自動販売機

 仕事帰りで夜道を歩いていると、その暗がりに街灯と一緒に明かりを灯す自動販売機を見つけた。夜中とはいえ真夏の蒸し暑さに汗で濡れるワイシャツと、対照的に渇くのどを潤すため缶ジュースを買うことにした。

 硬貨を三枚入れ、ジュースを選ぶ。甘味が好きなので、桃のイメージが描かれた清涼飲料水のボタンを押す。下の取り出し口から缶が落ちる音がするかと思ったが、聞こえてきたのは薄い金属が切断されるような嫌な音と、液体が吹き出て辺りに飛び散るような音だった。

 思わず眉をしかめ、何事かと取り出し口の中を除くと、底に鋭い鉄の刃が取り付けられており、その左右に真っ二つに割れたジュース缶が落ちていた。

 ジュースを購入すると缶が下に勢いよく射出され、この金具を通過して切断されるしくみの自販機であるらしい。

 退社後で疲れていなければそれなりのリアクションができたのに。自販機や周りにカメラが隠されていないか探しながら思った。

 カメラがないことを確認すると、缶を切り分ける意図について考えてみる。これは、見た目にはせっかく買ったジュースを台無しにされたように見えるが、もしや開封するサービスなのではと思いついた。そうでないとすればこれは悪質な嫌がらせに他ならない。嫌がらせのために設置されたとするより、善意によるサービスの空回りとするほうが考えやすい。

 ならば私はこれを飲んでいいことになる。二分割された缶を手に取り、片方に口を付けた。少しだけ付着していた汁が甘かったが、唇が切れた。

 私はゴミをゴミ箱に捨て、舌打ちしてその場を去った。なぜ割れた缶ジュースをまだ飲もうとしたのか、もう分からなかった。あの自販機は何だったのか。仕事終わりで疲れ、その上暑さで朦朧とする頭で考えるのはひどく億劫だ。そう考えると、あの桃ジュースを飲めなかったのは惜しかったな、とため息をつきつつ思った。

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