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ミュージカル「何処へ行く」の感想です。

久々に生観劇!
ミュージカル「何処へ行く」9/25 12:00公演を観てきました。
クォ・ヴァディス(ラテン語で「何処へ」という意味の小説)は原作から大好きな作品。それのミュージカル翻案です。
この原作小説は大学生のころ夢中になって、特に登場人物のペトロニウス様(以下ペ様)は特に大好きでした。

作品や原作との違いがあり、ペ様の魅力はもっと上手く伝えられると思っちゃった所もあるけど、上手く翻案してると思いました。
しかも全編歌で繋がるミュージカル。最初は違和感もあったけど、どんどんのめり込みました。

特に一幕は上演時間を一瞬と感じるくらい面白い作品でした。
二幕後半は原作からの改変がかなり大きくてビックリしちゃったのですが、長い小説を短い枠の中で上手くまとめていたと思います。
この改変に関しては、ローマの、そして皇帝ネロの栄枯盛衰を強調したかった翻案なのかなと感じました。

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ここから各登場人物の感想です。

作品を通して一番印象に残ったのは、アクテ。

皇帝ネロの元愛人で解放奴隷。当時としては珍しいキリスト教信仰をもつ。
ローマの価値観とは違う信仰を持っているのに、ネロを今でも愛していて、宮廷に留まり同じ信仰をもつヒロインのリギアを助ける。そして、最後はネロに尊厳ある死を促す役。(この最後はおそらくこのミュージカルだけの翻案と思います。原作でこのシーンあった記憶がない。)
立ち姿からその深い悩みと、愛ゆえの切なさ、それでもなおそこに留まる決意とか目に見える様でした。まるで現代社会のクリスチャンを代表する様な深い悩みと存在感。本当に素晴らしい演技に出てくる度に目を奪われました。
この日、アクテを演じたのは山崎和香さん。
この方の演技を観れだけでも、今の時期の生観劇の価値がありました。
(映像の配信だと主役以外の方々の演技って枠から外されちゃう事があるので、コレは生観劇じゃ無いと観れない。)

主人公のマルクスも良かった。
この役は横暴で傲慢な軍人マルクスと、心を開き新しい価値観を受け入れていくマルクスどちらに振れるかが難しい役。
全体的には傲慢さの場面の方が多かったのに、歌一曲でひっくり返してみせた。
ここら辺は脚本が役者さんに頼り過ぎと思ったけど、役者さんにはただ拍手を送ります。
遠山裕介さん。カッコいい!

ヒロインのリギアは難しい役。
外見だけで、可憐さや美しさ、清々しさ、そして当時のローマ人には戸惑いとなるような新しい価値観を表さなくてはならない。そして、そこに見せる意思の強さも大事な役。
可憐さと意思の強さは一幕では十分みえていた。二幕は出番も少なかったし、ただのシンボル的な存在になっちゃったのが残念ですが、原作もだし、まあそれはしょうがないかも。
谷口あかりさん、とても儚げで華やかでそれでもたまに見せる意思の強さが印象的でした。

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ここからは少しネガティブな評価。

ペトロニウス。ペ様。
うん。
原作とは違うけど、ちゃんとエッセンスは活かしている。
そして、彼の魅力を語り尽くすのに枠が足りないのも分かる。

でも、「パンと競技」の演説も無く、皇帝との放火犯論争も、ただの権力闘争になっちゃった。あそこはペ様の存在をかけた一世一代の議論なのに。。。
そして、権力闘争に負けてすぐに死ぬものペ様らしく無い。
やっぱり、僕は原作のペ様が好きです。

ペ様が死を選んだのはネロのせいと言うよりも、キリスト教による新しい価値観の祝福と、それでもなおローマ的な価値観にあえてしがみつく自分の姿を笑うため、というのが僕の理解。
ネロもバカにしてるだけでは無く同士的な共犯関係的な感情もある。
最後の嘲る手紙もその文脈じゃないと別の意味になる。

そして、この作品で、原作から1番変わっちゃったのはネロだと思いました。
最後までただ虚栄心だけの人物にされちゃった。だから、あーいうラストにしないとダメだったのかも。
役者さんはちゃんとそういう役を演じきったけど、実はその虚栄は、芸術に真摯だった事からもくるという側面が完全に脚本から抜け落ちてる。
そうじゃないと史実のネロ、若い頃の優秀なネロとの整合が取れないし、なぜアクテがネロを大事に思ってるかも分からない。

そして、ローマの人民の総意としてのリギアの解放ではなくて、クーデターによる棚ぼた的な感じになったのもネロのキャラ改変が理由なんじゃ無いだろうかと思いました。

まぁ、ここら辺は原作の記憶も曖昧な僕が元の方が良かったと言ってるだけの不満(イチャモン)だし、この作品単体ではちゃんと筋は通っているので悪くは無いです。



とにかく、
「何処へ行く」はミュージカルとしては素晴らしい作品です。
特にアンサンブルの美しさは、これまで聴いた色んな作品の中でも屈指。

会場のスピーカーの音の抜けが悪く、聴きにくかったのにあれは凄い!と思いました。

まだ公演してますし、配信もあります。チケットもあるみたいです。
皆様、ご興味がありましたら是非❗️
お勧め出来る作品です。

https://musical-za.co.jp/21izuko/haishin.htm

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