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新たな経営環境と流通業の戦略展開~講演内容、即日まとめました「流通大会2023」<1日目>

こんにちは。「流通大会2023」1日目が終了しました。本日の講演内容のポイントを研究員がご紹介します。ライブ視聴された方は、振り返りにぜひご活用ください。

まとめと一言:公益財団法人流通経済研究所 主任研究員 鈴木 雄高


講演の概要

ご挨拶と問題提起

公益財団法人流通経済研究所 理事長
青山 繁弘

 「流通大会2023」の開会にあたり、流通業に関わる事業者が取り組むべき課題として、次の事項を挙げました。
・物価高への対応
・デジタルシフト
・持続可能な社会への寄与(脱炭素、食品ロスなど)
 ご参加の皆様には、各登壇者の講演を通じて、いかにしてこれらの課題に対応するかを考えていただきたいと思います。

1.フィジカルインターネット実現のロードマップ

経済産業省商務・サービスグループ 消費・流通政策課長 兼 物流企画室長 中野 剛志氏

○概要
 物流と縁がない人はいないにも関わらず、企業の「物流の2024年問題」の認知度が低いそうです。物流を効率化しようとすると、物流事業者だけの努力では足りませんが、そもそも問題を認知していなければ解消のしようがない、として、危機感を露わにしていました(または、警鐘を鳴らしていました)。
 直面する物流危機に対応するため、経済産業省及び国土交通省の連携により、2040年までにフィジカルインターネットを実現するため、「フィジカルインターネット実現会議」を開催しています。
 また、経済産業省では、「物価高における流通業のあり方検討会」を開催しており、DXサプライチェーン連携の促進などの取り組みの方向性を取りまとめる予定です。検討会の一環で、DX促進のために、スタートアップ企業の発掘、小売業界とのマッチングによる育成・規模拡大を目指し、「SUPER DXコンテスト」を開催しました。

○研究員からの一言
 物流の問題は、物流事業者だけの問題ではなく、サプライチェーン全体の問題であり、あらゆる事業者が危機感を持って取り組む必要のある問題だという認識を強くしました。港湾における荷捌きコストは、海上コンテナの規格化を契機に低下し、過去50年で10分の1になったそうですが、この考え方を物流リソース全体に適用するというものが、フィジカルインターネットのコンセプトです。今まで以上にフィジカルインターネットの実現に向けた取り組みに注目したいと思います。

2.消費と流通の今を捉え、明日を読む2023

公益財団法人流通経済研究所 理事/ 拓殖大学 名誉教授
根本 重之

○概要
 冒頭で、今後の消費や労働環境、経済動向を考える上で、参考になるという書籍を紹介しつつ、人口減少によって多くの分野で国内市場が縮小するため、付加価値率を高める必要がある、という主張がありました。
 また、直近の消費データや小売業態別の売上、主要小売業の業績推移を丁寧に読み解き、解説しました。企業が主たるターゲットとなる消費者層のニーズに応え、需要を獲得するためには、消費者をマスではなく、幾つかに分けて見る必要がありますが、シンプルで切れ味のよい消費者のセグメンテーションが示されていました。
メーカーに対しては、高付加価値商品の販売方法(チャネル政策など)について提案しました。小売業に対しては、長期的な視点で、進化型の店舗を開発したり、従来とは異なるビジネスモデルを構築することに取り組むことを提案しました。

根本による講演の様子 by スタッフ

○研究員からの一言
 講演内で紹介していた書籍(興味のある方は是非、アーカイブ配信をご覧ください)は私も必ず読むつもりです。データの読み解き方も大変参考になりました。インフレが進むことが想定される中で、自社がどのように事業を展開していくべきか考えたい方には、是非お聞きいただきたい内容です。

3.小売業を取り巻く環境変化とベイシアの挑戦

株式会社ベイシア 代表取締役社長
相木 孝仁氏

○概要
 スーパーセンターやスーパーマーケット等のフォーマットをロケーションごとに使い分けて店舗網を築いているベイシアは、2000年からの大量出店期、2010年からのSPA強化など経営の質の改革期を経て、現在は、2021年度から取り組んでいる鮮度改革、新規事業開始、DXなどによる再度の成長加速期にあたると位置付けています。
 消費者向けの取り組みにはアプリがあり、競合他社に対して後発でありながら高い利用率となっています。また、従業員向けの取り組みでは、デジタルツールを活用したマニュアルの作成・共有により、業務習得時間を削減したことが社外からも高く評価されているそうです。
 また、日米のスーパー業界の動向についても報告していただき、特にアメリカの動向は、直近で視察された内容から示唆に富むお話をいただきました。
 ベイシアにおける今後の取り組みについては、出店、商品、データ活用などについて、取引先との連携を進めたいということです。

○研究員からの一言
 CCCや楽天など、様々な業界を経て小売業の経営者となった相木社長は、ご自身を「小売の専門家では(まだ)ない」と評していますが、国内のスーパーマーケット業態の内外の競争環境や、有力小売業の取り組みを非常によく見て評価していると感じました。また、ご自身で海外の小売店舗の視察もしており、各企業・店舗の取り組みについて分析している点も印象に残りました。取引先企業などとのコラボレーションを積極的に行いたいと強調していたので、今後どのようなコラボレーションを行っていくか楽しみです。

4.2030年に向けたウエルシアホールディングスのビジョン

ウエルシアホールディングス株式会社 代表取締役社長
ウエルシア薬局株式会社 代表取締役社長
松本 忠久氏

○概要
 ウエルシアは、消費者のニーズの変化に対応しながら、ラインロビングを進めるなど、変化しながら事業規模を拡大してきました。調剤併設、深夜営業、カウンセリング、介護の4つのビジネスモデルが支持を得ており、業界トップを走っていますが、松本氏は、ドラッグストア業界は大きな変革期にあると認識しており、対応が求められるといいます。
 消費者は、物価高騰を受け、節約志向を強めている層がいる一方で、生活の質を重視する層もおり、二極化が進んでいます。これに対して、メリハリのある販売・商品戦略で対応するとのことです。
 また、ウィズコロナの常態化を受け、定着した非接触ニーズに応えるためにオンラインサービスを充実させていく方針を打ち出しています。医療人材の不足を受け、医師から薬剤師への業務シフトが生じると見て、薬剤業務の高度化を図っています。
 2030年ビジョンとして、未来像に掲げているのは、健康相談と楽しい買い物ができる場所になる、というものです。出店戦略としては、商圏ポテンシャルや自社シェアを考慮して、エリアをいくつかに分類し、各エリアの特徴に応じて、メリハリのある出店をしていくことに加え、新たな店舗フォーマットへの取り組みも進めるとのことでした。出店戦略の他、商品、DX、調剤、カウンセリング、介護、海外、M&A、従業員の活躍、サステナビリティ推進についての戦略を説明していただきました。

○研究員からの一言
 消費動向の変化に対応して、新業態や新サービスを検討しており、2020年9月にイオン九州との協働により合弁会社イオンウエルシア九州株式会社を設立するなど、従来のドラッグストア・フォーマットに収まらない店舗づくりにも取り組んでいます。「差別化をもって戦わずして勝つ」、そのために、単に低価格販売をするのではなく、付加価値を高めることに注力し、商品やサービスを磨き続けているウエルシアの今後の展開が楽しみです。

<注>
各講演の「概要」は、筆者がリアルタイムで聴講した内容をもとに記述しています。聞き違いなどを含んでいる可能性がある点にご留意ください。また、「研究員からの一言」の内容は筆者個人のものです。

【動画解説】「流通大会2023」3日間・全講演の解説



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