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街全体にもてなされている気持ちになった長野・松本での一人旅

諏訪を堪能した後、高速道路で松本へ。あまりの土砂降りに周りの景色を楽しむ余裕はありませんでしたが、目当てのお店の閉店ギリギリに間に合うかどうか......。市内に入って、小道を入っていき、どうにか間に合った目的地はkinuri という着物屋さん。最近、着物にハマって色々と古着を買って回っているのですが、着物生活を始めてから実は初めての遠征。もともと出張の多い仕事だったこともあり、せっかくなら各地の着物を見たいと思っていたのです。

お店に入ると、落ち着いていて清潔感のある店内には静かに音楽が流れていて、棚を少しずつ眺めます。訪問したときは6月で、まだ単衣(ひとえ・暦の上で6月と9月に着るとされている、裏地のない着物)を1枚しか持っていなかった。できれば単衣か、もしくはこれから迎える夏に向けて絽や紗の着物、浴衣なんかもいいな、と思っていました。

どうやらラインナップは夏物よりも袷(あわせ・10月〜5月に着る裏地のある着物)が多いよう。洋風でモダンな柄のものも多く、目移りしてしまいます。次々に手に取っているうちに、サイズもピッタリ、そしてまだあまり持っていない淡い色の花柄の単衣を見つけました。しかも7000円。欲しい。でももう一枚迷うのがある。

店主さんに声をかけて、早速試着させてもらいました。ベージュや薄黄色のものだけれど、実際に試着してみると、自分の肌の色に合うものは「これだ!」と一目でわかるみたい。顔はパッと明るく見えて、ますます花柄の単衣が気に入りました。これはいい買い物ができた、と嬉しくなりながら、Kinuriを後にします。

いい時間になってきたので、今日の宿へ。諏訪で会ったリビルディングセンターのアズノさんに、自らが手がけたとおすすめしてもらったtabishiroというゲストハウスに向かいます。

車を走らせると、宿は松本城のすぐそば。チェックインして受付の待ち時間にラウンジを見渡すと、見慣れた手書き文字が。友人のChalk boyが描いたようで、初めて宿泊する街だけれど少しアウェイ感が薄れて楽しくなってきました。内装もリビルディングセンターらしさが随所に感じられてあたたかい気持ちになります。

館内の案内を聞いて、そのリーフレットを裏返すと、驚くほど細かく、そしてたくさんの松本市内おすすめの飲食店マップ!一人だし、ごはんはどうしようかな、Pegというワインバーはいろんな人に勧められたから行ってみたいな、と考えながら説明を聞いていると、スタッフさんが「このPegというワインバーが......」と言われ、え?エスパー?なんでいまPeg行こうと思ってその文字読んでたのがわかったの?!とびっくりして「ここは絶対行こうと思ってたんです!」と話を遮って言ってしまいました。

「そうなんですか!実は今夜、このワインバーがオリジナルで作った“ペグンプ”というカードゲームをやるんです。もしよかったらご一緒にいかがですか?今何時だっけ。お!今からサッとPeg行っていただいて、サクッと飲んで戻ってきてくれたら全然間に合いますよ!」とスタッフさん。なんだって!完全にノープランだった松本の夜が急に忙しくなってきた。なんなら前夜にほとんど寝ていなかったから、宿で一休みしてから夜の松本に繰り出そうとすら思ってた。仮眠なんてしてる場合じゃない!

荷物を置いて急いでtabishiro を飛び出し、松本城を横目に素通りしてPegへ。入ってみるとカウンターは満席。ひとつだけ角にスタンディングのテーブルがあって、そこで飲めることになりました。ラッキー!滑り込み!早速ワインを頼むのですが、好みを聞いてくださったので、リースリングでお願いしました。もう、このテーブルで今飲むにふさわしいエチケット。可愛い。軽やかで甘みのある白ワインも私の「好き」のど真ん中。まだワイン一口だけど、絶対いい店に決まってる。もう好き。


さらにパテやオムレツを頼んでみたのですが、あぁもうだめだ、好き。美味しいと言う言葉を通り越して、好きって言葉しか出てこない。と思っていたら、カウンター席が空いて座れることになりました。一杯のつもりだったけど、ちょっとカードゲーム大会は申し訳ない、遅れるかも、だけど今はこの味をここで楽しむことを諦めきれない!となって、結局もう一杯だけ白をお願いすることにしました。パンもおいしくて、蕎麦の実を使った酸味のあるかたいパンと、コクのある2杯目がまぁよく合うこと。

