古事記にもそう書かれている【古事記の面白キーワード解説】

古事記、面白いのですよ。
歴史書なんですが、ドラマとしても面白いんです。
という話をします。

私、株式会社闇のトンカ(@tonka1981jp)と申します。
株式会社闇っていうのはホラー専門の制作会社です。

ホラーみたいな創作仕事をしておりますと、日本神話を扱う機会が多いんですね。そしてそのルーツを探ってると、結局すぐに古事記にぶち当たります。古事記にもそう書かれている、古事記にもそう書かれている…の嵐。
改めてよくよく見回してみると、漫画にも映画にもゲームにも古事記出典のモチーフやネタが溢れています。調べ物をしてたどり着いたWikipediaの関連項目、行き着く先は必ず古事記なのか、そう思う瞬間があなたの人生にもきっとあったはず…。

古事記って現存する日本最古の歴史書として教科書で習うんで、てっきり堅苦しい内容かと思ってたんですが、いざ読んでみると印象がまるで変わります。
登場人物が実に活き活きと描かれ、現代人と同じように悩み、喜び、成長する物語としての面白さが詰まっていています。文学として、ドラマとして読んでて楽しいのです。太古の神々の悩みに共感を覚えるとき、ああ、今も昔も人の心は変わってないんだなぁと実感します。
そして冒頭でも申し上げた通り、現代のカルチャーにも千数百年の時を超えて影響を与えまくっています。そりゃ、納得の面白さ。

「元ネタを知ってる」「古事記にもそう書いてあった」と思えるので教養としても読んで損はないですよ。

ただ、きっかけがないと、なかなか読む機会もないと思います。ですので今日がそのきっかけになればいいなと思い、古事記に出てくる面白キーワードを順に紹介していきます。

そもそも古事記とは
今から約1300年前、西暦712年に編纂された現存する日本最古の歴史書です。編纂を命じたのは天武天皇。記憶力の天才、稗田阿礼が覚えた文献を太安万侶がまとめて完成させました。作られた目的は、過去の歴史書が燃えてしまったので、それに代わる天皇家の統治の正当性を語る書物を創ることが最大の目的でした。
ちなみに古事記の8年後に編纂された日本書紀。大雑把に言うと古事記と日本書紀はほぼ同じ内容です。同じ歴史を編纂してるので。ですが作られた目的が違います。日本書紀は海外に通用する日本の正史を記すことが目的でした。なので古事記と比べると日本書紀の文学色は抑えられています。
※以下紹介するエピソードの一部では日本書紀の補完が含まれています

天地開闢(てんちかいびゃく)

最初の世界が作られたその瞬間、のお話です。
どんな神様がいて、どう始まったかを超簡素に紹介しています。
天と地が分かれたときに造化三神と呼ばれる最初の3柱の神様が現れます。
それで原始の世界ができるんですがその描写として「水に浮いた脂みたいなもん、クラゲみたいなもん」って書かれてるぐらいまだ世界はフワフワしています。

造化三神(ぞうかさんしん)

天地が分かれたときに最初に現れた3神です。
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
高御産巣日神(たかみむすひのかみ)
神産巣日神(かみむすひのかみ)
天之御中主神がセンターポジションです。名前的にも。なんですが天地開闢後すぐに隠れてその後登場しません。神様は役割を終えると基本隠れます。死みたいなものですが厳密には死とイコールではない。ただ隠れた後にたまに登場する神様もいます。
天地開闢の際に、さらにあと2柱現れてまして、その5柱を別天津神(ことあまつかみ)と言います。要はすごいメンバーです。神ファイブ。でも古事記の記述としてはほぼ出てこない。

伊邪那岐・伊邪那美(イザナギ・イザナミ)

最初の主人公ポジション。イザナギが兄でイザナミが妹。さっきの別天津神誕生の更に後にポコポコっと生まれた神様グループのうちの2柱です。このポコポコっと生まれた神様グループを神代七代って言いまして、イザナギ・イザナミは神世七代の最後に生まれた神様です。
イザナギ・イザナミは上の神様の指示で「漂ってる国を固めろ」という司令を受けます。有名な国産みエピソードの始まりです。

