「桜桃忌~おもいみだれて~」~永井龍雲(1981年)

 作家・太宰治の誕生日であり、入水自殺した彼の遺体が上がった日でもある6月19日を、彼を偲んで友人の今官一(こん・かんいち)が「桜桃忌(太宰忌)」と名付けた。

 太宰が愛人とともに東京都内で入水自殺したのは1948年6月13日で享年38歳だった。

 中学校時代に読んだ「人間失格」と高校時代で触れた坂口安吾の「堕落論」は、今なお私の中で傑作として記憶している。

 だからラジオから「桜桃忌」という曲のタイトルを聴いた時に「暗い歌だろうな」と直感的に思った。その通りだった。

「傾いた青春に まぶしい夏日差し 思い切り駆け出したいけど 頼りなく後ずさり」
「若さは時として残酷で 小さな過ちさえも引きずっていく」

 歌詞からは心の内面に向き合う人の心を揺さぶる文言が並ぶ。青森出身の太宰のことを福岡出身の永井が取り上げるのは、多分何らかの理由があるのだろうが、寡黙にして分からない。どなたご教授いただけると助かります。

 この歌が発表された頃、私も田舎で歌を作り唄っていた。永井龍雲の声と曲を聴いて、彼のように表現力のある歌声になりたいとあこがれた。

 中学生の時に、教育実習生として私の学校で教えていた「先生の卵」の中に、関谷先生という人がいた。彼はフォーク、ロック問わずに幅広い音楽を聴いていて、ギターも上手かった。私が大好きだった「ふきのとう」の曲もほぼ全曲知っていた。
 一度、ドラムを叩いていた先生の友人宅で、即興演奏をしたことがある。先生は「ふきのとう」独特のハーモニーラインを熟知していて、私の声に合わせてハモってくれた。
 冗談だったのだろうが、何度も「おまえ、いいよ。一緒に東京行くか?」と言われ悪い気はしなかった。
 今にして思えば、他人から褒められた、数少ない私の芸だった。

 それもあって私は今でも歌うこと、ハモることが大好きだ。

 ちなみに、カミさんも歌が上手い。私の遥か上を行く。中学校時代には街角で芸能事務所のスカウトから声がかかるほどかわいらしい顔立ちをしていたので、ひょっとしたらアイドルデビューしていたかもしれない。彼女の母親が「芸能界は恐いところ」と反対して実現しなかった。

 2人の間にできた子どもも、歌うことと踊ることは小さい頃から大好きなまま大人になった。

 彼女の好みはもっぱらYouTubeで活躍するアーティストたちだが、最近の彼らの自由な発想と歌のうまさには舌を巻くことがしょっちゅう。

 おかげで私の子どもも、裏声や呼吸方法などなどを私の想像のつかないタイミングや方法で使いこなしながら歌う。

 何度もオーディション参加を勧めてみたが、本人は乗り気にならなかった。


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