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第3のソラナキラー「Monad」はSuiやAptosと何が違うのか

こんにちは。Decentierリサーチャーweb三郎です。

今年web3業界最大級の資金調達ニュースが飛び込んできました。

「ソラナキラー」とも呼ばれるレイヤー1ブロックチェーンのMonadを開発するMonad Labsが約340億円もの資金を調達しました。ラウンドにはParadigm、Coinbase Venturesといった大手VCをはじめ、MakerDAO創設者のRune Christensen氏も参加しています。


3つのソラナキラー

巷ではMonadの他にもSuiAptosといったスケーラブルなレイヤー1のブロックチェーンがSolana Killerと呼ばれています。

Solana Killerの異名がターゲットにしているSolanaは、高速処理と安価な取引コストを武器に、分厚いエコシステムをもつEthereumを押しのける勢いで急成長し、現在でもTVLで4位、時価総額で5位に位置します。

なぜMonad、Sui、AptosはSolana Killerと呼ばれるのでしょうか。それはこれらのブロックチェーンが、Solanaと同じく並列処理によって高いスケーラビリティを実現しようとしているためです。

おさらい:Solanaの特徴

前提知識としてSolanaの技術的な特徴について解説します。すでに多くのメディアやブログで解説されていますし、どうしても専門用語が多くなってしまうので深くは立ち入りません。

Solanaは理論上、毎秒65,000件のトランザクションを処理できる高いスケーリング性能で知られ、実運用においても平均2,000~3,000のトランザクションを処理しています。取引手数料も平均0.00025ドル程度と非常に安価です。

この性能をSolanaはレイヤー1単体で実現しています。Ethereumがレイヤー2によってスケーラビリティ問題にアプローチしていることを鑑みると2つは対照的です。

Solanaは、レイヤー1単体で高いスケーリング性能を実現するために、以下の「8つのイノベーション」を導入しています。

  1. Proof of History(PoH):ネットワーク遅延を削減するクロック処理アルゴリズム

  2. Tower Byzantine Fault Tolerance:PoHに最適化されたPBFTベースの合意形成アルゴリズム

  3. Turbine:帯域幅を削減するブロック伝搬プロトコル

  4. Gulfstream:Mempoolを回避して直接ネットワークにトランザクションを伝搬するプロトコル

  5. Sealevel:スマートコントラクトを並列実行できる実行環境(ランタイム)

  6. Pipelining:ハードウェア/ネットワークが複数の処理を同時実行できるように処理を分割し順序付けるトランザクション処理技術

  7. Cloudbreak:水平方向にスケーリングされたアカウントステートのデータベース

  8. Archivers:ネットワーク全体のストレージサイズを削減する分散型ストレージ

これら8つの技術の解説は他に譲りますが、ざっくりと表現すれば、並列処理を可能にしつつ無駄を徹底的に削減するのがSolanaです。

同じく高いスケーリング性能を特徴とするArbitrumやOptimismなどのレイヤー2は取引内容を要約して検証するRollupやゼロ知識証明のような暗号学的技術によってスケーリングを目指しています。

対してSolanaは並列処理にこだわっており、これから説明するSolana KillerもSolanaと同じく並列処理が得意という特徴をもちます。

Monadの特徴:EVMとSVMのダブルサポート

ではMonadはSolanaと比べてどのような特徴があるのでしょうか。

並列処理が得意という点ではSolanaと同じです。最大の特徴はEVM互換性をもつという点にあります。

EVM互換性とはスマートコントラクトを実行する仮想環境がEthereumと互換性を持つことを意味する用語です。異なるブロックチェーン間での相互運用性はEVM互換性の有無に大きく左右されます。BSCやPolygonといった日本でも馴染みのあるブロックチェーンはすべてEVM互換性を有しており、多くのEthereum発祥のDappsがBSCやPolygonなどへ水平展開されています。

他方でSolanaはEVM互換性のないブロックチェーンであるため、Solana上のDappsのほとんどがSolana上でしか稼働していません。対してMonadはEVM互換性をもつためDapps開発者の参入障壁が低く、既存のDappsの参入が期待されます。

加えてMonadの開発者はEVMとSVM(Solanaの仮想環境)の同時サポートもできると明言しており、将来的にはSolanaのエコシステムもMonadへの水平展開を目指す可能性があります。