国産み

イザナギとイザナミが、上の神様からもらった天沼矛(あめのぬぼこ)という矛で海水をかき回して引き上げて、滴る海水から「島」を作ります。
この島が有名なオノゴロ島です。
そこにイザナギとイザナミが降り立ち、柱を立てて、お洒落でセクシャルな会話をします。そして二人で別方向に柱を廻り出会ったところでまぐあいます。(まぐあうと島や神が生まれるのです)
その際の出会ったときのセリフがかっこいいです。
イザナミ「あなにやし、えをとこを」(なんとええ男)
イザナギ「あなにやし、えをとめを」(なんとええ乙女)
明日から使っていきましょう。
順調にまぐあいましたが、まともな子が生まれません。
理由は、イザナミ、つまり女の子から声をかけたからでした。うまくいかない理由がわかったので、イザナギから声をかける形で再びやり直しました。
そうすると無事、日本の島々を生むことができました。

ちなみに、このあたりのストーリーはアジア中の神話にもある「洪水型兄妹始祖神話」と共通点があります。(洪水は起きてないですが)
※洪水型兄妹始祖神話:洪水によって全滅した地域の中で生き残った兄妹が住民の祖となる神話

神産み

日本の島々を産んだ後、さらにイザナギとイザナミは神様もポコポコ生みます。そして火の神様であるカグツチを産んだときに、イザナミは陰部に火傷を負い、その火傷がもとで隠れてしまいます(≒死)。イザナギはカグツチに怒ります。そして天之尾羽張(あめのおはばり)という神剣で、カグツチの首を切り落としてしまいます。

ちなみにイザナミ火傷の際の嘔吐や便、イザナギの涙、カグツチの血、カグツチの死体からもポコポコ神様が生まれます。

黄泉國(よもつくに)

イザナギは、イザナミが隠れてしまったことに耐えられず、彼女を追って黄泉國に行きます。イザナギ・イザナミ編の一番ドラマティックなシーンです。イザナギはイザナミに元の世界に帰ろうと説得します。

黄泉國は現実の世界との出入り口があります。その出入り口を黄泉比良坂(よもつひらさか)といいます。この時代の「」は「」の意味も含んでるんですね。
以降のエピソードはは、異郷訪問譚行きて帰りし物語の流れになっています。
※異郷訪問譚:現世から異郷を訪れる話。「浦島太郎」など。
※行きて帰りし物語:主人公が非日常世界に赴き、試練に打ち勝って、また日常世界に帰ってくる話。


黄泉竈食い(よもつへぐい)

イザナギはイザナミを説得しますがイザナミはしぶります。その理由としてイザナミは「黄泉國のものを食べてしまったので、勝手に帰れないんです」と言います。死者の世界のものを食べると勝手に帰れないというルールがあるというのです。異世界のものを食べて帰れなくなるというのは、ギリシア神話(ハデスとペルセポネーのくだり)でもできてきますね。千と千尋の両親も異世界の食事をきっかけに帰れなくなってます。

見るなのタブー

以降は典型的な見るなのタブー型神話となります。
イザナミは帰るために黄泉國の神様に相談しようとしますが「その間は私
を見ないでくださいましね」とイザナギに約束させます。が、イザナギは我慢できずにバッチリ見ます。見るとイザナミの姿は蛆まみれ・悪霊まみれでイザナギは驚いてしまいます。
ちなみに腐敗などで死を確認する儀式を(もがり)といいます。
イザナミは「恥をかかせましたね!」とブチギレます。逃げるイザナギを追うため黄泉醜女(よもつのしこめ)という足の早い鬼女を放ち、それで駄目なら悪霊(雷神)を放ち、1,500人の鬼軍隊を放ちます。それでも駄目なのでイザナミ自ら直接追いかけてきます。イザナギはインディー・ジョーンズのように都度都度、機転を利かせてピンチを切り抜けます。最後にはイザナミは黄泉平坂の出入り口を千引石(千人の力がいる重さの石)で塞いでしまいます。
その最後のやり取りもかっこいいです。
イザナミ「汝が国の人草、一日に千頭絞り殺さむ」(あなたの国の人間を一日千人を殺します)
イザナギ「吾一日に千五百の産屋を立てむ」(それなら一日千五百人の産屋を立ててみせよう)

