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現代のパウパーに触れてみた所感

1.パウパー歴

 コモンのみの構築フォーマット、パウパー。MTGAでも定期的にイベントが開催されている事からも、最近始めた方を含めMTGをプレイしているなら名前を耳にしたことくらいはあるだろう。
 このフォーマットに筆者が初めて触れたのは今からおよそ7年ほど前、カラデシュが出た辺り。身近に熱心なプレイヤーが複数名いたことから触発されてデッキを組み、コモンのみとはいえレガシーと同様のカードプールが持つ懐の広さに魅力を感じたものだ。そして何より一部を除いてカードが安いため気軽にデッキを組めてしまう。それこそ当時高かったカードなんてのは《土牢/Oubliette》くらいなものだった。

当時ホットな黒単信心を支えた1枚。2000円で買ったのが懐かしい。
通じる人にだけ言うと右上の①のマナシンボルがはっきり見える方を揃えた。
一線級だったカードはフルアート版で揃えていた

 ちなみに自分が掲げるプレイスタイルの心情である「黒単でデーモンを扱う」という点についてだが、当時のカードプールにもしっかりデーモンは存在する。《魂獄の悪鬼》というデーモンを4枚採用した黒単サクリファイスを組んでおり同デッキのエースとして活躍させていた。サクり台+《発掘》で強引にライフをもってゆく動きも悪くなかった。

コモンのデーモン自体今でも少ないが、当時のカードプールではほぼ唯一プレイアブル

 また、当時は基本的にMOでコモンとして収録されたもの以外は例え紙でコモンだったとしても使えないというルールだったためMO未収録の特殊セット出身カードはイリーガルだった。その後2019年頃に現在と同じように紙のセットのみでコモン収録されたものもリーガルとなり、一層カードプールの幅が広がった。

リーガル化して一番喜んだ覚えのあるカード。3ターン目暗黒の儀式経由で怪物化

 ただ大会に参加する事は無く、オフ会や他フォーマットの大会の合間にフリープレイする程度だった。当時の構築フォーマットで一通りデッキリストを掲載する事を目標としていたものの、パウパーだけは何故か食指が動かなかったためデッキリストを載せるに至らなかった。
 結局その後もたまにプレイする事はあったものの、時の流れで筆者自身が競技フォーマットに打ち込んだり、周りのプレイヤーも他フォーマットに流れたりする等して積極的にプレイする機会は減ってしまい、一部のパーツだけを残してデッキを崩してしまった。

2.パウパー激変の2022年

 時は流れて2022年。執筆時点では2023年4月のためその約1年前。
「バルダーズ・ゲートの戦い」によって登場したイニシアチブ(地下街探索)というメカニズムが登場したりダブルマスターズ2022にてコモン落ちしたカード(中でも《僧院の速槍》)によってパウパーは更に進化しているという話だけ聞いていた。イニシアチブ持ちはその後4マナのものと《暗黒の儀式》と同じ色である《アンダーダークの探検者》が禁止になったが白と緑は今なお健在である。

5マナの奴は大丈夫と誤認しておりパウパー用にとうっかり買うところだった
個人的にこっちのコモン落ちの方がインパクト強かった

 更に同年、晴れる屋東京TCで開催される「神」シリーズに統率者が加わり、その数か月後にパウパー神も制定された。第2回目は配信も視聴しており、レガシーを中心にプレイされている48さんのフィーチャーマッチ。彼が持ち込んだのは今もなお有力とされている「ディミーアテラー」。位置づけ的にはコントロールデッキではあるものの、大量搭載されたキャントリップ、とりわけ切削付きのものを絡めて早期に《トレイリアの恐怖》《グルマグのアンコウ》着地を狙うもの。結果的には負けてしまったものの、《トレイリアの恐怖》加入により攻勢への転換が非常に早くなっており、今のパウパーの速度感の認識を改めさせられたと同時に非常に印象的な試合・デッキであった。自分が認識している黒系コントロールと言えば《エヴィンカーの正義》を《清純のタリスマン》2つ込みでバイバックし続けるのがフィニッシャーという気の長いコンセプトだったが時代の変化を痛感した。

実は《エヴィンカーの正義》を10ターンバイバックするより5/5で4回殴る方が早いんですね

 パウパー神の影響もあってか、普段Discordサーバーでご一緒させていただいている方々もパウパーを組み始めるようになった。それに感化されて自分も久しぶりにパウパーを組んでみるかと思い立ったのが今年2023年に入ってから。

