DARK HORSE pub.

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最近の記事

そして父になる

LINEの着信音。見るとあの子からメッセージ。 「今日、はしろう。」 このところ、ジムに来ている小学3年生の男の子と一緒に走っている。赤ん坊のような頃からお父さんに連れられ、ジムに来ていた子。はじめは見学スペースのソファーに寝っ転がり、ゲームしたりYoutubeを見たり。キックにはまり始めたお父さんの練習が終わるのを待っている。 人懐っこい子で、多くの会員さんから可愛がられるうちに見よう見まねで練習に加わり、最近は試合にも出るようになった。みるみると上達するが、少し体が

    • がんばれニッポン!

      「キギ―ッ!!」という軋む音を皮切りに、ガードレールを超え、電柱をなぎ倒して迫りくるトラックが、はしゃぐのに夢中の、集団下校中の小学生の列に突っ込む。修羅場と化す現場。これからを生きる若い子供たちの鮮血に溢れた様子に、通行人たちがせめてもの助けになればと、自らの着衣を脱いで止血にあたる。半面、このところニュースでよく見る“一般市民が撮影した現場の映像”を、心なしか好奇に見える顔で撮影し、ニュースサイトに公開する。その模様は緊急速報として全国に流れ、「またか・・・」と視聴者の憤

      • 日本クスクス党 最終話

        東西ふたつにわかれた日本。北アフリカからきたクスクスをきっかけに、かつての先進国たる日本が、今や些細なことでトラブルをおこすリテラシーの低い国となる。国と都との責任転嫁の末にまるで“雨の岩戸”に閉じこもった天照大神のように都の女帝は隠れてしまった。人々の同情は女帝に注がれ、反対に農家から身を興し、苦労の末に国のトップとなった小柄な老人に非難の矢が向けられた。 国民の自衛手段である“責任逃れ”。行政が、企業が、同僚が、かつて愛し合った夫婦ですらもまるでババ抜きのように“責任”

        • 日本クスクス党 第五話

          ♪ズンダカ ズンダカ♪ サンバのリズムをBGMに、クスクス料理のフードトラックは行く。 「Give me チョコレート!」と、かつてGHQのジープに群がった飢える子供たちのごとく、クスクスで能天気・骨抜きとなった日本の人々は我先にとトラックに手を伸ばす。 その争奪戦にヒートした人々は、いとも簡単にキレて殴り合い、暴動に発展する。そのタイミングを見計らい、クスクス党幹部たちは次の手を打つ。 どうしてもクスクスが口に合わない人々を晒す「クスクス狩り」だ。 もとよりパサパ

        そして父になる

          日本クスクス党 第四話

          「はぁぁ...やっと一日が終わった。」 汗ばんだシャツは煙草の煙を吸い、朝のスタートから今日の終わりまでの疲労を、その匂いと皺が物語る。 満員電車に乗り、何の役にたつのか皆目わからぬ資料をつくり、得意先にチクりと嫌味を言われ、高層ビルの窓外に映える夕日を見ながら「こんなもんか?我が人生」と、ふと考えもする。 「あぁ、今日という日が終わってしまう。。。」 海では、今日最後の波を、余すことなく愉しもうと、夕暮れまで粘ったサーファーが懸命にくらいつく。それを見ながら、先の大

          日本クスクス党 第四話

          日本クスクス党 第三話

          朝の食卓。いつものようにお椀をかき混ぜる父。 父「母さん、やはり納豆はクスクスにはあわないなぁ。」 母「あら、仕方ないじゃない。みんなそうしてるんだから。」 父「まったく・・・。」ひとりごとのように呟きながら、憤りを紛らわすかのようにテレビをつけ、朝のニュースを流す。 “昨夜、屋根裏で米を栽培していた男が逮捕されました。取り調べによると、「自分で食べるために作った」と供述していますが、警察は、販売目的の可能性もあると見て、捜査を続けています。” ニュースを聞いて、こ

          日本クスクス党 第三話

          日本クスクス党 第二話

          “ザザッ、、、!” 砂ぼこりを巻き上げ、1ミリでも遠くへと伸ばされた足の跡を、スタッフが計測する。 その場にいるスタッフも選手も、テレビで観戦する数万人も、そして誰よりも選手本人が、数時間にも感じられる時と時の間を「これを“時間”と呼ぶのだな・・・」などと他愛もないことを感じながら固唾を飲んで見守る。 ライバル選手達には“非情”ともいえるその数字が電光掲示板に表示されたとき、周囲から嗚咽にも似た感情の高ぶりと共に、爆発的な喝さいが場内を埋め尽くした。 ここ、新国立競技

          日本クスクス党 第二話

          日本クスクス党 前編

          出口の見えないウィルス禍、オリンピックを強行しようとする政府・IOC・組織委員会。どっちつかずの対応に奔走し、疲れ切った末に弱みを見せる政府やお偉い方。国民の「NO!」の声は暴発し、遂には神にすがる者すら出てきた。 これをチャンスと与党を責め立てる野党。さじを投げる与党。混乱の真っただ中、ついに「解散総選挙」が行われる。 与党はおろか、既存の野党をも信用できない国民は、まったく新しいインパクトある新党に期待する。そう、ウィルスやオリンピックに乗じたこの機会に、これまで良し