チーズもとろとろでふるふるなオムレツも届いちゃって、はぁ幸せ。さらにここで気づいたのですが、あれ?もしかしてさっきから店内でずっと流れてるのはWhitney?ワインもお食事も美味しいだけでなく、BGMまで大好きなバンドを流してくれちゃうんですか?え、なに?松本という街は私をもてなすために街をあげて透視でもしてくれているんですか?というくらい、さっきから嬉しいこと尽くしで困っちゃう。

空腹寝不足にワインを急いで飲んだら早速ほろ酔い。そろそろペグンプ大会に向かわなければ!と、本当はもう少し長くゆっくりワインを楽しみたかったけれど、名残惜しさも噛み締めながら小雨降る中ゲストハウスに戻ります。

その途中、そういえば松本城がライトアップされていると聞いたな?と思って行ってみました。たしかにこれはすごい。昼の明るさの中で黒々と佇む松本城もかっこいいけれど、夜闇に浮かび上がるとまた一段と凛々しい!tabishiroのスタッフさんが「飲みに行く途中はまだ明るいと思うんですが、飲んで帰ってくる頃には日も暮れてライトアップがいい感じなんじゃないかな!」と勧めてくれたのがもうドンピシャ。この街の夕暮れ時の楽しみ方のレコメンドが玄人。教えてくれてありがとうの気持ちを胸に、早足で戻りました。

いざペグンプ大会に参加してみると、宿泊客だけではなくご近所さんなどもいらっしゃる。トランプのようで、さらにいろんなルールが増えた大富豪のようなゲーム。何を揃えるとか、どう並べるとか、そういうのを一通り聞いて、まずは実践してみることに。途中、カードによっては参加者みんなで乾杯をする場面があったり、あっち向いてホイをする場面があったり。はじめましてな人の中にいてもすぐに場があたたまる。

途中からは、女子高生二人も加わって、2チームに分かれてやってみました。この二人がまぁ強いのなんの。なんでだ、ペグンプのプロなのか?UNOでいうDraw 4のような効果カードの使い方が本当にうまい。大人顔負け。本当になんで?と聞いてみたところ、学校の教室でトランプの大富豪をしょっちゅうやっているとのこと、日常生活にトランプがある生活、それも制服を着て教室で休み時間で、という光景がすぐに頭に浮かび、青春の一幕をほんの少しお裾分けしてもらえた気分になりました。

ペグンプが終わっても、まだしばらくは参加者同士でおしゃべりを。東京から来ているという高校生の彼女たちはなにか話題に上がる映画や何かを聞くとすぐに調べて、「あ、ここで上映してるよ、今度行かない?」と話している。幼稚園の頃からの幼馴染二人で松本に旅しにきて、ゲストハウスでカードゲームに混ざる。なんていい旅なんですか。あなたたちと話せただけで、なんだか私の一人旅まで深まった気がします。ありがとう。

少し脱線しますが、各地で新しくできたお店などがその土地に馴染んでいるかどうかの一つの指標になんとなく「高校生が気軽に来れる」というのがある気がします。たとえば、沖縄の藍染工房。たとえば、札幌の書店・シーソーブックス。たとえば、佐賀の武雄市図書館。どこもナチュラルに気がつくと学生さんがいて、日常の中の楽しみとして足を運んでいる。きっとこういうところからその土地ごとの若いカルチャーが生まれていくのだろうなと、松本のtabishiroで改めて振り返りながら考えました。

そんなtabishiroで、前日に寝てなかったこともあり、日付を回る頃には睡魔が……。お開きになってぐっすり眠り、翌朝にはペグンプで戦ったみなさんと顔を洗ったり歯を磨いたりしながら「おはようございます」と挨拶を交わします。一人旅だけど一人じゃない。初めてなのに居心地の良い街だな、とずっと考えながら松本旅行を終えました。きっといく回数を重ねれば重ねるほど、もっとファンになってしまう街なんだろうな。次は1泊と言わず、長めに滞在してみたいと思います。


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