3.デッキ再建

 さて、黒単の何かを組むことは決まったが何にしようか。《吸血鬼の君主》も非常に気になるが、おそらくこれが入るデッキでデーモンを採用する事ができるものは無い。となれば以前作成していた黒単サクリファイスを再建する方針が決まった。このデッキのパーツだけはほとんど残っていたため、容易に組み直せそうだった。

お誂え向きにコンセプトに合いそうな奴も最近出ている

 自分が離れていた間、他にもコモン落ちしているカードを探したところ、どこかのタイミングで使おうと思って断念してしまっていたカードでもある《ホネツツキ》がいつの間にかリーガル化していたためこれを使わない手はないと判断した。

1マナ3/2飛行接死!

 また、EDHラザケシュでも活躍している《巣のシャンブラー》加入により黒単色でも1マナで2体分となる火種やドレインによりライフレースをずらす事ができる《鋸刃蠍》も加わっているため、2マナが過多になりがちだった昔より遥かに機動性が向上している。

昔はここまで有用な1マナの火種はいなかった

 また、常にサクり台+火種(+土地2-3枚)という初手をキープできるわけではなく、時に火種だけでキープする必要が生じる。火種側は基本的に打点が1しか無い等、戦闘面において不安が残るものが多い。
 だが単体でもアド損せず強気に殴りに行ける生物がバルダーズ・ゲートに登場している。《ギルド公認のこそ泥》だ。

大体《悪意の大梟》

 2/1接死とそれだけ見れば普通だが、ブロック状態以外で死亡した際に1ドローが付いてくる。除去・相手のブロックを気にせず突っ込む事が出来、2点クロックとして心強い存在である。ブロックさせなければ生贄にしてもドローできるためデッキの方向性としても是非採用したい1枚である。

 火種はある程度確保できそうなため次はサクり台について。既存リストでも生物に寄せたものから《村の儀式》《命取りの論争》といったドロースペルに寄せたタイプなど様々あるが、過去作成した時と同じコンセプトで採用していた生贄を打点に変換できる《屍肉喰らい》《血の座の吸血鬼》を中枢とすることに。生物の性能が向上している昨今だが、サクり台だけは露骨に弱体化しているため彼らが引き続きエースを務める事となる。

本当はサイズを維持できる《屍肉喰らい》を5枚以上積みたい

 骨組みはほぼ完成したが、デーモン枠を《魂獄の悪鬼》続投とするか他のものを検討するか。今のご時世、前のめりなデッキも増えてきているのは神決定戦でも記憶に新しく、そういった相手では自分のライフも奪う《魂獄の悪鬼》はプレイする事がいささか躊躇われてしまう。しかしデーモンは採用したい。それもコンセプトに沿ったものを。

そんなものが果たして存在するのか?

いや、1枚だけ存在する。MTGAのパウパーでもお世話になっているものが。

《有頂天の呼び覚ます者/目覚めた悪魔》!

紙でも使いたかった1枚

 リミテッドでは腐乱トークンを火種に変身する事が多い1枚。変身後の4/4というサイズは中盤戦力としては有用で、リミテッドのみならずMTGAパウパーでも積極的に活用していた。それならば紙のパウパーでも活躍が見込めるだろうという事で採用に至った。サクり台としては1回しか起動できない上に3マナもかかるものの、1体の生贄で4/4になるのは他のサクり台と比べても効率が良く1ドローも付いてくる。コンセプトにも合致しているデーモンとして申し分ないスペックである。

 無事デーモン枠も確保できたところで役者は揃ってきた。数枚枠に余裕があり、フィットしそうなカードを模索していたところとあるカードに目が留まり、衝撃が走った。

度々収録される墓地から戻って来る系のスペル

 モダンでは《死せざる邪悪》《フェイン・デス》等のように+1/+1カウンターを載せて戻って来るタイプが採用されているが、こちらは先に+2/+0修正を与えてから戻す。パワーを上げる事で相打ちが狙いやすくなるが、戻ってきた時は元のサイズのままである。それらと比べて決定的な差は何か?

