お腹が弱い女の日常


私はお腹が弱い。

これは父からの遺伝なのでどうしようもない。常に胃薬を持ち歩き、「ちょっと今日はまずいかもしれない…」という予感がした朝は保険として漢方薬を飲んで行く。

冷えは大敵であり、どれだけ暑い日でも冷たいジュースを一気飲みするのを躊躇ってしまう。夏でも冷え対策のショーツを履き、酷いときはカイロや腹巻きもつける。

牛乳を飲むと高確率でお腹を壊す。例えそれがホットだとしても。給食で毎日のように牛乳を飲んでいた小中時代は気合いで乗り切っていたが、高校に入学した途端全く飲まなくなったため耐性がなくなってしまったのだろう。ちなみにコーヒー牛乳やカフェラテはたまに嗜むが、毎回それなりの覚悟をもって臨んでいる。


まあこんな感じでいろいろ言ってみたが、腹の弱い人間が最も恐れているのは、実は「お腹を壊すこと」ではないのかもしれない。
例えお腹を壊したとしても、家にいるときや買い物の途中、時間に余裕のあるときならお手洗いに駆け込めばなんとかなる。個室の中では必死で神に祈るが、やるべきことは「腹を正常に戻す」ことのみ。脇目も振らず全神経を"それ"に集中させることができる時間は、ある意味幸せであろう。

問題はお手洗いに行けないタイミングでの腹下しである。
例えば電車の中。急いでいるとき、車内にお手洗いがないとき、なかなか次の駅に着かないとき、満員で身動きがとれないとき…。こんな状況で腹を下そうものならもう…考えただけでも恐ろしい。
私は高校時代電車で通学していたのだが、年に数回ほどこの恐るべき状況に遭遇した。私の地元は田舎だったので満員ではなかったものの、爆発寸前の腹を抱えて車内のお手洗いに行く勇気も途中駅で降りる勇気もなく、ただひたすら目的地に着くのを待つしかなかった。高校の最寄り駅のお手洗いには何度もお世話になったものだ。

また、授業中というのも恐ろしい。あの静まり返った教室で突然立ち上がり、先生の許可をもらい退室する…というのはなかなか度胸がいるものである。
また高校の話になるが、私の高校の教室は生徒数と部屋の広さが全く釣り合っておらず、隣の席との間隔が20センチ程度というパーソナルスペースガン無視状態だった。まず席を立った時点で、周りからは「こいつ、何だ…?」という目で見られる。その好奇の視線を浴びながら、「ちょっとごめんね」とヘコヘコして狭い通路を通り抜ける。やっとの思いで教壇に着く頃には教室中の晒し者。最後の難関、目の前にいる先生に小声で「すみません、お手洗い行ってきていいですか」…

「そんなこといちいち聞かなくていいよ(笑)」



確かにそうかもしれない。高校生になってまで、お手洗いに行く許可を取るなんてバカげているかもしれない。きっとこの先生は親切でそう言ってくれたのだろう。

でも考えてみてほしい。授業中、生徒が急に席を立ち、何の許可もなく教室を出ていったら周りはどう思うだろうか?察してくれる人もいるだろうが、?「とうとう気が触れたか?」と疑われても仕方ないじゃないか。サボりだって疑われるのも嫌だし…。

このような「この先生にはお手洗いに行く許可を取るべきか取らないべきか問題」はかなり厄介である。これがさらに私の腹にダメージを与えていると言っても過言ではない。学校の先生方には、ぜひ新学期に「お手洗いに行く際の許可がいるか・いらないか」の意思表示をお願いしたい。どれくらいの腹難民が救われることだろうか。


こんな感じで、お腹の弱い人間には数々の敵が存在する。腹痛の怖いところは、いつでもどこでもその敵が襲ってくる可能性があり、さらに爆発の恐れまであるということだ。電車内であれ、朝であれ、テスト中であれ、仕事中であれ、あいつらはお構い無しに襲ってくる。しかも我慢すれば何とかなるという訳ではない。
私たちにできるのは、なけなしの予防線を張ること、お手洗いの場所を把握しておくこと、時間に余裕を持っておくこと、そして周りの人間がお腹を壊したときに温かな目で見守ること。そのくらいである。嗚呼、無力なり。

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