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エピソード(12):足芯呼吸(あるいは周天)のイメージの方向-なぜイメージは下から上(あるいは四足動物として後方から前方)へ巡るか?

おそらく数千年の歴史を持ったこうした瞑想、身体imaging法は、現代の自律訓練法やあるいはボディーマップなどとも結びつき、その意義は今後明解な医学生理学的説明が期待される。
 
 
我々ヒトは直立二足歩行であるので、下肢、足底から頭頂の方向、すなわちイメージを上方へ巡らせている。
しかし進化的に我々ヒトの身体は四足動物のボディープログラムに基礎があると考えるならば、肛門は体幹最尾側のS5、一方頭頂部は最頭側のC2の支配となる。
四足動物の運動を考えるならば、ここうしたイメージの流れは後方から前方へ、歩行方向と実は同じである。
(参考:エピソード(7)、体幹とデルマトーム、URL、https://note.com/deepbody_nukiwat/n/nc9da18e40158
 
背部から前面という周天のイメージの流も、中国医学の捉え方として興味がある。
中国医学では一般に背中側は「陽」、おなか側は「陰」といわれるようだ。
(参考:Wikipedia「陰陽」、URLhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B0%E9%99%BD
四足動物は、背面は雨風など自然環境をしのぐ体の部分、また外敵の攻撃を受け、これを防ぐ役割もある。ワニ等爬虫類の身体を想像すれば理解できる。ところが腹部は柔らかく攻撃に弱い。
 
こうした進化的なプログラミングを考えると、背面側から前面へという方向でイメージを動かし、腹部側に回して、丹田に修めることは、我々の身体感覚が充分に鋭敏であれば、理にかなったことであるのかもしれない。
あるいは実際に修行として、脊椎に沿ってイメージを上方へたどることは、現実に進化的に旧い神経circuitを強化し、旧脳(皮質下)系の活性化に関与するのか?
 
 
ところが最近、2022年秋、Locomotionの実際の機構として驚くべき論文を知った(リンク、https://www.nature.com/articles/s41586-022-05293-w)。
それによるとlocomotionとして考えられてきた自動左右交互運動を生み出すCPG(central pattern generator)機構より、実際には、脊髄中の神経細胞群の相互連携によるbalanced sequencing generator(BSG)という新しい考え方が示された。
詳細な内容は以下(URL=https://kokyurinsho.com/topjournal/20230126/)でのNature論文解説を参照(ビデオ等もリンク先で見ていただきたい)。
 
まさに、脊髄の神経細胞集団としてのcircuitのrobust(頑健)な実際の動きである。
 
背景を少し述べると20世紀の神経生理学は神経回路を電気刺激などで確認しながら、その経路と機能を理解してきた。
ところがこの新たなcircuit理解は、カメの脊髄に200種程度の多数の神経活動を同時に記録できる細胞外多機能端子を差し込んで、膨大な神経活動Big dataをクラウド(GitHub)に蓄積し、それを後解析して現象を明らかにしたものだ。
 
実際のlocomotionは脊髄中の体節を越えた多数の神経細胞群が、協調して左右の運動リズムを生み出しているという理解だ。
よく考えると、進化での試練を経た運動システムとしては、こうしたrobustな仕組みで動いているはずである。21世紀サイエンスとしてBig dataを処理できるようになり、より実際的理解が可能になった。
 
 
さらに想像を膨らませば、こうした神経circuitは通常はアイドリング状況にあるかも知れない。実際、新生児レベルでも、持ち上げると即座に左右交互のlocomotion運動が起こる。(Videoリンク、https://www.youtube.com/watch?v=kWe0P7v-28c
多くの人は歩行は自分の意志だと思い込んでいる。しかし基盤的には呼吸運動と同様に、誕生時に組み込まれた脊髄の神経circuit(CPG、BSG)であることが実態だ。
 
中国の伝承は背面の陽、腹側の陰など、身体感覚として優れたものがある。
あるいは、この神経細胞Circuitの前方(立位では上方)への流れが、古代中国では「周天」として、背面を下から上への流れとして感覚されたかという、妄想を持つ。
 
さらには本態が全く不明な、いわゆる「気」といわれる実際は、脊髄中の多数の神経細胞集団シグナリングによる全身のsignal circuitが生み出す膨大なエネルギーなのか?
もし今回の新論文が、こうした未知への解明につながるなら、それは21世紀Scienceの夢である。
 
その真偽は将来の実験証明の課題である。
古来の伝承の、不思議でしかもその有効な修練は、単なるイメージではなく、必ず医学生理学的背景があると、私は信じている。
 
(本記事の図の出典:Linden H, et al. Nature, 610, 526, 2022.)

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