 そう、《巣のシャンブラー》のパワーを底上げできるため生成するリストークンの数を増やす事が出来る=生贄の頭数を一気に水増し出来るのである。パワー3となった《シャンブラー》を生贄にするとリストークンが3体+《シャンブラー》本体が戻って来る。戻ってきた《シャンブラー》を生贄にすると4体目のリスが生成される。それらリスを全て生贄に捧げる事で、実に計6回生贄に出来る。これを活用すると・・・

4枚で3キル

1ターン目:《葬儀甲虫》
2ターン目:《血の座の吸血鬼》、攻撃して1点。
3ターン目:《巣のシャンブラー》+《超常的耐久力》。計6回生贄にすることで《葬儀甲虫》7/7+《血の座の吸血鬼》13/13で20点!

 と、カード4枚(土地は沼2枚でOK)で3ターンキルが成立する。ゲインランド環境でもあるため20点では微妙に足りない事もあるが、2ターン目に1点入れる事で計21点となる。
 《死せざる邪悪》等でも似たような運用は出来るが、《シャンブラー》とのシナジーや先述したように相打ちに持ち込む使い方を加味すると《超常的耐久力》に軍配が上がる。ちなみに普段使いも考慮すると《葬儀甲虫》《屍肉喰らい》は自力で+1/+1カウンターが載るため《死せざる邪悪》はこのシリーズの中で最も採用から遠い。

 デッキの構成が決まり、フリー対戦やチーム戦へ参加してそこそこの手応えを感じる事が出来た。またこれを機にモチベーションが高まり、パウパーの店舗イベントへ足を運ぶように。初めて参加した単身でのイベントで4-1と好成績を残す事が出来た。

パウパー/サクリファイス/(Nakano Akinori,2023/02/05)デッキリスト | 日本最大級 MTG通販サイト「晴れる屋」 (hareruyamtg.com)

 このイベントを通じて感じた事は、《超常的耐久力》による奇襲も悪くは無いが、《巣のシャンブラー》不在時はカード1枚で1回分除去をかわすか生贄1回分水増しなだけであり、じっくり腰を据えたミッドレンジのような相手にはどうしてもリソース負けしてしまう傾向にあると感じた。

4.デッキ調整

 《超常的耐久力》による3ターンキルのような早期決着は無理に狙わず、《墓の刈り取り》をメインから採用してリソース負けしないようにする方が環境にあっているのではないかと判断し、それに伴いメインから《目覚めた悪魔》変身以外にも3マナ必要な場面が出てくるため土地枚数を1枚追加。途中《魔女の小屋》も試したが、少ない土地枚数でキープする事も珍しくないためタップインは許容しづらい一方でこれを使ってでも戻したい生物は少ないため有効に働く後半に引いてもそれほど活躍する訳でもなく、結果的に不採用と相成った。
 また今環境で最も勢いがある「カルドーサレッド」をはじめ、1/1が横並びする相手への回答策が少ないのが気がかりだったため少し厚めに採用する事に。ディミーアテラーや呪禁オーラのような布告除去が複数欲しい相手にいつでも気兼ねなく打てる《ゲスの評決》を《無垢の血》から差し替え。

 それらを織り込み、現在使用している形はこちらの形である。

パウパー/サクリファイス/(Nakano Akinori,2023/03/18)デッキリスト | 日本最大級 MTG通販サイト「晴れる屋」 (hareruyamtg.com)

 サイドボードは都度見直しているが、メインボードはほぼこの形で落ち着いて来ている。だが自ターンの戦闘フェイズを跨いだ後に全体火力・マイナス修正除去を介入されると《血の座の吸血鬼》だけ残すもののサイズを維持できないため詰め切れない展開も目立つため、今後別のサクり台を検討する可能性は大いにある。

5.最後に

 久しぶりに復帰したパウパーでそれなりに戦えているという実感があり、またパウパーを通じて知り合った方も少なくないためとてもこのフォーマットを満喫出来ていると感じている。一枚で勝ちにつながる強烈なカードこそほとんどないものの、自分のようなメタから外れたデッキでも十分活躍できる見込みがある点に懐の広さにこのフォーマットの奥深さを改めて感じた。冒頭でも触れたとおり、一部のカードはコモンとしては値段が張るものの他フォーマットと比べて非常に安価でデッキを用意できるためこの記事を通じてパウパーに興味を持つ方がいれば幸いである。

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