「想春賦」~アリス(1975)

 昨年10月に逝去された谷村新司さんと、「愛しき日々」で知られる堀内孝雄さん、矢沢透さんの3人が結成するバンド「アリス」。1970年代から80年代にかけて「冬の稲妻」「涙の誓い」「チャンピオン」「ジョニーの子守歌」等々のヒットを生み出した。
 分類的にはフォークだったかもしれないが、彼らの中には欧米のロックやフォーク、カンツォーネ、シャンソン、タンゴ、そして演歌など多くの音楽を自分なりに取り込んで、独自の世界を切り開いてきた。

 彼らのアルバムの特徴はアルバム全体としてのメッセージ性は乏しく、各メンバーの世界観を持った曲の集合体であるということ。それ故なのか解散前のアルバム名は「ALICE」の後にローマ数字で Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷと数字が付くのみ。1981年の解散時に発表した「Ⅸ」だけが、「 ALICE IX 謀反」と名付けられた。

 私がアリスに触れたのは中学生時代で6枚目のアルバムを聴いたのがきっかけ。谷村さんがよく言うところの「ギターを打楽器だと信じてかき鳴らすだけ」の中坊には格好の練習教材だった「つむじ風」、アルペジオやスリーフィンガーの練習にはもってこいだった「砂塵の彼方に」「五年目の手紙」等々、入りやすいバンドとして認識していた。

 ALICE Ⅵ(6)からⅠ(1)にさかのぼりながら、新作が出るたび買い求めたり、レンタルして9までフォローしていた。聴き進むたびに、特に谷村さんの世界観が私にとって心地よく、ソロアルバムも聴くようになった。その後しばらくして「昴(すばる)」が大ヒット曲となったが、「天邪鬼大王」だった私が好きだったのは「真夜中のカーニバル」や「陽はまた昇る」「凱旋」「海を渡る蝶」「浅き夢」「群青」「砂漠」などマイナーな曲に魅せられた。その後、洋楽を好むようになったが、回りは「ロック以外は音楽じゃねー」という空気の中、フリオ・イグレシアスやルイ・アームストロング、バリー・マニローなど幅広い分野に広がっていったのは、谷村さんのおかげだと思っている。

 「想春賦」は、4枚目のアルバム「アリスⅣ」に収録された曲。受験で札幌に来ていた私が感じた空気と「遠くの時計台眠そうに 時を打つ昼下がり」とこのフレーズが共鳴して以来、お気に入りの一つに加わった。

 この曲の作詞・作曲は、パーカッション担当の矢沢透さん。かれはジャズ出身で、彼の楽曲は高度すぎて私の耳には入りづらかったが、唯一気に入った曲でもある。

 イントロからエンディングまでののどかな春の日を想像させる雰囲気を演出しているのはイングリッシュホルンとアルトフルートなのだと↓を見て初めて知った。 

 圧巻なのはエンディング。登場するのは小田和正&鈴木康博の「オフコース」。カーペンターズを彷彿とさせる4重奏のハーモニーが奏でるいくつもの小節が、辛く痛みを感じている心と、心地よい春の日差しと風が交差する様を見事に描き出している。

 アリス&オフコースのセッションは、「ALICE Ⅱ」に収録されている「散りゆく花」でも実現されている。個人的に小田さんの高音に最もハマるのは鈴木さんのファルセットだと今でも思っている。

 ご興味のある方はライブバージョンではなくアルバムバージョンを拝聴下さい。

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