「後悔」~中島みゆき(2000年)

 朝5時から1時間のウォーキングを続けている。その間のBGMとして、所有している中島みゆきの音源をスマホに入れて聴いている。

 当時は若くて無知だったが故に理解できなかった世界が、心に染みて心地よい。その中で「短編集」というアルバムに収録されている「後悔」という曲は泣かされる。足速に歩く初老の男が涙を流しているのが恥ずかしい。

 最初から行きずりの人と分かっている男に恋い焦がれた女性が主人公。とうとうこのまちを去って行くことになり、女性が自分の思いを伝えなかったことへの「後悔」が歌詞には綴られている。

 女性は、あふれる想いがあっても最初から叶わぬ恋と諦めて、自分をなだめようとした。理性が彼女を制して、彼への思いや思い出を心の扉の奥にしまい鍵をかけた。

 冷静な自分が、失恋に苦しむ自分を慰める。「これで良かった」。

 ある程度成熟した人間なら、考えれば正論が分かる。

 でも心は違う。募る想いはおさまるどころか、激しさを増して心の中に渦巻いている。想いをのせた調べと情感に満ちた歌声を聴くと、「後悔」とは、心が激しく揺れる状態を意味することをあらためて思い知らされる。

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いまさら いまさら 届かぬ思いを
鳥にあずけても 波にあずけても
あなたは遠くで 私を忘れる
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  ちなみにアレンジは瀬尾一三さんが担っている。

 彼は曲の世界を引き出すためにストリングスを活用する日本一のプロデューサーだと私は思う。

 「後悔」においても余計なことはしない。主旋律を中心に、やさしくて悲しい風を感じる弦楽合奏が曲を彩り、ホルン、ピアノがアクセントを添える。

 瀬尾さんの手掛けた作品は「時代を創った名曲たち ~瀬尾一三作品集 」としてCDになっているので、是非、聴いてもらいたい。

 後悔している当事者にとって時間の経過は何の意味も持たない。昔のことを思い出すときにはいつも、後悔の念が苦く心の中に染み渡っていく。他人は「よくもそんなに長い間」と思うだろうが、こちらからすれば「気が付いたらそんなに時間が過ぎていたのか」という思いしかない。

 この間、「あのとき、○○すればよかった」という心残りが、少し大げさだが〝息を吸うたびごとに〟押し寄せている。そのたび「あのとき不義理をしてしまって、ごめんなさい」と詫びる日々がつづいている。

 後悔は後ろ向きでしかない。

 私自身に関して言えば、その後の人生は一言でいうと「おぞましい」ものだった。人生の転機となる場面では、「やらない理由」を探してその都度、逃げ続けた。墜ちていく自分を罵りながら、這い上がろうとはしなかった。親の苦労を知りながら自分を高めようともせず、行き当たりばったりを選択して適当に生き続けた。

 40年前の自分に話しかけられるなら「一期一会という言葉をかみしめろ」と言いたい。前向き(ポジティブ)になれないなら、自分を大切にしろと。「悲劇のヒーロー」を演じているのは自分で、見ているのも自分なのだと。人を〝食い散らかす〟な。そしてお前は家族に愛されていると。

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