          日本クスクス党 前編

          エコバック

          高層マンションの5階に、私は妻と住んでいる。 医師という職業のわりには高尚とも言い難い我が家だが、勤務医の私にしては奮発したはずだ。それでも、高層階と低層階という比較対象があると、ヒエラルキーをめぐるマウントの取り合いが生じるのも、人の心理として否めない。 ジェンダーレスが叫ばれる昨今だが、未だ「妻は家で家庭を守る」という観念が払しょくできていない。別の視点で見ると、いわゆる富裕層ほど妻は家庭に入ることを望み、雇用機会均等を叫ぶのは中間層に多いように思える。 妻とは飲み会

          エコバック

          ナビ

          道を誤ることなく、最も効率よく生きる“人生のナビゲーションシステム”が開発された。決断を迫られるとき、“ナビ”の指示に従えば、最短ルートで幸せな人生を勝ち取ることができる。 「課長は無視して、A部長の言うことを聞け。」 「聞いたふりだけして、ライバルのB部長に支持せよ。」 “ナビ”の予測通り、A部長は左遷され、B部長が次長に昇格するにつれて、自分が部長に昇進。こうして同期を置き去りに、出世街道を邁進。 「みんなにフードを取り分けているC子を褒め称えながら、会話にのって

          スカイ・ハイ

          世間の目が冷たいのが、ウチの会社の定番。正確にはウチの“親会社”。 サラリーマンには上々の待遇と、国をも動かす(?)とされる謎の政治力。 芸能人との交友や、政財界のボンボンのコネ入社。 24時間働くアグレッシブ、裏返すとブラックなイメージの実態は、そのほとんどが下請けの苦行によって成り立っている。 その子会社ともなると、プライドと劣等感がブレンドされる。似たような環境に育ち、学校も同じだった者が、片や一流・片や二流の人生を約束された何とも言えない闇に包まれている。 田舎か

          スカイ・ハイ

          ドライブ

          “貧乏旅行”すら想像できない学生なので、休日はだいたいアルバイト。割のいいのは日当の出る現場仕事で、引っ越しの助手がおいらの“定職”だった。 朝6時半に事務所に行くと、仕事前のドライバー達が円卓を囲んでワイワイと、「昨日のパチンコはどうだった」だのなんだの。 体で稼ぐ彼らは揃って体格がよく、作業服がよく似合う。その片隅でおいらを含めたバイト連中が肩身狭そうに作業服に着替え、今日どのドライバーにつくかシフトを見ては、安堵したり落胆したり。 この組み合わせがその一日を決める。

          マウント

          「ガサッ!!!」 突如開いたクレパスに、隊員が滑落した。 マウント〇〇に挑む登山隊。成功すれば、世界最標高への登頂となる。 過酷な訓練の末に選ばれた精鋭たち。 前人未到の世界を観るために、そして自らの極限に挑むために、 命の保証もない頂を目指し、パーティが団結して雪山を登る。 滑落したのは新婚の若き隊員。妻のお腹には新しい生命が宿る。 隊員同志を繋ぐ命綱を必死で手繰り寄せる。 「諦めるな!」「必ず助けてやる!」 クレパスの間でもがく若者と、地上の先輩たち。緊迫の救出劇

          クラウド

          クリック一つで買い物ができる 初対面でも、共通の趣味を楽しめる。 外出しなくても、料理を届けてくれる。 個人情報を入力せずに、コミュニティに入れる。 若者に負けるかと、変なダンスを世界に披露できる。 怪しい集団が、「オレオレ詐欺」で、進化に遅れた老人を食い物にした。 善良たる企業が、老眼には見えず、現役世代には見る暇のない長い約款を 「次へ進む」でパスさせて罠にはめ、骨までしゃぶりつくす。 パスワードは随時更新を求められ、1人につき、3つも5つもあり、 加入した覚えのない

          スイッチ

          自ら命を停止する、体内埋め込み型スイッチが開発された。 ウェアラブル端末のノリで、気軽に搭載する。 CMでもカジュアルに宣伝されている。 切るときはいいが、自分では再起動できない。 蘇りを求められる人だけが、再起動される。 家族や友人が多い人、独自の能力を持つ人は蘇ることが多い。 悪用されるケースもある。 保険金目当てで他人に切られる事件が多発する。年金を目当てに、本人の意思に関わらずスイッチを延々とオンされる事件も発生。 賃貸マンションや公共の場でスイッチを切る者も現

          ラスト・ホリデイ

          最期の旅の代理店「ラスト・ホリデイ」を営む洋祐。医療が発展して死ねない今、理想の「最期の旅」を提供する。ある日舞い込んだ依頼は、エリート会社員の椎名から。住む世界の違う同志、時がたつにつれて互いに共感する。死にきれない椎名を追う洋祐。岬で向き合った二人は…。 <プロローグ> 「おや、お帰りですか」 到着ターミナルにつけた個人タクシーはゆったりと走り出す。白髪の運転手が乗せたのは、数日前と同じ客。 浜崎橋の渋滞に差し掛かるころ、客は思い出したようにスマートフォンを取り出した。

          ラスト・ホリデイ