見るなのタブー型神話は世界中にあまねく存在しますが、ギリシア神話に登場するオルペウスの冥府下りはほとんどプロットが同じですね。
※見るなのタブー:何かを「見てはいけない」と禁止されるが、それを破って悲劇的な結果が訪れる話。「鶴の恩返し」など

三貴神(みはしらのうずのみこ)

イザナギは黄泉國でひどい目にあったので(みそぎ)をします。その際にまたポコポコ神様を生みます。杖を捨てては神を生み、衣を捨てれば神を生み、褌を捨てれば神を生み、汚れを落とせば神を生み…。
そして最後に、イザナギが左目を洗ったときに生まれたのがアマテラス大御神、右目を洗ったときに生まれたのがツクヨミ、鼻を洗ったときに生まれたのがスサノオです。この3柱を三貴神と言います。アマテラス大御神とスサノオが次の主人公たちですね。

アマテラス大御神(あまてらすおおみかみ)

日本神話のメイン神様と言っても過言ではない、すごい神様です。天界を統べる存在であり太陽をつかさどる女神様です。弟のスサノオに手を焼いてる。

スサノオ

トラブルメーカー
イザナギに「海の神様になって海を治めなさい」と命令されます。しかしスサノオはヒゲが胸につくまで成長しても、ただただ泣き続けました。その間に世界の治安が荒れまくります。イザナギがスサノオに「なぜ泣いてるの?」と聞くとスサノオは「母さん(イザナミ)に会いたい、そのために黄泉國に行きたい」と答えました。それを聞いてイザナギは「なら出ていけ!」と追い出します。その後は様々なトラブルを巻き起こしたり巻き込まれたり

高天原(たかまがはら)と葦原中国(あしはらのなかつくに)

高天原はアマテラス大御神たちが住む天の世界です。ここに住んでる神様は基本格上で天津神(あまつがみ)と呼ばれます。
葦原中国は地上世界です。私達が生きてる世界。ここに住んでる土着の神様は国津神(くにつがみ)と呼ばれます。

アマテラス大御神とスサノオの誓約(うけい)

スサノオは国を離れる際にアマテラス大御神に挨拶するため、高天原に向かいました。しかしアマテラス大御神は「スサノオが来る=大トラブルに発展する、最悪国を乗っ取られる」と思ってるのでアマテラス大御神はスサノオを完全武装で出迎えます。アマテラスは「何しに来たんですの!」と怒鳴り尋ねました。するとスサノオは「挨拶に来ただけで悪い心はありません」と反論します。ですがアマテラス大御神は信じることができません。そこでスサノオは「じゃぁ誓約(うけい)をしましょう」と提案します。

誓約とは神明裁判の一種で「正しいならこうなる、間違ってたらこうなる」と宣言して正誤を占う方法です。

アマテラス大御神とスサノオで互いの持ち物から子供を生み、その性別を当てることで自分たちの潔白を証明しようとします。
ただこの際の誓約の段取りは結構複雑でして、詳細は是非古事記を読んでみてください。(なんでスサノオの持ち物をアマテラス大御神が噛んで神様を生んだらスサノオの子になるんだ? スサノオの「私の心が清らかなので女の子でした。なので私の勝ちです」って後出しじゃないのか?)

