第17回 河南料理のホイミェンをご存知ですか?~「ガチ中華」の地方料理⑧
第1回「ガチ中華」とは何ですか? 研究会事始めストーリーで書いたように、ぼくが「ガチ中華」に関心を持つきっかけとなったのは、2020年初春、突如襲われることになったコロナ禍でした。
その年の4月頃、池袋を歩いているとき、ディープな中華料理店、いまでいう「ガチ中華」の増加ぶりに驚きました。いったい何が起きているのだろう……。その全体像を探るべく、都内の「ガチ中華」の集中エリアを訪ね始めました。
最初の頃、特に印象に残っているのは、池袋にある「池袋小吃居」という河南料理の店でした。なぜなら、それまで東京で河南料理というローカルな地方料理を出す店のことなど聞いたことがなかったからです。せいぜい東北料理や四川料理、そしてご当地麺や小吃といったファストフード系くらいしか認識していなかったからです。
河南省には長安と並ぶ古都・洛陽があります。そこは中原から西方に延びてゆくシルクロードの始まりといっていいエリアで、西側に西安のある陝西省、北側に「中国の麺どころ」と称される山西省があります。最近、東京でも西安のビャンビャン麺や山西省の刀削麺、そして甘肃省の蘭州拉麺が知られるようになりました。ですから、河南省の食文化の中心は麺(面条)といえます。
河南省にもさまざまなご当地麺があります。
その筆頭が羊スープを使ったホイミェン(烩面)です。
これが「池袋小吃居」のホイミェンです。羊肉と骨を煮込んだとろみのある白濁スープに平麺が入っています。この店もそうですが、細切りしたコンブや干豆腐、キクラゲなどがのっています。
その後、ホイミェンが食べられる店がほかにも都内にいくつかあることを知るのですが、そのときはちょっと感動的な気分になりました。というのも、ぼくは2015年秋に河南省を取材で訪ねていて、そのときご当地麺のホイミェンを知り、とても気に入っていたからでした。
中国で食べる麺のスープは、南方や江南地方を除くと、たいてい味が濃く、調味料も多用されている印象があったのですが、ホイミェンのスープは口にやさしく、まろやかなものだったからです。こんな麺料理もあるのだなと思いました。
これが河南省の省都の鄭州駅前にあったホイミェン専門店です。
そして、これが「池袋小吃居」の入り口にあった料理写真で、ここに「羊肉烩面(ヤンロウホイミェン)」があることを見つけたので、すぐに店に入ったのです。
この店は2016年10月にオープンしていたそうで、店内には楽しい河南省の食文化を伝えるイラスト画が飾られていました。
ただ面白いなと思ったのは、メニューをみると、日本語と簡体字中国語が混じっていて、残念なことに、料理の説明部分は中国語のままでした。これでは日本人にはわからないだろうなと苦笑したものです。
お店の人たちと少し話しましたが、彼らは「うちは東京で最初の河南料理の店だ」とご自慢のようでした。
では、ホイミェン以外に何が食べられるのか。
たとえば、新疆料理で出てきた大盤鶏(ダーバンジー)や羊の背骨肉を使った麻辣鍋の羊蝎子(ヤンシエズ)、刀削麺などの麺類、人気のマーラータン、そして第7回「ガチ中華」人気4ジャンル~④「小吃」ジャンク系、朝ごはん、ひんやり系に出てきた「ひんやり系」の涼皮(リャンピー)、中華スイーツの涼粉(リャンフェン)などがメニューに載っていました。
これらは中国の華北・西北地方ならどこでもよく食べるものばかりです。
さて、その後、都内でいくつかの河南省出身の調理人の店を見つけました。ひとつは、上野に昨年2月にオープンした「上野牛魔王牛肉ラーメン」です。
この店はメニューにもあるように、「ガチ中華」麺の専門店で、ホイミェンをはじめ、さまざまな麺料理が食べられます。
河南省出身のご主人がその場で麺を打ってくれる本格派の店です。詳しくは、当研究会の学生メンバーで、立教大学観光学部の中原美波さんが楽しい食レポを書いてくれているので、お読みください。
ところで、先ほどの「池袋小吃房」のメニューに入っていたのに、触れなかったのが(その店ではまだ食べたことがないので、写真がないのです)、河南B級グルメの胡辣湯(フーラータン)です。
牛肉のダシからつくったトウガラシと黒胡椒入りのスープで、現地の人は朝ごはんとしてよく食べるようです。
ほかにも現地ではいろんなスープや麺料理を食べたので、紹介します。
なかでも古都・洛陽は名物ご当地麺の宝庫です。
これは不翻麺(ブービャンミエン)。モツと肉団子入りピリ辛麺です。
これも洛陽の浆面条(ジャンミェンティヤオ)で、緑豆を発酵させてつくった豆乳のような酸味の利いたスープを辣油などで味つけし、麺を入れたものです。
最後も洛陽の老舗レストラン「真不同飯店」の名物である水席料理です。いわゆる伝統的なスープ料理です。
さすがにこれらの超ローカル料理は都内では見たことはありません。
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