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箱根駅伝コースの散歩道

小田原出身だというと、箱根駅伝の小田原中継所は近い?と聞かれることがときどきある。駅伝選手たちの猛スピードで駆け抜けると、背景として一瞬で過ぎ去ってしまう国道1号線。全く同じコースも、ゆっくり歩くとところどころに昔ながらの町並みを感じられる景色がある。

昼夜両方の散歩の写真を織り交ぜながら、小田原市民会館から、小田原中継所がある鈴廣を通って地球博物館までの約4kmをご紹介したい。

まず小田原市民会館の目の前。私も未だに中に入ったことはないが、ずっと気になっていた建物がある。中央労働金庫小田原支店なのだが、90年以上前に建てられたというレトロな佇まいと曲線が美しくて、前を通る度に見惚れる。この建物に沿って、歩道橋まで曲線を描いているのが愛おしいなんて思う。

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そのまま国道1号線沿いに箱根方面に向かう。すると、だいぶ年季の入った薬局が見えてくる。コロナ禍でここまで散歩にのめり込まなければ足を踏み入れる勇気はたぶんなかった。店先の手書きの貼り紙に「桃の葉の入浴剤あります」と書いてあるのが目に入り、気になりすぎて訪れてみた。小西薬局は正真正銘、今も営業を続ける薬局だった。

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さっきの労働金庫の築92年で十分驚いていたのだが、小西薬局は1633年から続いているらしい。中に入ると、まるで映画のセットに紛れ込んだかのような、タイムスリップしたかのような空間が広がっていた。

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こんなに古めかしいのに、キットカットなどが売られていた。常連と思しき男性が椅子に座って話していたので、順番を待つ。ちょっと緊張しながら、「貼り紙の桃の葉が気になって……」と作務衣を着こなす白髪の店主に話しかけてみた。もともとアトピーやあせもに悩むことが多かったので、漢方を試してみたい気持ちもちょっとあった。てっきり、桃の葉の既製品の入浴剤を勧められるのかとばかり思い込んでいたのだが、次の瞬間にとてもときめいてしまった。

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後ろの薬箪笥の引き出しを開け、そこから乾燥させた桃の葉を取り出したのだ。写真右側の開いている引き出しが、まさに「桃の葉」と書かれたところ。よく見たら手前には、薬研や秤、漏斗など、昔ながらの薬局の道具が並んでいる。『千と千尋の神隠し』の釜爺みたい……!と思わずはしゃいで笑みがこぼれてしまった。結局、包んでもらった桃の葉を買って、家で煮出してお風呂に入れたら私の肌質に合っていたようで、かゆみが引いてありがたかった。

小田原の老舗の薬局、というと「ういろう」を挙げる人もいる。「ういろう」の和菓子も有名なのだが、漢方薬としてのういろうを買いに来る人がとても多く(通販できないらしい)、いつも他県ナンバーの車が駐車場に並んでいるのを横目に見ていた。小田原のういろうは小田原城のような豪華な建物で目立つのだが、それがまさにこの小西薬局の斜め前にある。

実はこのういろうには真横に別館があり、「杏林亭」という薬膳中華料理店になっている。一度ブランチに訪れたら、前菜から点心から最後のデザートの杏仁ういろうまで、舌鼓を打った。

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さらに箱根方面に進んでいくと、何気ない普通のビルだけど昔ながらの形を保ったグッとくる建築があったりして、眺めるだけでも楽しい。ビルのフォントも良い。

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このピンクの建物はかつて小田原市役所の大窪支所だった。私も住民票などが必要なときには使っていたが、去年惜しまれながら閉館してしまった。木造で、冬なんかは隙間風が寒かった記憶がうっすらあるけれど、色合いや屋根の形などが可愛くて、改めて可愛らしい役場だったのだなと再認識した。

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なんだかとても気に入ったのと、いつ取り壊されてしまうのだろうと寂しい思いも重なって、刺繍にしてしまった。

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その先すぐ、箱根登山線が通る陸橋をくぐると左手に早川が見える。ここからしばらくは早川沿いに国道1号線が続く。天気の良い日は箱根の山が青々とよく見えるし、夏は裸足になって川の水に足を浸すと気持ち良い。

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その先すぐに、箱根駅伝でおなじみ、小田原中継所を構えるかまぼこ屋さんの「鈴廣」に着く。散歩したこの日はちょうど5月の半ば。鯉のぼりが文字通り空を泳いでいる心地よい天気だった。行きには大量に泳いでいた鯉のぼり(たぶん鯉ではないのだが)が帰りには片付けられていて、季節の移ろいを感じた。

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小田原中継所を通り過ぎると風祭(かざまつり)、入生田(いりうだ)という、個人的に地名の響きがとても気に入っている地域に入る。箱根に車で向かうとすごく渋滞する道だけれど、よく見ると気になる看板などがたくさんあるので、渋滞の楽しみとして目を凝らしてみてほしい。

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小田原のことをよく「箱根の麓」と言ってしまうのだが、ほぼ箱根なのに箱根と言わず「伊豆半島付根」という表現に膝を打った。でもやっぱりここは伊豆というより「ほぼ箱根」だと思う。

マトリョーシカのルーツは本当かどうか定かではないが、そう言われるとちょっと気になる。

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こんな感じでとにかく国道1号線は、箱根駅伝を見ていたら15分やそこらで全選手が通り過ぎてしまうのではないかくらいの短い時間だが、ゆっくり歩くと本当に飽きない。歩いてみたり、箱根の渋滞にハマったりするのをあえて楽しむヒントになったら嬉しい。



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