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デレラのマンガ本棚#5「背景について」


こんにちは、デレラです。

デレラのマンガ本棚では、わたしの好きなマンガを好き勝手に読み込んでいきます。

前回の浅野いにおさんの『おやすみプンプン』の記事から随分と時間が経ってしまいました。。。

今回は、わたしの好きなマンガの「背景の絵」について読み込んでいきたいと思います。

言及するのは以下の作品です。

浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(以下『デデデデ』)
弐瓶勉『人形の国』
宮崎夏次系『あなたはブンちゃんの恋』


背景の絵とは、何か。

それは、キャラクターが動く場、です。

背景は、意味なく描かれたものではない、わたしはそう思います。

物語や、設定に深く根ざしている。

キャラクターたちの動きと、必然的に繋がっている。

表現の一部になっている。

それは、どのように?

ということで、始めていきましょう。

背景から何を表現しているのか。



1.虚構の中のリアリティ

わたしたちの住む街にUFOがやってきた!

浅野いにおさんの『デデデデ』はSF青春コメディです。

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浅野いにお『デッドデッドデ―モンズデデデデデストラクション』,
2014,小学館


このマンガに登場する背景は、とってもリアルです。

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p.50『デデデデ』第一巻,2014,小学館

背景にあるのは東京ビックサイト、その上空にあるUFO。

実在するビックサイトと、虚構のUFOが同居しています。

このマンガでは他にも、新宿駅や、下北沢、東京タワーなど、「実在の場所、建物」が多く描かれています。

わたしが実際に見たことがある建物と街並み、あるいは、実際には見たことは無くても、TV越しに見たことがある建物と街並みが描かれています。

わたしは、マンガを読みながら、まるでTV画面を見ているような錯覚に陥ります。

わたしの現実に二重写しされるキャラクターとUFOと宇宙人、わたしの現実に侵入してくる虚構。

現実に存在する背景に、虚構を二重写しにして描かれるリアリティが、わたしの現実を揺るがすのです。

この構造が、SF設定を強化し、キャラクターの「メタフィクション的なセリフ」などに、説得力を与えていると、わたしは思います。



2.入り組んだ世界と複雑な構造

人工天体アポシムズ、地表は極寒で、人々は地底空間に住んでいる。

弐瓶勉さんの『人形の国』は、バトルSFファンタジーです。

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弐瓶勉『人形の国』,2017,講談社

このマンガの背景は、入り組んでいて、複雑な構造をしています。

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p.122『人形の国』第一巻,2017,講談社

もともと、弐瓶さんは、過去作品でも、このような複雑な背景を描いています。

迷路のような、どこに繋がっているのかも分からないパイプ、階段、通路、トンネル。

一言で表現するなら、迷宮です。

さて、舞台設定は、人工天体のアポシムズです。

人工的に作られたこの「天体=星」は、地表に建物が作られるのではなく、星の内部が建物になっていて、人々はその内部構造に住んでいます。

わたしは、この「人工の星」を、人体のアナロジーで見てしまいます。

わたしの身体の内部構造は、迷宮のように血管や神経が張り巡らされており、複雑な構造をしている。

身近にある「身体」というモノは何なのか、身体に対するワンダーが物語の核心にあるように感じます。

また、物語のなかでも、「身体」の、特に「身体の骨格」の絵柄が出てきます。

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p.63『人形の国』第一巻,2017,講談社


しかし、骨格は表現されているけれど、血管や神経は描かれない。

人体を描くときには、血管や神経を描かず骨格だけを描く、その代わりに人工天体の内部構造を描くときに、「パイプ群」、「階段」、「路地」、「トンネル」を描く。

人体の絵に骨格はあるけれど、血管や神経はない。

天体には血管や神経のように、パイプ群が張り巡らされている。

身体の内側と外側が裏返されて入れ替わっているみたい、そんな風に感じられます。

バトルシーンもかっこいいですよ!!



3.心の模様としての風景

一言で表現するなら、不器用なブンちゃんの恋。

だけれど、その恋路は、混沌と迷宮、謎と秘密、狂気と純粋。

無限の距離を歩くように、ブンちゃんは恋路を行くのです。

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宮崎夏次系『あなたはブンちゃんの恋』,2020,講談社


宮崎さんの絵は、とっても不思議な絵なのです。

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p.68『あなたはブンちゃんの恋』第一巻,2020,講談社

三コマ目に描かれている「街」は、ごった返していて、複雑に描かれています。

ラーメン屋、本や、停止標識、ソフトクリームに、電柱。

宮崎さんの複雑さは、弐瓶さんの『人形の国』の複雑さとは、種類の異なる複雑さです。

弐瓶さんの複雑さは、「無機物的」であるなら、宮崎さんの複雑さは「有機物的」です。

弐瓶さんは、パイプ群や通路によって、「迷宮」を作る。

一方で、宮崎さんは、いろんなものを「雑居」させます。


この雑居性は、この物語において、主人公ブンちゃんの心の模様を描いていると思います。

背景は、すべて、主人公ブンちゃんの心の内を表現している、とさえ感じられます。

ブンちゃんの心はたくさんの物事に溢れている。

いろんなものがたくさんあって、混沌としている。

モノがたくさんあると、どれを選んだら良いか分からない。

分からなくなって、動けなくなる。

混沌は、行動を制限するのです。

行動が制限されたブンちゃんは、周りの人から見れば、何も選べない、何もできない「不器用」な存在に見える。

周りからは不器用に思われているけれど、しかし、ブンちゃんは、実際には、一生懸命に、恋路をまっすぐ歩いているのです。

転んだブンちゃんに、街の人は「大丈夫か?」と話しかけるけれど、ブンちゃんは大丈夫。

普通の人は転ばないで歩く道を、ブンちゃんは転んで行くのです。

ブンちゃんの恋路は、転びながら進む道なのです。

その不器用な感じが背景の街並みのごった返した、雑居性に表現されている。

そんな風に思います。


恋路を、七転八倒しながら、不器用に進む姿を見て、あなたはきっと、ブンちゃんに恋をすることでしょう。



4.おわりに

今回は、背景に注目してみました。

現実に侵入するような、虚構と同居するリアルな背景。

複雑に入り組んでいて、まるで迷宮のような背景。

心の中を映し出すような、雑居する背景。

キャラクターが動く場としての背景。

それぞれの背景が、物語を支えている。

キャラクターたちは、マンガの世界観を表現し、キャラクターの心情を表現する「背景」の中にいる。

そしてわたしは、ふと思います。

わたしはどのような背景のなかで動いているのか。

わたしの動く世界は、どんなふうに見えているのか。

わたしはPCの画面から目を離し、周りを見渡します。

ここはどういう世界だろうか、と。

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