ちなみにアマテラス大御神の勾玉をスサノオが噛んで生まれた子「天忍穗耳尊」が後の主人公である天孫ニニギ(天皇の先祖)のお父さんです。お互いに生んだ子を取り替えてるのでアマテラス大御神の子供という扱いです。つまり天皇家のルーツがアマテラス大御神にあるということです。

天岩戸(あまのいわと)

こちらも岩戸隠れで有名なエピソードです。
先程の誓約で勝ち誇ったスサノオは、調子に乗って、高天原の田の畔を壊し、御殿に糞を撒き散らし、機屋の屋根から皮を剥いだ馬を落とします。おかげで死人まで出る始末。調子に乗りすぎ。アマテラス大御神も最初は「弟はそんな悪い子じゃないんですよ、酔ってたんですかね〜、なにかの間違いじゃないですか〜」とごまかしてましたが、遂にかばいきれなくなって、天岩戸という洞窟に引きこもってしまいます。太陽を司る神様が隠れてしまったので高天原も葦原中国も暗闇の世界となって、あらゆる災いが起きます。
そこで高天原の神々が集まってどうするか思案します。
常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり)という海外の鶏を鳴かせてみたり。八咫鏡(やたのかがみ)という大きな鏡を作ったり。八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)という長い長い勾玉の首輪を作ったり。
そして仕上げに天岩戸の前で、アマノウズメという女神が桶の上でセクシーなダンスを踊り、それをみてたくさんの神々がにぎやかに笑います。
その気配を感じて「なんで笑ってらっしゃるの?」と顔を出した。そこでアマノウズメが「尊い神様が来るのでパーティーしてるんです」と答え大鏡を差し出します(この演出にくいですね)。鏡を見るために身を乗り出したアマテラス大御神を別の神様が引き出します。

神逐(かんやらい)

スサノオは高天原から追い出されます。あたりまえだ。
その際に財宝を治めさせ、ヒゲを切り手足の爪を抜かれます。神の追放を神逐といいます。

オオゲツヒメ

葦原中国に下ったスサノオはお腹が空いたのでオオゲツヒメに食べ物を求めます。オオゲツヒメはご馳走をスサノオに差し出しますが、そのご馳走は鼻の穴や口、尻から取り出していました。それを見たスサノオは「穢(きたな)い!」と怒ってオオゲツヒメを殺します。その死体からは蚕や稲種、粟や小豆、麦、豆ができました。
…両者やばいエピソードですが、こちらもハイヌウェレ型神話(世界中で見られる食物起源神話)まんまだったりします。超絶恐ろしいニューギニアの儀式マヨ祭儀(ググるな危険)もこの神話型です。
※ハイヌウェレ型神話:食物起源神話。神が体から価値あるものを出し、殺された神の死体から作物が生まれる。

ヤマタノオロチ

多くの日本人が知ってるエピソードですね。
出雲の国に降り立ったスサノオ。彼は川上から流れる箸を見つけたことから川上を辿り一軒の家を見つけます。その家の人が泣いてるのでスサノオが訳を聞きます。家の人は「ヤマタノオロチという怪物に毎年娘を生贄を捧げないといけない、今年もその日が来た」と言うのです。ちなみにこの家では、もともと8人の娘がいましたが、すでに7人の娘を生贄に出していました。
スサノオは「娘さんをくれ!(それならヤマタノオロチを倒します)」とさらりとスゴイことを言います。
ちなみにヤマタノオロチは8つの頭と8本の尾を持った、真っ赤な目の巨大な怪物です。その長さは谷8つ、峰8つにも渡るといいます。

そんな恐ろしい怪物と戦うためにスサノオの立てた戦法はこうでした。
・娘さんを櫛に変化させて連れてく
八塩折之酒(ヤシオリのさけ)という何度も醸した濃い酒を作れ
・垣をつくり8つの入口を用意しろ
・入り口ごとに8つの壺を用意しヤシオリの酒を入れろ
スサノオの作戦通り決行すると、ヤマタノオロチはそれぞれの頭を酒壺につっこみ酔っ払って寝てしまいました。スサノオは剣で大蛇の頭を切り散らしました。ヤマタノオロチの中から草薙剣(くさなぎのつるぎ)が出てきました。
ヤマタノオロチ編ではやたら「8」という数字が出てきます。「8」は
「たくさん」という意味が強く、スサノオとヤマタノオロチの戦いのスケールの大きさを強調しているようにも思えます。

