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エピソード(EV-6):それは腱・筋膜システム(Fascia)だ-華輪が覚醒する連続する体幹系身体構造-

医学という学問の世界は不思議な構造だ。
人間の身体の構造と機能を、巨視的なレベルから、分子病態まで理解して、診断と治療を行う。
しかしそれはあくまで建前である。
実際には医学研究が急速に進む現代にあっても、理解不十分な領域は広範に広がっている。
 
我々の全遺伝子約2万種類という微視的な知見の理解は、20年前にスタートしたばかりである。2023年になりPangenomeとして全解読が宣言された。
脳の研究は2013年以降ようやく欧米(Brain Initiativeなど、Wikiリンク)においても、年間数百億円規模の研究費が投入されるようになり、2020年頃よりその成果が次々と報告されている。
ともに人間の身体の研究の新たなフロンティアである。
 
 
現代医学の始まりは西欧ルネサンス期以降である。
ギリシア・ローマの学問を引き継いだイスラム文明と、ヨーロッパ諸族による動物解剖を通した臓器の巨視的知見や、ルネサンス前後より循環する血液、電気現象としての筋肉の収縮などが数百年をかけて解明されてきた。
 
しかし実際ここで説明する華輪のような運動の原理を追求しようとすると、生物体内の連続構造体としての資料がほとんど存在しないという「壁」に突き当たる。
死体を肉眼解剖することと、連続した生きた身体の動きを統合的に理解することは、後者が少なくとも1億倍ぐらい複雑な内容である。
現象解析としても身体中の筋肉、腱の電気シグナル、張力等を連続記録と解析が必要である。
ようやく注目されてきたビッグデータと、その高速演算が必要な領域である。
 
 
華輪の動きで右腕を左肩にあげる。
その時腕を構成する骨とそれを動かす腱・筋膜システムは、単に右腕領域にとどまらず、肩から背面に伸び、体幹部のひねりを伴っている。
従って、それらを繋ぐ腱・筋膜システムの連続性は、左の下肢、足指の先まで連動している。
 
ロボットがモーターとワイヤーで右腕を上げ下げするのとは、その複雑さが1億倍以上違うというのはこういう意味である。
しかもその動きを制御するのは、腱・筋膜系を経由して筋肉細胞に分布する神経終末とその指令の大本になる脳である。
 
脳と運動といえども実は進化的に3段階に分かれる:
    Locomotionに代表される自動的交互前進システムが生得的に組み込まれたMMC
    神経細胞シナプス間の化学物質刺激の関与が大きい大脳辺縁系(Limbic system)
    最新進化として大脳皮質運動野による随意系運動(錐体路系)
医学史的には随意運動支配の大脳運動野を中心に考えられてきたが、生得的(学習でなく生まれたときから神経回路ができている)な本来不随意運動である錐体外路系の関与も、最近新たな課題として注目されている。
 
これは「三位一体としての脳進化」として時代を先取りし、批判の多いMacLean PDの考え方である。21世紀になり分子生物学的知見が増え、新規実験法(CRISPR-Cas等)が使える近未来、この三位一体論は見直されると考えられる。このnoteでまた議論したい。
 
例えば①の脳(中枢神経系)にはCentral pattern generator(CPG)が神経ネットワークとして形態形成時に完成され自動化されている(野生の偶蹄類の誕生直後の歩行開始等)。
ヒトにおいても新生児の動きとして誰もが見ているが、実際には2011年Science論文(Science 334: 997-999, 2011)のリンク動画https://www.youtube.com/watch?v=kWe0P7v-28c)として示されている。皆見ている現象だが、その意味に気付いていない。
 
 
こうした現象を「本当に不思議だ」と思う感性がないならば、ここに記述している内容は「要するに気功ね」という一言で終わる。
 
「要するに気功ね」、この言葉も何度耳にしたことだろう。
まるでChatGPTが繰り出す言葉(意味など分からずに並べる)のような理解でしかない。
それでは全く研究が進まないし、進化を背景にした身体論フロンティアを押し広げられない。
 
しかしようやく仄かな光が見える。
東洋系のBodyworkとは、アクセス法などないと思われてきたこの進化の旧い神経系に、一見不思議な動作の呼吸法でアクセスができることが、経験的に伝承されてきた。
その意義が理解されるのは、21世紀医学である。


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