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脱炭素・持続可能な社会に向けた流通のリーダーシップ~講演内容、即日まとめました「流通大会2023」<3日目>

こんにちは。「流通大会2023」の3日目「脱炭素・持続可能な社会に向けた流通のリーダーシップ」が終了しました。本日も、講演内容のポイントを研究員がご紹介します。

まとめと一言:公益財団法人流通経済研究所 主任研究員 鈴木 雄高



1.2050年カーボンニュートラルの実現に向けた環境省の取組について

環境省 地球環境局 地球温暖化対策課長
井上 和也氏

○概要
 
2015年12月のパリ協定が採択されたことを契機に、脱炭素化が世界的な潮流になりました。2022年7月には、官邸に「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を設置し、化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心のものへと移行させるために必要な施策を検討しています。
 脱炭素化は国内各地で推進されており、現在、地域特性に応じた「脱炭素先行地域」をつくっているところです。脱炭素化は、副次的に、地域ビジネスの活性化による雇用創出、快適な暮らしの実現、停電しない地域づくりにも貢献するものだということです。
 従来、CSRの一環という位置づけのことが多かった企業の気候変動対策ですが、近年では企業経営における重要課題となってきており、全社を挙げて取り組む例が増えています。RE100加盟企業の中には、自社の再生エネルギー比率100%を達成した後、サプライヤーに再エネ利用を求める企業もあります。
 環境省は、中小企業の脱炭素化を推進するために、「知る→測る→減らす」というステップを設け、取り組んでいます。「知る=取組の動機付け」として、パンフレット、動画、モデル事業事例を通じて取り組む意義を紹介し、「測る=排出量を算定する」ためにEEGS(イーグス)というシステムを提供、そして、「減らす=削減目標・計画の策定、脱炭素設備投資」としては、脱炭素経営に関する各種ガイドブックを作成しています。
 「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」は、単なる行動変容ではなく、需要側にあたる生活者・消費者に新しい暮らし方を提案し、新たな消費や行動を喚起し、市場創出を目指すものだということです。

○研究員の一言
 
本日(2023年2月10日)、「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました。かつて、地球温暖化と呼ばれていたものが、気候変動、あるいは気候危機という言葉に置き換わり、今すぐに取り組まなければならない課題となっています。業界によらず、また、ご自身の役職や職種によらず、多くの方にご覧いただきたい内容です。個人的にも多くの学びがありました。研究テーマとしても検討したいと思います。

2.花王が挑む“サステナブルなサプライチェーン”とは

花王株式会社 SCM部門ロジスティクスセンター センター長
山下 太氏

○概要
 
花王は、2019年に、持続可能なこころ豊かな暮らしが何よりも大切だと考え、それを実現するためのESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を発表しました。この戦略を通してあらゆる面で革新を進め、社会への貢献を目指しています。
 物流分野の仕事は、属人的になりやすいという課題がありつつも、サプライチェーンにおける前後にあたる生産や販売からの要請に応える必要があり、その仕事に誇りを感じているメンバーも多いとのことです。
 サプライチェーンは、生活者の立場で「情報の流れ」を捉え、商品設計・事業計画を立て、生産と供給の「モノの流れ」を全体最適となるように構築しています。サプライチェーンの各主体が余裕を持った在庫計画をすると在庫の基準が上がってしまい、管理コストの増大、廃棄の発生など、効率が低下してしまいます。
 また、インフルエンサーの発信により急激に需要が高まることもありますが、どのような状況でも精度の高い需要予測が求められます。新製品は特に需要予測が難しいのですが、予測が外れると原材料や製品の過剰在庫、または欠品が生じてしまいます。そこで、AI(機械学習)を活用することで、新製品需要予測の精度を向上させました。
 物流における他社との共同取り組みについても具体的な事例を多数紹介してもらいました。他社との協働取り組みで、荷役効率化・物流効率化・省エネ化、CO2排出量や輸送費の削減など、様々な効果も検証されていて、今後も顧客との共創によってホワイト物流を更に推進したいとのことでした。
 これからは、社会問題解決のためには、企業の枠を超えた共創型輸送ネットワーク構築が必要だとの考えを示していました。

