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エピソード番外編240106:基礎医学から考える東洋系身体-Missing linkの探索-2008年の神経学教科書にみる2系統運動系と東洋系身体-

新たなマガジンとして「DeepBody:新規論文から考える」を始めた。
21世紀も4半世紀を過ぎつつある現在においてもなお、東洋系操体Bodyworkへの理解は全く進んでいない。
いまだに「東は東、西は西...」という共通言語による理解のない状況が続いている。

しかし、例えば筆者が35年実践する西野流呼吸法の「対気」というbodyworkでは、明確な再現性ある現象が認められる。
すなわち現象は存在しながら、それを解釈する場が充分にScienceとして解明されていないことが、この相互理解不全の原因と考えられる。

医師といえども神経学を専門にしていない限り、理解の困難な記述は多々存在する。
表紙に取り上げたのは、2008年出版「リープマン神経解剖学(第三版)」の中の第7章「随意運動のための神経伝達」と第9章「大脳皮質下の運動中枢」である。
大脳皮質下」とは、先に新規マガジンで最初に取り上げた、かつての旧脳、現在はSubcorticalといわれる大脳基底核、視床、視床下部、海馬、大脳辺縁系(扁桃体も含む)、嗅覚経路等の領域である(リンク、https://note.com/deepbody_nukiwat/n/n8a13b3df078a)。

こうした神経解剖学教科書の項目から理解できるのは、
脊椎動物の運動システムには:
1)進化的に新しい大脳皮質運動野による随意運動
2)進化的に古い大脳皮質下神経機構(運動中枢)由来の運動
この二系統が存在し、共存するという事実である。
理屈ではそうかと理解するが、我々は通常は随意世界、すなわち「右手を挙げようと意識すれば右手が動く」世界でしか生きていない。

一方、この大脳皮質下の運動中枢の項には、その異常であるパーキンソン病とかハンチントン病は記載されているが、その本来の正常機能に関する記載はない。
2008年当時では、「その内容はこれから変化する」としか記されていない。
また錐体路、錐体外路という用語も使われてはいるが、歯切れは悪い。

実は分子生物学的手法が神経研究に応用され、その多方面の展開がこの2000年代には並行して進んでいた。

2011年のCell誌のSnap ShotではMMC(medial motor column)としてlocomotion CPG(central pattern generator)の詳細な図が報告されている。
何度も紹介する2020年のGrillnerの総説(Open access、https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/physrev.00015.2019)では、これらをconceptualな図として、ヤツメウナギのMMC哺乳動物のMMC+LMCが示されている。
(しかし我々専門外医師にとっての問題は、‘MMC’の日本語訳は‘内側細胞柱’と脳科学辞典に記されてはいるが、生理学会の用語としての定訳かどうかは残念ながら不明な点である。可能性として、生理学会内部でも関心は薄いのかもしれない)

長い話になったが、このMMCが錐体路系、錐体外路系に関係し、さらには東洋系Bodyworkを理解する鍵となる点がポイントである。

錐体路とは一般的には「皮質脊髄路」と理解されている。
しかし専門医の雑誌「脊髄外科」の2015年の仮想討論会「皮質脊髄路の基礎知識」(J-Stage、リンクhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_267/_pdf)を読んでも、少なくともそんなに単純ではない事が理解出来る。

この仮想討論会にも参加している高草木 薫先生は、筆者も寄稿した「Brain & Nerve」誌にこの歩行に関連した錐体路系に関して詳細な議論がなされている(「大脳基底核による姿勢と歩行の調節機構-パーキンソン病における病態生理メカニズム-」高草木 薫他、同、74(9)、1067-1079、2022、医学書院)。
この総説の中のFig.1.からFig.4.の解説とその引用関連論文による理解が、現状での最新理解になるようである。

さて本エピソードの趣旨に戻ると:
・理解の複雑な錐体外路系システムへのアクセスが現実的に可能である。
・実際には東洋系bodywork、武道等として伝承されてきた。
この身体領域は西欧医学ではなお認識されていない
・実践、体験すると、誰もが未知の身体が自覚される。
・身体現象以外に、対気による衝撃体験は精神心理学的にもpositive感をもつ。
(おそらくその実態は、皮質下運動開始に関連するdopamineが関与)
・このSubcortical領域へのアクセスは、新たな医療領域としての可能性を秘める。

これが本noteとProject DeepBodyのメッセージである。
本noteも開始してほぼ一年となるが、その議論の原点確認である。

西欧系身体理解と東洋系身体理解を結ぶ生理学的解説、共通言語化はいかにして可能であるかという探索でもある。
・この探索は解剖学、生理学既知事象からの演繹的論理展開だけでは不可能である。
・逆に臨床としてのbodywork現象論から帰納的推論を進める必要性がある。
・最終的に共通理解に必要なMissing linkを探索していく。

これが一年目2024年の執筆原点確認でもある。


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