そして、スサノオは櫛となった娘(クシナダヒメ)と結婚し、日本最古の歌を詠みました。

八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣つくる その八重垣を

最後まで8づくしで締めるのも、粋ですね。
こうしてスサノオはトラブルメーカーから、晴れて日本神話のヒーローとなった訳です。シン・ゴジラでもヤシオリ作戦として、この物語をオマージュした作戦が展開されます。

大穴牟遅(オオナムヂ)

ここから時代と主人公が変わります。今度の主人公はスサノオの子の子の子の子の子の子、つまり6代の孫に当たる神様、大国主です。
スサノオは高天原を追い出されて国津神になったので、ここで登場する大国主も国津神です。彼は出雲で国作りを完成させた偉大な神ですが、とても魅力に溢れた神様です。ここからはじまるエピソードは貴種流離譚の流れ、ヒーローズジャーニーの流れに当てはまります。
大国主がまだ若い頃のお話。当時は大国主という立派な名前でなくオオナムヂという名前でした。名前からしてトロそうです。事実、ヒーローとは程遠い存在でした。
※オオナムヂは正しくは大名持:土地の主という意味だそうです
※貴種流離譚:若い英雄が異郷をさまよい試練を克服して、立派な存在となる話
※ヒーローズジャーニー:ハリウッド映画の王道みたいな話。

因幡の白兎

オオナムヂは多くの兄弟神たちと一緒になって因幡(鳥取県)に向かっていました。彼らの旅の目的は因幡の女神ヤガミヒメと結婚することです。オオナムヂは下っ端で、他の兄弟神の荷物持ちをしていました。
その旅の途中で、怪我をしたウサギに出会います。ウサギは悶え苦しんでいました。
オオナムヂが訳を聞くと、ウサギは島渡りのためにサメを騙したというのです。数を数えてやると、サメを一列に並ばせて、その上をウサギは渡ってきたと言うのです。そのときウサギが勝ち誇ってサメを馬鹿にしたので、怒ったサメにウサギは毛を全部剥かれたとのことでした。
それで泣いていたところ、他の兄弟神に嘘の治療法を教えられたというのです。ウサギは傷口に海水を浴びたので、余計に苦しんでいたのだと言いました。
オオナムヂはウサギに正しい治療法を教えてあげました。するとウサギは「ヤガミヒメは他の兄弟神でなく、荷物持ちのあなたを選ぶでしょう」と予言します。

この島渡りのエピソードも世界中に類話があり、中でもインドネシアのお話はウサギが子鹿という設定でほぼそっくりな物語があります。

根の堅州国(ねのかたすくに)

オオナムヂは予言通りヤガミヒメと結婚することになりますが、他の兄弟神たちが嫉妬に燃え上がります。そして何かと理由をつけて兄弟神はオオナムヂを何度も殺します。(その度、女神様が生き返らせてくれます)
オオナムヂの母親が「ここにいたら滅ぼされるので逃げなさい」とオオナムヂを逃します。すったもんだでオオナムヂはスサノオのいる根の堅州国に向かうことになります。根の堅州国は超大雑把に言うと黄泉國です。
オオナムヂは根の堅州国に赴くと、そこでスサノオの娘スセリビメと出会い恋に落ちます。
ですがスサノオは辛辣で、オオナムヂに向かって「こんなブサイクは『葦原中国の醜い男』と名乗れ。蛇のいる部屋にでも泊めておけ」と言い放ち、酷い扱いをします。
スセリビメの機転でオオナムヂは無事朝を迎えます。ですがスサノオは「ムカデと蜂の部屋で泊まれ」「野に放った矢を拾ってこい(でも拾いに行ったら火を放つ)」「俺の頭のシラミ(という名のムカデ)を取れ」と無茶ばかりを言います。オオナムヂはスセリビメの機転に助けられながら全てのミッションをこなします。

