見出し画像

群馬県のデジタル人材育成 Part3

未来のデジタルクリエイティブを育成する両輪の仕組み
〜 tsukurunとTUMO

未来のトップデジタルクリエイティブ人材を育てるtsukurn
 
2023年10月にデジタル人材育成学会として群馬県に訪問し、「tsukurun-GUNMA CREATIVE FACTORY-」の取材をしました。群馬県産業経済部戦略セールス局eスポーツ・クリエイティブ推進課クリエイティブ推進係 南齋氏とtsukurunマネージャーの滝澤氏にインタビューし、デジタル人材育成拠点としてのtsukurunの魅力や育成の課題、今後の展望についてお聞きをしています。
 
tsukurunは群馬県新総合計画の3つの柱の一つである「クリエイティブ産業の拠点化」を目指すための重要なデジタル人材育成のフラグシップ拠点です。「習うより慣れよう、学ぶより遊ぼう」という育成コンセプトをベースに、全国初の小中高生向けのデジタルクリエイティブ人材拠点として2022年3月に産声を上げました。2023年11月現在、tsukurunの登録者数は約1000名程度で小学生5割、中学生3割、高校生2割の比率で参加登録をしているとのことです。前橋駅前にあるtsukurunには放課後帰りや土日に多くの子供達が集まり、楽しみながら最先端のデジタル技術を学んでいます。開設してからまだ1年半ですが、中には300日程度すでに通っている受講生もいるほど、未来のデジタル人材にとって魅力的な学びの場となっています。


※ tsukurunのロゴも著名なデザイナーによって作成されている。

筆者も直接施設を見学しましたが、最先端のデジタル機材やソフトウェアで創作活動ができるようになっており、また子供向けというよりも企業オフィスに近いスタイリッシュな環境で学ぶ魅力を思う存分に感じました。3D/2D CGを創作する、VFXを体験する、Unityなどのゲームプログラミングを行うのに十分なスペックを持つコンピュータや、モーションキャプチャ含め動画撮影をできるスタジオ、またプロのクリエイターを招いてプレゼンテーションが聴講できる環境など、いずれをとっても最先端の学びの環境を提供する心意気を感じます。南齋氏・滝澤氏両名が、「世界標準のプロ仕様のツールを子どもたちに早期に使ってもらうことで、一流の技術に触れる機会を創って、プロと同じ環境でアウトプットする楽しさを提供したい」と自信を持って述べていたのが印象的でした。


前橋駅アクエル2階にあるtsukurunの施設(筆者撮影)

実際このtsukurunに通っている小中高生が作成したデジタルアートなどの作品を見ると、子どもたちの潜在能力の高さに感動を覚えるほど、デジタルツールをしっかりと活用してアウトプット=クリエイティブを作り出していることがわかります。
 
「習うより慣れよう、学ぶより遊ぼう」というコンセプトのもとで、tsukurunでは講義形式ではなく、フランス発のエンジニア養成機関である42 と同じくコーチング形式で子どもたちの自主学習を重んじています。ティーチングスタッフが常駐し、子どもたちの自律的な学びをサポートする体制を敷いているのが特徴です。一方で22年3月に開設してから一年半が経過し、実際に教育を行う上で見えてきた課題も見えてきています。それは、誰もが参加できる教育機関だからこそ、受講する子どもたちの能力に様々なレベルがあるということです。よって、学びたいマインドセットを持っていても、基礎力が不足しており、なかなか作品を思うようにアウトプットできない受講生もいるとのこと。

そこで「tsukurun放課後塾」という形で「デジタルクリエイティブ体験会」「Adobe Frescoを使った初めてのデジタルペイント講座」「Adobe After Effectsの基本を学ぼう」など基礎講座を開催する改善活動を開始。この基礎講座を受けた子どもたちは「飛躍的にスキルアップのスピードが上がった」(滝澤氏)とのことです。コーチング方式を取るとしても、デジタル人材育成にはやはり基礎的な講座のようなインプットが必要という証左かと思います。


またtsukurunではプロの現場で活躍するクリエイターとの「出会い」も大切にしています。日本を代表するVRアーティストやアニメ制作やゲームのプロデューサー、世界最大の動画配信サービスプラットフォームであるNetflixのアニメクリエイティブチームチーフプロデューサーを招聘し、講演を行うなど、デジタルクリエイティブ人材のロールモデルを子どもたちに見せる、いわゆる「キャリア教育」を行っていることも特徴の一つと言えるでしょう。
 
更にデジタルクリエイティブコンテストという形で群馬県内在住または県内の学校に通う小中高生を全体を対象として、「デジタル映像」「3DCG」「2DCG」「デジタルゲーム」などのクリエイティブ作品のコンテストを行い、子どもたちのアウトプットの場を持っていることも素晴らしいことだと思います。2023年度は生成AIの活用も認め、コンテストを行ったとのことでした。
 
tsukurunの今後の展望についてお伺いすると、一つは前橋市をメイン拠点とするtsukurunを他の市内拠点にもサテライトキャンパスのような形で設置をしていきたいとのことでした。やはり県内全域で育成を図るには、県だけでなく市なども巻き込みながら広くノウハウを共有し、裾野を広げていく活動が必要であると認識しました。また教育コンテンツとしても、さらなる充実を図っていきたいとことで、すでに取り組んでいるメタバースや生成AIを含め、「tsukurunの受講生にさらなる最先端のデジタル技術を学んでもらうために、ティーチングスタッフのスキル向上にも努めていきたい」と滝澤氏は語られていました。
 
このtsukurunという2040年に群馬をデジタルクリエイティブ拠点にする未来投資のプロジェクトは、本気で群馬県の未来のことを思う県庁職員とtsukurunのスタッフの素晴らしいタッグで実現していると感じます。tsukurunマネージャーの滝澤氏は「将来的にはこのtsukurunで学んだ受講生が、またtsukurunの講師として戻って陸続と群馬県内のデジタルクリエイティブ人材を育成していってほしい」と熱く語れば、県庁職員の南齋氏は「必ずしもデジタルクリエイティブ人材になるだけでなく、新しいものを身につける技術とマインドセットを持った人材として広く活躍してもらい、その結果として群馬県内でデジタルクリエイティブ拠点の集積地なっていければいい」と冷静に語られており、ミクロ・マクロ両方の視点でtsukurunが運営されていることが非常に良いバランスを生み成功要因の一つと感じました。筆者もこの学び舎で学んだ受講生はデジタルクリエイティブのプロフェッショナルになる方もいれば、プログラマーなど他のデジタル分野の職種につく動機を持つ子供達も多くいるのではないかと感じました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?