラインですが)、多分舐めプしてます。まずポッケから手を出せ。

カヲル「エヴァは僕と同じ体で出来ている」
 これは、「(初号機以外の)エヴァは僕(アダム)と同じ体で出来ている」なんですよね。ビデオ版でゲンドウを同じ認定していたことの延長かもしれません。
カヲル「魂さえなければ同化できる」
 エヴァ本来のシステムとは無関係に弐号機を操縦してますよ、という話。或いは、「エヴァには魂があるから同化できないよ」という話。弐号機の魂は閉じこもっているそうですが、これはアスカの不調、他人の拒絶がエヴァの様子と連動しているのでしょう。初号機はなにかと自我が強い機体ですが、弐号機はアスカに拒絶されて閉じ籠っている様子。
カヲル「心の光。リリンもわかっているんだろう?ATフィールドは誰もが持っている心の壁だということを」
 翻訳すると、前にも少し触れた通り、人の姿を形作っているのはATフィールド、ということであり。同時に、使徒も心を持っている、ということでもあります。
 万一の場合、本部を自爆させる算段をするミサトと日向。
カヲル「人の定めか……人の希望は悲しみに綴られているな」
 と、急に強力なATフィールドを張りはじめるカヲルくん。
 この台詞、多分ミサト達の相談を受けてのものと考えるのが自然なんですよね。自爆されると面倒なのでATフィールドで覆い隠した、という感じでしょうか。

 そして、初号機に追い縋る弐号機。アスカそのもののようで辛さがある。
 深淵にてカヲルを見下ろすレイ。自分の為すべきことがわかったのか、それともカヲルに引き寄せられたのか。特に干渉する様子はなく、見守るだけ、というのを覚えておきましょう。万一の時にはリリスと融合するつもりだったのかもしれません。

 カヲルとレイが発生させたATフィールド。恐らくですが、アダム、リリス由来の能力でしょう。使徒の大本の存在なので、不思議は無い。この後にの旧劇場版にも絡んでくる要素です。

カヲル「違う、これは……リリス? そうか、そういうことかリリン」
 そしてカヲルくん、此処に来てまさかの勘違いです。
 多分、ビデオ版の会議で「ゲンドウの手中には復元されたアダムがある」と吹き込まれたせいもあるでしょう。
 とはいえ、ビデオ版の会議シーンでは、リリスの存在はゼーレも把握しています。黒き月でもあるネルフ本部にリリスがあることはカヲルくんも知っている筈。
 じゃあ、リリスはどうなってると思っていたの? という疑問が残ります。恐らくですが、「エヴァ初号機とは別にリリスがあること」を知らなかった、という話なのかなと。リリスはエヴァ初号機に改造されたと考えていたなら筋は通ります。

 そして、ジオフロントに存在するのは、復元されたアダムではなくリリス。カヲルくんも、ゼーレに騙されていたわけです。やっぱ知恵の実のない生命体はだめなのでは……。

 そして現れる初号機。トドメを刺された弐号機。
カヲル「そうしなければ彼女と生き続けたかもしれないからね」
 とのことですが。この辺、シンジの優先順位が垣間見えます。アスカ(弐号機)よりもカヲルが優先。出てきてないのにアスカさんまた負けてる……(22話ビデオ版参照)。
 しかし、そのカヲルくんもシンジは握り潰してしまうわけで。じゃあ、シンジくんが一番大事にしたものって、何? というのは割と大事な話かと。

カヲル「滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれないんだ」
 使徒との戦いが、アダム由来生命とリリス由来の生命の生存競争である、という物語の根幹に関わる設定の開示です。
 レイ(リリス)を見上げ、困ったような顔で微笑むカヲル。レイがめちゃ怖い。この辺、「綾波レイ」がそもそも何のために存在するのか、という話でもあり。

 カヲルくんが最期に口にしたのは、「君達には未来が必要だ」という祝福と感謝の言葉でした。そして、リズミカルなシーン切り替えから、放送事故かと思わんばかりの静止。あまりにも極端な動と静。
 如何なる苦悶があったのか、彼がその瞬間どんな顔をしていたのかは描かれませんが。シンジくんは、友達を握り潰す選択をします。自分達の未来のために。