大国主(おおくにぬし)

さすがのオオナムヂも我慢の限界。寝ているスサノオの髪の毛を屋根にくくりつけて、スセリビメと武具財宝を背負って逃げ出します
それに気づいたスサノオはオオナムヂを追いかけてきますが、髪の毛をくくられていたので追いつけず、黄泉比良坂(黄泉國の出入り口)で距離を離されたスサノオがオオナムヂに向かって叫びます。
盗んだ武具を使って他の神たちを追っ払い『大国主』と名を名乗れ!スセリヒメを正妻にしろ、この野郎!

むっちゃかっこいいシーンです。出会い頭に「『葦原中国の醜い男』と名乗れ」と言っておきながら、試練を超えたあと、娘が拐われながらも「『大きな国の主』を名乗れ」って。伏線回収しちゃうのいいですね。スサノオ〜!ってなりました。「この野郎」もこちらで勝手に足したセリフでなく「この奴」と原文にもあります。
事実、出雲に戻ったオオナムヂは腰抜けの荷物持ちではなくなり、武具を駆使し他の神を追い払い、オオナムヂは大国主となりヒーローとなって国を作り始めます
ちなみにヤガミヒメはその後、正妻スセリヒメの嫉妬が怖くて、子を産んだ後にすぐに実家に帰ります。

国譲り(くにゆずり)

大国主が完成させた葦原中国の出雲の国。その国を天津神が譲り受けるエピソードです。譲り受けるというか、乗っ取るというか…。

アマテラス大御神が複数の神を派遣して、大国主に「あなたの国を私達(の御子)に譲りなさい」と因縁をつけてきます。
ですがその度に、説得に訪れた神様を大国主が次々と懐柔していきます。
使者として派遣された神の1柱、アメノワカヒコに至っては大国主の娘と結婚し、8年ものんびり暮らしてました。
アメノワカヒコから報告もなく全く帰ってこないので、アマテラス大御神は心配します。雉を放って「なんで使命を果たさないのか」とアメノワカヒコにメッセージを送ります。しかし天探女(あめのさぐめ)がアメノワカヒコに「不吉な鳥なんで殺しなさい」とアドバイスし、雉はアメノワカヒコの放った矢で射殺されてしまいます。
(天探女は天の邪魔をする悪い存在として天邪鬼の由来元となります)
雉を射殺した矢は高天原のアマテラス大御神の元にまで飛んでいきました。矢を見て流石にアマテラス大御神はブチギレます。
「アメノワカヒコに不届きな心があれば、この矢でまがれ(身罷れ・禍れ)!」と得意の必殺誓約技を決めます。矢はアメノワカヒコに真っすぐ飛んでいき、彼を突き刺しました。

建御雷神(タケミカヅチ)

にっちもさっちもいかない高天原軍営は最終兵器として建御雷神(タケミカヅチ)を派遣します。建御雷神は雷の神、剣の神、のちの相撲の神です。つまり武力行使です
建御雷神は大国主に「私は天の使いです。あなたの領地を天が治めるべきと命令がありました。どうしますか?」と剣を突き刺してその上にあぐらをかいて尋ねます。ほぼ脅しです。大国主は「私にはなんとも言えないので息子2柱(事代主と建御名方)に聞いてください」と返事をして、息子たちに託しました。
さっそく建御雷神は大国主の息子である事代主(コトシロヌシ)に同じように尋ねると事代主は「謹んで天の神の御子に献上します」と言いました。そして事代主は天の逆手を打って隠れてしまいます。
※天の逆手(逆さまの拍手)がどういう意味かは分かっていませんが、呪いとしか思えない…。
次に建御雷神は事代主の弟で、力自慢の建御名方(タケミナカタ)を訪ねて同じことを聞きます。結果、建御雷神と建御名方で力比べをすることになります。ですが、圧倒的に建御雷神が強い。あまりの強さに建御名方は長野県の諏訪湖まで逃げます。そして「二度とこの地から出ません。出雲もぜひどうぞ差し上げます」と建御名方から言質をとります。
(なので建御名方は神無月でも諏訪湖を出ず出雲に向かいません)
息子2柱から承認を受けたということで大国主も観念し「子どもたちの言うとおりにしましょう」と葦原中国の中心地である出雲の国を天津神に譲りました。これが国譲りです。

