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なにやってんだ、おとうさん

思い出に残っている事案記録します。
内容はところどころ修正していますので、ご了承ください。

あれは2022年の1月頃だったと思います。
世の中はコロナ禍真っただ中で、私も救急隊の感染防止対策や労務管理をしながら、現場活動をしていました。
当時は、コロナもそうですが、メンタル不調の傷病者がたくさんいました。
自粛生活や連日のコロナに関するニュースに、みんな疲れてましたね。
私たち、救命する側の人間もかなりメンタルがやられてました。

そんな中、救急指令が入りました。
「30代、男性、自宅で意識呼吸なし、縊首の疑い」
30代でまだ若く、発見が早い段階ならまだ救命のチャンスがあると見込んで、機関員に現場まで急ぐように指示しました。

現場到着後、奥さん(30歳前後)が駆け寄ってきて、悲壮な表情で私たちは家の中に案内してくれました。
家は新築したばかりの家で、玄関から入ると、子供の写真や家族写真が並び、幸せそうな空間でした。
リビングを通る途中、柵に囲まれた空間に1歳から2歳ぐらいの女の子がいて、私たちを不思議そうにみていました。
リビングの奥の乾燥部屋までたどり着くと、旦那さんが、物干しざおにロープと自分の首を巻き付けて、すでに息絶えた状態でした。

ロープを切断し、降ろして観察しても、既に救急隊として出来ることはなく、お亡くなりになっていました。
奥さんに「大変申し訳ありませんが、救急隊として出来ることはありません。すでにお亡くなりになって時間が過ぎています。」
と伝えたところ、信じられないような顔で言葉が出ていませんでした。

その時です。
リビングから子供の声が聞こえてきました。
「ママ、パパは?」


その声が聞こえた瞬間から奥さんは嗚咽をし、涙が止まらない状態です。
私も子供が3人いる身です。
様々な現場経験をしてきましたが、この声に対して、何もしてあげれない自分に打ちひしがれました。
自分は無力だなと。

ご遺体に対して、失礼かもしれませんが
「お父さん、なにやってんだ、だめだよ。生きなきゃ。小さい子供がいるのに。生きてればいいんだよ。」
と声をかけてしまいました。

現場を警察官に引き継ぎ、奥さんとそのあとに駆け付けた親族に挨拶をして、引き上げました。

どうやら、ご主人は会社で重要なポストを任されて、そのストレスが溜まっていたようです。
何度か自殺をほのめかすような言葉を発していたらしく、気づいてあげれば良かったと奥さんは言われていました。

コロナが悪いのか、職場が悪いのか、社会が悪いのか。
でも、世の中で必死に戦っているお父さんに伝えたい。
家族のために、こどものために生きよう。
生きてればいいんだよ。あとはなんとでもなるから。
つらくなったら逃げればいいんだよ。金なんてどうにでもなる。
子供にはお父さんが必要なんだよ。

みんなが幸せでありますように

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