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置かれた場所で咲き続けた故に手に入れた栄光(respect朝月希和さん)

先日、宝塚雪組のトップ娘役・朝月希和(きわちゃん)が退団しました。退団公演の「蒼穹の昴」大千秋楽をライブ配信で鑑賞しましたが、きわちゃん、めちゃくちゃ輝いていたよ‥。作品自体はあれがアレして非常に残念な位置づけになってしまいましたし、正直作品におけるきわちゃんの見せ場は僅かだった。けれど、娘役10年を過ぎた今演じる少女・玲玲役は声色、表情からも可愛らしさとあどけなさを感じたし、諏訪くんとの初々しい恋模様は、全体的に硬派な作品の雰囲気の中でほっこりとさせるシーンとなり(結末は悲しいけれど‥)緩急をつける重要な役を演じきったと思います。

そして何よりサヨナラショー!!ル・ポァゾン!!「海の見える街」がまた観れるなんて!シティハンターのその後が見られるなんて!きわちゃんの美しいドレスさばきがたらふく見られるなんて!!!‥きわちゃんのこれまでの軌跡を讃える素敵なメドレーをありがとうございます。

と、めちゃくちゃきわちゃんリスペクツな感じですが、恥ずかしながら私がきわちゃんの素晴らしさに気づいたのって、ココ最近なんです‥‥すみません。元々宙組推しなので、なかなか他組まで目配せできないので。でも、彼女が出演した過去作品の映像やいくつかのインタビューを見ていくと、彼女が研10以上でトップ娘役になれた理由と、彼女が周囲から認められる素質が、わかってきたのです。

宝塚が娘役に求める要素と朝月希和さん

きわちゃんは2010年入団。もう10年選手なんていったら娘役ではベテランです。
宝塚の娘役は寿命が短い。劇団やファンが娘役に求めるのは、いわゆる”生娘”要素(だから明らかに”大人”な女性役は、たびたび男役が演じるし、「女役」なんて言われます。個人的には現代では明らかにハラスメント要素を含む表現と価値観なんで好んでません)。ゆえにトップ娘役は入団間もない娘役が就任するのが今までの宝塚の基本です。
きわちゃんがトップに就任したときファンはざわつきました。まさか、きわちゃんが!勿論ベテラン娘役が就任した実績は過去にありましたがレアケース。おまけにきわちゃんはつい数ヶ月前に花組に異動していたこともあり、サプライズでした。

一方で、きわちゃんの就任に対し、やや否定的な声を上げるファンもいました。それは年齢もあると思うのですが、おそらく彼女は宝塚特有の、、もとい舞台に立つエンタメ人特有の押し出しというか、ギラギラというか(キラキラはしてると思う)‥キャラ立ちが少し弱いゆえかもしれません。ちなみにその要素が強い娘役は、例えば私の中ではねねちゃんやあーちゃんかな。「私がトップ娘役として輝くの!」という有無を言わせない存在感・オーラがありませんか?

咲き続けられる朝月希和さんのスキルと特性

しかし、きわちゃんはトップ娘役に選ばれました。巷では咲ちゃんのご指名とか言われていますが事実はわからない。ただ一つ言えるのは、彼女が圧倒的「娘役」スキルを持っていることと、そのスキルを活かし劇団が求める役割を果たし続けたことにより得た信用があったことだと思うんです。
私が思う「娘役スキル」とは、トップ男役を支える技術的(演技、歌、ダンスetc)スキルがあること、加えて宝塚が定義する「女性らしさ」を再現できるスキルです。男役に寄り添う腕の角度、華奢に見せる手の置き方、視線、ロングドレスを形を崩すことなく綺麗に見せる足の運び方(特に私のきわちゃん推しポイントはこれです!)‥などなど。
きわちゃんはこの辺りのスキルがめちゃくちゃ高い。きわちゃんは花組育ち。どうやら花組というのは”THE宝塚”を徹底的に教え込まれる組文化があるらしいので、なるほどなって感じです。

また、きわちゃんはなんとなく自信のなさが伺える言動をするきらいがありますが、根性のある芯のしっかりした女性だと思います。お恥ずかしながら(2回目)まだまだ宝塚歴が浅いので伝聞ベースにはなってしまいますが、彼女は自分の中に「ありたい娘役像」を持っていて(しかもレベル高そう)、そこに到達することを常に意識し、相当努力しお稽古に取り組んでらっしゃるような発言をカフェブレあたりで拝見しました。多分自分にすっごく厳しい(ゆえにちょっと自己肯定感も低い)。一方で周囲の人にも厳しい姿勢で接しているのかというと、そういうわけではなく、気配り上手な様子が、後輩からのきわちゃんへのコメントから伺えます。自分のことだけでも忙しいのに、後輩のメイクや衣装の着こなしを一緒に考えてくれたり、アイディアを出してくれたり‥聖母か
余談ですが、きわちゃんの名前の「朝月」は、予科時代に毎朝早く学校に登校しているとき、宝塚大橋から見えた朝の月がキレイだったから‥という由来だそうです。もうこのエピソードからも人柄と努力家なきわちゃんが垣間見せませんか!?毎朝早くに行って練習してたんだね‥そんな中でも空を見上げ月の美しさに心を動かされる感性の持ち主なんだね‥聖母か(2回目)

「今」と真摯に向き合う

きわちゃんは、いわゆるトップ娘役ルートをストレートで歩んできたわけではありません。しかし、花組時代、雪組時代ともに、彼女の根性と努力ができる特性を活かしながら、スキルを獲得し続け、成長し続け、劇団が与えてきた様々な娘役ポジションに応えてきたのです。それはかなりのコミット力だったことでしょう。
コロナ禍で劇団も様々な予定が狂い、人事も相当乱れたであろう中、トップ娘役としての役割を果たしてくれる絶対的な信頼を寄せられるのが、朝月希和だったんだと思います。

いい役職につきたい、こんな会社に入りたい、あんな賞を取りたい‥人は誰しもなにかを目指しチャレンジする経験をしたことがあると思います。でも、途中で挫折したり、諦めることも多い。そのとき、今まで自分が経験してきた時間がすべて無駄だったように感じることもあるかもしれません。でもそれってあまりにも近視眼で、俯瞰してみるとそうでもなかったりする。失敗をしたり、挫折を経験したら、「ああこの世の終わりだ」くらい深刻になって、落ち込み、追い詰めらてしまったとしても、それはあくまで人生100年時代のうちのひとときでしかない。たとえそれが望んだ結果・場所・境遇ではなかったとしても、そのひとときに出会った課題や役割とまっすぐ向き合い取り組めば、きわちゃんみたいに遅咲きの成果を得ることがあるかもしれないし、たとえ望んだゴールにたどり着かなかったとしてもまた別の人生の分岐点に出会えるかもしれない。

真摯に自分と周囲に対し向き合い生きること。その尊さを、きわちゃんの退団スピーチから受け取りました。


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