マデリーン・マーティン・シーバー「人間の美しさと人間の主体性」サマリー

序章:個人と美の関係性について

私たちの日常において、自己の主体性と美しさとの間には複雑な関係が存在する。私たちの外見に対する選択は、個々の好みや価値観を反映するものであり、同時に社会的な規範や基準の影響も受けている。こうした基準が人々にとって、自分らしさを表現する手段となる一方で、抑圧的に働くこともある。外見と個人のあり方にフォーカスすると、個人の選択と社会的期待、美の基準を巡る複雑な関係が浮かび上がってくる。

美に関する三つの哲学的アプローチ:擁護、懐疑、修正主義

美と個人の主体性に関する議論は、大きく美の擁護、懐疑、修正主義の三つの立場に分かれる。美の擁護論者たちは、個人の美しさをその人の性格と関連づけ、自己成長の結果としての美しさがその人の道徳的・美的な性格を映し出すものと捉える。

一方で、美の懐疑論者たちは、この見方に異議を唱え、美の基準の社会的・倫理的側面に焦点を当てている。美の概念自体を批判し、代わりの美的理念や醜さの受容を提唱している。

修正主義者たちは、懐疑論者の批判を受け入れつつも、美に対する肯定的な観点を保ち、美を特定の社会的・文化的な枠組みの中で位置づけている。

美の擁護論

美の擁護者たちは、美を道徳的な人格と深く結びつけた根本的な善として捉える。彼らは、肉体的な外見や美しさがその人の内面的な美徳を表すものだと主張している。この考え方は様々な文化や哲学の伝統に見られ、美はしばしば賢者や道徳的に高い地位の人物と結びつけられている。擁護者たちは、美しさを単なる肉体的な魅力を超えるものと捉え、人格を映し出す特徴を含め、美的実践と充実した人生の他の面とのバランスを重要視する。

美への懐疑論

美に対する懐疑論者たちは、美が個人の主体性に与える潜在的な影響に疑問を投げかける。社会的懐疑論者は、美の基準の不公正さとそれが個人の自律性や社会的相互作用に与える影響に焦点を当てる。彼らは、「ルッキズム」と呼ばれる現象、つまり見た目による優遇や不利益を指摘する。美的懐疑論者は、美そのものを批判し、代替的な美的理念や伝統的な美の基準に対する反応としての醜さの受容を探求する。

美の修正主義

修正主義者たちは、懐疑論者の批判を受けつつ、美の重要性との両立を目指す。彼らは美の人格的側面を重視し、美的鑑賞を個人の性質と人間性の認識と結びつけている。修正主義者たちは、多様な身体や外見を含む美の理想を拡大し、抑圧的な基準に対抗することを提唱している。彼らは、より広範囲にわたる美的感覚の育成と、多様な美の形に対して理解を深める可能性を強調する。

結論

美と主体性に関する議論は、美の理想と実際の文脈との間の継続的な緊張関係を浮き彫りにしている。美の基準は重要な課題を提起しており、美とそれに関連する美的価値は、個人の表現と主体性にとって依然として重要だ。多様な視点と社会的な文脈を取り入れた、ニュアンスのある美の理解が求められている。美と人格、社会的な規範の相互作用は、哲学的探求の肥沃な土壌となり、私たちの道徳的・美的な生活に対する洞察を提供し続けているのだ。

解説と論文ガイド

ルッキズムに対して美学はどう向き合うべきか。フェミニズム哲学と共鳴しつつ、現代の分析美学において、外見の美しさをめぐる議論が展開されていることはぜひ紹介されるべきだろう。以下自分が読んで面白かったものをメモしておく。

「ファット」であることへの抑圧を論じるイートンの論文は美的判断の修練による変容を構想している。

Eaton, A. W. (2016). Taste in Bodies and Fat Oppression. In S. Irvin (Ed.), Body Aesthetics (pp. 37–59). Oxford University Press.

アーヴィンによるこの論文もおもしろかった。

Irvin, S. (2017). Resisting Body Oppression: An Aesthetic Approach. Feminist Philosophy Quarterly, 3(4), Article 3. https://doi.org/10.5206/fpq/2017.4.3

セクシーさについての美学的分析も興味深かったのでおすすめする。

Lintott, S., & Irvin, S. (2016). Sex Objects and Sexy Subjects: A Feminist Reclamation of Sexiness. In S. Irvin (Ed.), Body Aesthetics (pp. 299–319). Oxford University Press.

Maes, H. (2017). Falling in lust: Sexiness, feminism, and pornography. In M. Mikkola (Ed.), Beyond speech (pp. 199–220). Oxford University Press

以上まとめ:難波優輝

Martin‐Seaver, M. (2023). Personal Beauty and Personal Agency. Philosophy Compass, e12953.

https://compass.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/phc3.12953

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