天孫降臨(てんそんこうりん)

次の主人公はニニギ。アマテラス大御神の孫です。マテラス大御神の勾玉をスサノオが噛んで生まれた子「天忍穗耳尊」の子です。
国譲りで貰い受けた葦原中国を治めろ」という神勅(しんちょく)のために、ニニギは高天原から天降ります。マテラス大御神は孫が随分可愛かったようで、高位の神様たちもたくさんお供させます。三種の神器(八咫鏡・草薙剣・八尺瓊勾玉)も持って行かせます。
途中で道案内を申し出た国津神、サルタヒコと出会います。
※サルタヒコは鼻が長く天狗の原型ともいわれています。また道案内の神様なので後に道祖神(どうそしん)とも結びつきます。
サルタヒコの道案内のもと、無事にニニギは峰に降り立ちました。ニニギは「ここは大変吉い所だ」と言って、宮殿を建ててこの国に住みます。この降臨が天孫降臨です。

コノハナノサクヤビメ

ニニギは地上で美しい女神と出会います。コノハナノサクヤビメ(木の花の
咲く姫)という素敵な名前でした。サクヤビメにはイワナガヒメ(石長姫)という姉がいました。ニニギがサクヤビメに求婚するとサクヤビメは「父親に聞いてくれ」と返事します。ニニギはサクヤビメの父親に、改めて結婚の了承を得ようとします。父親はたいそう喜んでくれました。そして「姉のイワナガヒメも一緒に結婚してやってくれ」と妙なことを言います。しかしイワナガヒメは大変醜かったのでニニギはイワナガヒメを送り返します。
ニニギはサクヤビメと一夜を供にします

しかし父親が姉と妹を捧げたのには理由があったのです。姉イワナガヒメは名の通り石のように長い寿命を与えてくれる存在でした。妹サクヤビメは名の通り花のように栄える存在でした。ニニギは妹を得ましたが姉は得なかったので、栄える権利を得ましたが、長い寿命を得ることができなかったのです。

ちなみにこの話は典型的なバナナ型神話カテゴリーと言えるでしょう。
※バナナ型神話:東南アジア圏や旧約聖書でみられる死や短命を選んでしまう起源神話

サクヤビメはその後妊娠します。ニニギへ報告した際に「それ本当に私の子か?一夜限りだぞ?地元のツレの子じゃないのか?」と日本最古の最も言ってはならないセリフを口にします。
サクヤビメはぶち切れたのか産屋に火を放ち「無事産まれたらニニギの子です」と誓約します。子を3柱無事に産んだことでニニギの子と確定しました。

山幸彦と海幸彦

ニニギの子どもであるホデリ(兄)は通称、海幸彦。
ニニギの子どもであるホオリ(弟)は通称、山幸彦。
海幸彦は海の漁が得意で、山幸彦は山の猟が得意でした。
ある日、山幸彦が「互いの道具を交換して使ってみよう」と言い、
兄弟は漁具と猟具を交換します。(兄は渋々応じました)
山幸彦はウキウキで魚釣りに出掛けましたが、慣れないからか兄に借りた大事な釣針を失くしてしまいました
当然、海幸彦は「返せ!」と怒ります。山幸彦は1500個も釣針を自作して返しますが海幸彦は「もとの釣針を返せ」と取り合ってくれません。
山幸彦は困り果てて、ある神様に相談した結果、海神(わだつみ)の宮殿に向かうことになります。そこで海神の娘トヨタマヒメに出会います。そうです。結婚します。そして3年の月日が流れました。

