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#3 デトロイトの救世主は銀行

今回のPickUpは、財政破綻から劇的な復興遂げたデトロイトに関する記事。米大手金融機関JPモルガンによるデトロイトのスタートアップ支援(約100億円のファンド出資)についても触れられています。

記事にあるように、今や世界中から新進気鋭のスタートアップが集まるデトロイトですが、実は2013年に財政破綻を経験しています(財政破綻した都市としては米国史上最大)。その後、2014年から、住宅ローン金融会社Quicken Loans社と投資銀行JPモルガン社という2つの大手金融機関が再建に取り組み、短期間のうちに70億円の債務を解消し、見事に復興を果たしました。Quicken Loans社の創業者はデトロイト出身なので地元に肩入れするのは分かりますが、JPモルガンはなぜそこまでデトロイト復興に注力したのでしょうか。そしてどんな狙いでここまでデトロイトにコミットしたのでしょうか。

金融機関による地域貢献の限界

世界に存在する全ての金融機関が、「地域貢献」や「地域密着」を掲げて、地域活性化につながる活動に取り組んでいる。しかし、そのほどんどが各支部の持つ広告宣伝費内での活動であり、例えば下記のようなものになります。

  • スポーツクラブや催事への協賛

  • 商工会議所やロータリークラブの年会費

  • 講師を呼んだセミナー 等

もちろんこれらの取り組みは、地域活性化に直接つながりますし、金融機関としては地域住民から嫌われるリスクを回避するモチベーションが湧くためある程度の継続性も生まれます。

しかし、各支部が持つ広告宣伝費は年間数百万、どんなに多く見積もっても数千万規模に留まるでしょう。しかもこの中には本業である金融商品の販促費も含まれますので、地域のために使えるお金はさらに限られます。

費用ではなく投資

通常、金融機関が地域のために使えるお金が数百万円というお話をしましたが、JPモルガンがデトロイト復興のために投じたお金は数百億円です。つまり、1万倍です。

なぜJPモルガンはそこまで多額の資金をデトロイトに投じることができたのでしょうか?

応えは簡単です。JPモルガンはデトロイトに出した数百億円について、費用ではなく「投資」と考えているからです。費用は確実にお金が消えてしまうお金の使い方であるのに対して、「投資」はかけたお金より多くの利益を得られる可能性があります。

個人に置き換えてみましょう。50万円の寄付をする人は周りを見渡してもほとんどいないと思いますが、株主優待目的で50万円の株式を買っている人は無数にいると思います。それと同じことですね。

2018年時点で、JPモルガンの中部大西洋地域担当会長であったピーター・L・シャー氏は明言しています。JPモルガンのお金の使い方は、費用でも寄付でもないのです。

これは慈善ではない

https://forbesjapan.com/articles/detail/22348

その言葉通り、廃屋の有効利用のための不動産、自動車系スタートアップの企業支援、地域の雇用の担い手を育てるためのスキルアップ研修など、デトロイトの活性化につながる様々な活動に投資したのです。

では、JPモルガンがデトロイトに投資することで得られるものは何でしょうか?

シャー氏の言葉を借りると下記2つです。

  1. 銀行業収益
    復興により労働人口や起業の増加、住宅市場の活況、経済成長が達成できれば貸出残高が回復し銀行業の収益向上につながります

  2. 地域活性化ノウハウ
    銀行家として復興支援できた成功事例ができれば、他エリアでの地域活性化にも取り組むことができます

ここからは推測ですが、JPモルガンの場合、上記2の要因が大きかったではないかと思います。地域が活性化していく中では、様々な資金ニーズが生まれるます。

  • 廃屋を建替・リノベーションするための借入

  • 入居した企業が商品やサービスを開発するための借入

  • 企業に勤める人たちが住宅を購入するための借入 などなど

一方で地域が活性化する、その最初の一歩を踏み出し、軌道に乗せる役割を担う人や企業がいないことが多いですが、JPモルガンは金融機関としては珍しくその役割を買って出たのです。当初から100億円の資金を準備し、その後追加でかけたお金も含めると合計数百億円をデトロイト復興に投じています。また、お金だけでなく、社員がデトロイトのNPOで3週間無償で働く「デトロイト・サービス・コープス」制度を立ち上げ、人の支援も積極的に行うなど、会社を上げてデトロイト復興にコミットしています。

結果として財政破綻からわずか3年後に、財政的にも産業的にも活気あふれる街に再建しました。このことにより、JPモルガンは地域活性化をリードできる金融機関というブランド力を獲得しました。その後、世界中のあらゆる都市でJPモルガンの地域への投資は広がっており、そこに紐づく各地でのビジネスも拡大しているようです。

JPモルガンの活動は、お金が余っている人(大手金融機関)が、お金が足りない人(財政難の自治体)に対して費用の範囲を超えて「投資」することで生まれるマッチングにつながっています。このはまさに「新しい金融」ではないでしょうか。

今回は分かりやすいJPモルガンの活動に着目しましたが、日本でも既に多くの金融機関が地域への投資を行っています。特に知識に根差した金融機関の活動は積極的でもあるため、今後は国内の取り組みにも注目していきたいと思います。

以上


①実践から学ぶ地方創生と地域金融
国内事例のみだが、地域に投資するとは何かが具体的に書かれている。

②地域創生と未来志向型官民連携
地域に投資する手段として拡大するPPP・PFIの実践事例をまとめた珍しい一冊。


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