EVM互換のブロックチェーンでの開発には、Solidityという言語が必要です。この言語はweb3領域以外のエンジニアにはなじみが薄く、特有の学習曲線を持つため、開発者を探す際に障壁となることがあります。

一方で、SolanaのDapps開発では、一般的なエンジニアにも親しまれているRust言語が使用されまるため開発の敷居が低いです。Rust言語の採用はSolanaが急速に成長を遂げた要因の一つといえます。

単にEVM互換性をもつだけであれば、それなりにスケーラブルなArbitrumやOptimismといったレイヤー2とも競合してしまいます。しかし、EVMとSVMの両方のサポートは、業界において完全に独自のポジショニングです。このことがVCからの高い評価につながっていると推測されます。

Aptos・Suiとの違い

同じくSolana Killerの異名をもつSuiとAptosは、やはり並列処理を得意とする点でSolanaと共通していますが、加えて、他のブロックチェーンとの相互運用性が低い点もSolanaとの共通点として挙げられます。

SolanaやMonadとの違いとして最も大きいのは、SuiとAptosのどちらも同じ開発言語を採用している点です。このことはSuiとAptosの成り立ちの共通性に由来します。

実は、SuiとAptosはどちらも、かつてMeta(旧Facebook)が推進していたステーブルコインプロジェクトであるDiem(旧Libra)の元メンバーが立ち上げた開発プロジェクトです。Diemは独自に開発したMoveをネイティブのプログラミング言語として採用しており、SuiとAptosも同じくMoveを採用しています。

ただ、SuiとAptosではスマートコントラクトの実行環境(仮想環境)が異なる上、Suiの採用しているプログラミング言語は正確には「Sui Move」というMoveを改良した独自のプログラミング言語であるため、2つのチェーンに相互運用性があるわけではありません。

少なくとも、Solidityを得意とする開発者がRustでスマートコントラクトを書き直すよりも、Moveを得意とする開発者がAptosからSuiにスマートコントラクトを書き直す方が学習コストが低くて済む、とは言えますが、EVM互換性のあるブロックチェーン同士ほどの相互運用性はないと考えるべきです。もちろん、将来的にはMove周辺の開発コミュニティの中からSuiとAptosを相互運用できるようにしようとする取り組みが出てくる可能性もあるでしょう。

SolanaはAptosとSuiに接近?

ここまでのSolana Killerらの動向を総括すると

  • SolanaとEthereumエコシステムの双方を取り込もうとするMonad

  • 同じDiemの遺産からまったく独自の方向に向かうAptosとSui

の2つの勢力が、EthereumやSolanaに代わる第3のレイヤー1として台頭してきている、と言えます。

こうして整理してみると、MonadはSolanaの最大の欠点であるEthereumエコシステムとの相互運用性の低さを補完するため、Solanaが将来的に協調すべきはMonadであるようにも見えます。しかし、このような憶測に反してSolanaはSuiとAptosに接近した過去があります。

かつて、Solanaの開発チームは2020年頃からMoveのサポートを計画しており、2023年まで同プロジェクトが進行していた形跡が残されています。

もし仮にSolanaがMoveをサポートした場合、上述したSolana Killerの勢力図はSolanaがMonadとAptos+Suiの2つの勢力を橋渡しするポジションに入るという形で書き換えられることになります。

とはいえ、SolanaのMoveサポートに関する開発状況は、現時点ではまったく不明であり、Solanaの動向を注意深く見守るしかありません。

まとめ:〇〇Killerが消える未来

以上、Solana Killerと呼ばれるMonad、Aptos、Suiのそれぞれのポジショニングについて見てきました。

並列処理を得意としながらEVMとSVMの共存を目指すMonadは、Solana一強であった並列処理レイヤー1ブロックチェーンの世界において大きなインパクトをもたらすポテンシャルをもっており、一見、AptosとSuiが遅れをとっているようにも見えます。

しかし、Aptos、Sui、SolanaがMoveを通じて互換性をもつようになれば、Ethereum、Solana、旧Diem系の3つの巨大なエコシステムが間接的ではあれ相互運用できるようになります。

Solana Killerという言葉は、Ethereumからパイを奪うゲームであったのが、今度はSolanaからパイを奪うゲームに変わったのだ、という見立てに基づきます。しかし、Solanaがそのようなゼロサムゲーム的な発想ではなく、web3全体がプラスサムなゲームになるよう相互運用性を高める方向で発展していけば、Killerという言葉のない新しいweb3の景色が見られるのかもしれません。

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