ある日、山幸彦は釣り針のことを思い出してため息をつきました。それを見た姫は父である海神に相談します。海神が魚たちに聞き取り調査をして、鯛の喉にまだその釣針が刺さってることがわかります。
山幸彦は海神から失くした釣針呪い言葉、霊力のある玉である潮盈珠(しおみつたま)と潮乾珠(しおふるたま)を貰いうけて地上に戻ります。

ここまで読むと、どう考えても悪いのは山幸彦だという気がするのですが、このあと海幸彦が懲らしめられます

山幸彦が海幸彦に釣針を返すとき、後ろ側を向いて呪い言葉「淤煩鉤、須須鉤、貧鉤、宇流鉤(おばち、すすち、まぢち、うるち)」と唱えます。
そうすると海幸彦は呪いによって貧しくなりました。その恨みで山幸彦を攻めてきます。そこで山幸彦は潮盈珠を使い、洪水を起こして海幸彦を溺れさせました。海幸彦が謝ったときに潮乾珠を使って彼を助けました。結果、海幸彦は山幸彦に忠誠を誓ったとのことです。

…海幸彦、悪くなくない…?
※基本的に古事記では兄と弟が争った場合は弟が勝つのです。この手のお話を末子成功譚と言います
※末子成功譚:年上の兄弟たちに馬鹿にされていた末っ子が成功を摑み取る話。「3びきのこぶた」など

トヨタマヒメ

海神の娘トヨタマヒメが妊娠したので、彼女が海から山幸彦の元にやってきました。海の中で産むわけにもいかないとのことです。
トヨタマヒメは「産むときは絶対に覗かないでくださいまし」と山幸彦にお願いします。そう言われた山幸彦は…、そのとおりです。覗きます。
出産時に山幸彦が産屋を覗くと中にいたのは…
でかいサメでした。

異類婚姻譚見るなのタブーのあわせ技です。
その子孫が初代天皇である神武天皇なので、衝撃を受けるエピソードです。
※異類婚姻譚:人間と別種族、動物等が結婚する話。異常誕生譚とつながることも。

ここまでが古事記の上つ巻(かみつまき)にあたります。
古事記は上中下の3巻セットです。
この後は神武天皇の神武東征やら、ヤマトタケルやら、凄すぎる皇后・神功皇后やらが活躍していきます。八咫烏とか盟神探湯とか土蜘蛛とか両面宿儺とかサブカル好きにはたまらないキーワードもいっぱいあるのよ。
ですが、以降の巻は歴史書の役割が増えていくので、神代の強烈な神話を扱っている上つ巻が圧倒的に面白いですね。

現代訳版の電子書籍がAmazonで無料であったりします。

上つ巻だけならスルスル読めると思います。
ただ、神様の紹介が要所要所で延々と続くので、読んでると面食らうかもしれません。それは古事記の役割として大和朝廷の関係氏族への心配りの側面がある為なんで、現代人の我々は気にせず読み飛ばしてもいいかなと思います。あと突然始まる歌が多い。それはミュージカルみたいなものです。

とはいえ現代訳はそっけないので、様々な人の解釈を添えて読むとより楽しいかなと思います。ヤマタノオロチは製鉄のメタファーだとか、海幸彦山幸彦は大和朝廷と隼人族の平定の話だとか(原本でも多少述べられています)。
さらに比較神話学として見ても非常に面白いですよ。ローラシア神話あたり。とりあげたキーワードにもいくつか比較神話的な注釈を入れてます。
漫画「宗像教授シリーズ」なんかを添えて読むと古事記が一気にSFになります。

これで自信を持って「古事記にもそう書かれている」って言えますね。


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