 さて。何故カヲルくんは何故死を選んだのでしょうか。
 まぁ、実はクローンボディあるからリスポンできる説もありますが。それは今回置いておくとして。ざっと事情を振り返ってみましょう。
 まず、ここまでの企みとして、ゲンドウの提唱した人類補完計画は、リリスまたは初号機を使って人類を進化させてもらうこと。ゼーレの計画も基本的には同じで、対象が自分達だけ、他の人類は知らん、という感じ。なので、ゼーレは人類補完計画を隠れ蓑に、自分達の計画を推し進めていた、というのが現在までの流れでしょう。そして、この計画はどちらも「サードインパクトを起こす」ことが前提となります。更には、使徒もリリスとの接触でサードインパクトを起こし、人類を滅ぼそうとしています。
(追記注 20210113)
 前にも触れた気もしますが、念のため加筆。「使徒の狙いがアダムではなくリリス」というのは、エヴァンゲリオン2の機密情報にも記載があります。大半の使徒の狙いとしては、リリス、というよりも生命始祖へ融合し覚醒させることで、人類をLCLに還元しリセットする……使徒版の「サードインパクト」を起こすことにあるとにあると考えられます。多分、機能的にはアダムとリリス(with 生命の実)のどちらでも良いのですが、アダムの本体はセカンドインパクトで粉々になってしまったので、リリスを狙っていると考えるのが自然でしょう。勿論、使徒の中にも目的がよくわからないヤツはいます。
(追記ここまで)

 なので実は、今まで繰り広げられてきた戦いは、実際のところ「サードインパクトの主導権争い」であり、人類がアダムを目覚めさせた時点で、サードインパクトはどのみち起こる運命なんですね(ゲンドウ独自の計画もあるのですが、それは後で触れます)。

 そして何より。カヲルくんはシンジくんに好意を向けていて、シンジくんは、最終的には親友を殺してでも「生きたい」と願った。それがどれだけの苦痛と後悔を伴うとしても。それがカヲルくんにとって答えなのです。

 ドグマにあるリリスを見て、あるいは実際にネルフ本部に来てみて。カヲルくんは「初号機とは別にリリスを確保している」ゲンドウの真意と計画を察したのでしょう。
 カヲルくんは、シンジを生かすため、ゲンドウとユイの計画に乗ることにした。だから「ゼーレの計画通り」死を選んだ。という感じなのかなーと。

 さすがシンジくんの父上って新劇でも言ってるし、ゲンドウの計画に気付くか、がカヲル君にとってのターニングポイントなのかもしれません。

 そして本編。初号機を見つめるゲンドウとレイ。
 対話するシンジとミサト。カヲルくんには好きと言えなかったシンジ。友達を殺してしまった後悔で自分を責めます。
ミサト「違うわ。生き残るのは、生きる意志を持った者だけよ。彼は死を望んだ。生きる意志を放棄して、見せかけの希望にすがったのよ。シンジ君は悪くないわ」
 ミサトさん、最後まで或る意味ブレません。苦悩の末に友達を手に掛けた人間にここまで言えることある!? 人の心を扱った作品で、ここまでのことができるなんて、ミサトさんくらいですよホント。シンジくんもドン引きしてます。
 まぁ、この辺の鎌倉武士みたいな死生観が劇場版だと幸いするんですけど……。
 あと、地味に「生き残るのは、生きる意志を持った者だけ」というのは作品テーマと絡んでくるところです。

 さて、次回について。
 本来なら、テレビ版25話、または劇場版25話に進むところなのですが……実は、エヴァの最終的な結末を「わかる」ためには、まだ大きく欠けているピースが幾つかあります。
 と、いうわけで。まずは少し回り道をして、それを埋めるところから始めましょう。次回、劇場版『Evangelion: DEATH (TRUE)2』。
 遂に、レイの秘密が明らかになるかもしれません。

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