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2時間強歩いて帰宅

いまの会社に入ってから終電を逃した場合、当然タクシー帰宅なんかは許されないので、選択肢としては始発まで待つか歩いて帰るかの二択になる。なので比較的早い時間に仕事が片付けば自然と歩いて帰る方に天秤が傾くわけだ。
深夜の住宅街をひたすら歩くという経験はなかなか他に替え難いものがある。人々が寝静まった夜の住宅街というのはなかなか神秘的だ。それがよく見知った街であれば見え方も変わってくるだろうが、そのルートを通って帰ることは稀なので目新しいけどよくある風景がひたすら続く。
歩行瞑想という瞑想手段があるのだが、無心で歩くことに集中していると図らずもそうした境地に至ることがある。なんてことないトランス変性意識状態だ。暗闇にぼーっと浮かび上がるコンビニ、常夜灯の光が漏れるドラッグストア、無人の児童公園、妖しく辺りを照らす神社の灯篭、ここが極東の先進国であることを忘れてしまうほどサイケで猥雑な都市景観。
端的に言えばエモい。ヴェイパーウェーブのカセットテープみたいなバグった世界認識。そこから地元の見慣れた風景がポツリポツリ姿を現し形而上のパーソナルディストピアに現実がゆっくりとフェードインしてくる。束の間の旅はそうして終わる。高揚感が安堵感に替わり、緊張感が眠気に変わる。徒労感は達成感に、そのようにして人は自らを正当化してしまう。
たまったもんじゃない。

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