○研究員の一言
 
ほとんどの家庭に製品があると言っても過言ではない花王ですが、縁の下の力持ちというイメージもあるロジスティクスの領域が、サプライチェーン全体の中でイニシアチブを取っていくという強い思いを感じる講演でした。
 上記の他にも、ライオンと共に取り組む使用済み容器回収スキームの拡大を目指すなど、「共創による問題解決」が重要な位置づけになっていることがよくわかりました。個人的には、1日目、2日目に続き言及のあったフィジカルインターネットに対する関心が高まりました。

3.ワタミの目指すSDGs経営-持続可能な流通・消費の実現-

ワタミ株式会社 執行役員 SDGs推進本部長
百瀬 則子氏

○概要
 
長らく小売業のユニーで環境問題などに取り組んできた百瀬氏より、2023年時点でSDGsにおいて何が問題であるか、様々な角度から解説されました。例えば、プラスチック問題について、日本はプラスチックのリサイクル率がOECD加盟国中で最低で、プラごみの発生が多いこと、廃プラのリサイクルを海外に「資源」として輸出していること、熱エネルギー利用のために焼却する割合が高いためCO2を排出している、といった説明がありました。
 ワタミのSDGsの取り組みは、各部署から募ったメンバーでタスクフォースチームを組み、勉強会を実施することから始まったそうです。4つのタスクフォースがマテリアリティ(重要課題)に具体的にどのように取り組んできたか、詳細にご紹介いただきました。例えば、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算出した上で、ゼロカーボンに向けた取り組みを進めているということです。
 ワタミの事業は、宅食・外食店舗、農業、食品加工と幅広く、これらの事業活動を通じ、脱炭素社会、自然共生社会を構築し、持続可能な社会に貢献することを掲げています。また、気候変動や生物多様性、人権問題には、自社だけでなく、サプライチェーン全体で向き合うことが必要との認識を示しました。

ワタミ 百瀬則子執行役員・SDGs推進本部長 ご講演の様子

○研究員の一言
 
恥ずかしながら、食品廃棄が気候変動を起こす温室効果ガスを排出する大きな要因となっていることを知りませんでした。この件を含め、百瀬氏の講演を通じて多くのことを知ることができました。また、「ムーンショット」―月のように高い目標を達成するには、考え方を変えなければならない―
という言葉が何度も登場しました。持続可能な社会に向け、研究員として、あるいは個人として何ができるのかを考えるきっかけになりました。大変充実した資料は、傍らにおき、見返したいと思います。

4.サステナブルな社会とくらしの実現に向けた、イオンのサステナブル経営の取り組みと展望

イオン株式会社 環境・社会貢献部 部長
鈴木 隆博氏

○概要
 
15か国に2万を超える店舗を展開するイオンでは、農産・水産・林産物など「生態系サービス」の基に事業が成り立っているとの認識を持ち、お客さまや地域社会と生物多様性の保全に取り組んでいます。
商品展開においては、第三者の認証のある商品など、持続可能性の裏付けのある商品を取り扱う取り組みを進めています。健康と環境に配慮した商品を気軽に利用してもらえるように、オーガニック商品ブランド化し、販売拠点を拡大するとともに、オーガニック生産者や関係団体とパートナーシップを組み、国内のオーガニック市場拡大を目指しています。
 お客様の声がきっかけとなり、2004年にフェアトレード認証商品の販売を開始したように、2020年には、お客様の声を受け、生産時の環境負荷が大きい肉や乳製品などを植物性素材に置き換えた「もっと”植物由来“ Vegetive」を販売、品目数、売上ともに伸長しているそうです。
 その他、脱炭素型かつ資源循環型ライフスタイルを定着させるための取り組みや多様化する地域での活動なども紹介していただきました。

イオン環境・社会貢献部 鈴木隆博部長 ご講演の様子

○研究員の一言
 
多くの店舗を展開する企業グループゆえ、取り組みの成果が社会に及ぼす影響も大きいということを、改めて認識しました。30年を超えるサステナビリティ活動は、多様化しながら深化しており、企業と地域社会の密接な関係づくり(地域密着経営)の良いお手本を見せてくれていると思います。

<注>
各講演の「概要」は、筆者がリアルタイムで聴講した内容をもとに記述しています。聞き違いなどを含んでいる可能性がある点にご留意ください。また、「研究員からの一言」の内容は筆者個人のものです。

【動画解説】「流通大会2023」3日間・全講演の解説



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