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№774 「孤独」について考える

近年、あちこちで「孤独」について、問題視されているようです。

人と人とのつながりがいっそう希薄化したことで、もともと社会が内包していた孤独の問題が
ここへ来て顕在化してきた感があります。

ただ巷間ささやかれているほど「孤独」という状態は悪いものなのでしょうか?

また、「孤独に苦しめられている」と訴える人は、
本当に孤独なのでしょうか?

個人的には「孤独」という言葉が何となく安易に、
しかもマイナスの側面を強調して使われ過ぎているような気がしています。

たとえば
「家族がいるし会社勤めもしているが、何だか自分の居場所がない!めっちゃ孤独だ!」

「SNSでつながっている友だちはたくさんいるのに、深くつき合っている人はほとんどいない!めっちゃ孤独だ!」

「今日は家で一日中、誰にも会わず何もせず、ただボーッと過ごしてしまった!めっちゃ孤独だ!」
といった場合はどうでしょう?

本当に孤独ですか?

その程度のことと言ってはなんですが、
それは「孤独」ではなくて
「孤独感」なのではないか、とボクは思うのです。

「孤独」と「孤独感」は同じもののようですが違います。

「感」の一字がつくだけで、
意味がガラリと変わるのです。

「孤独」とはひとりきりの状態。

「孤独感」とはひとりのときの気分。

そう定義すると、
いま問題視されている「孤独」の多くが、
「孤独」の状態そのものに悩んでいるのではなく、忍び寄る「孤独感」に心が苛まれている、と見ていいのではないでしょうか?

ここをまずはっきりさせると
「何とか孤独から脱しなければダメだ!」などと、
強迫観念のように思い詰めていた心が、
ふっと軽くなります。

「孤独だ!孤独だ!と思っていたけれど気分の問題なんだから、そう深刻になることもないな!!」
というふうに。

心に孤独感が広がることは程度の差こそあれ、
誰にでもあります。

逆に「自分の周りにはいつも人の花が咲いているし、孤独感とは無縁だね」なんて人のほうが珍しいでしょう。

そのくらい孤独感は誰にとっても身近な気分なのです。

なぜなら、孤独感というものはふとした瞬間、
するりと心に忍び入るものだからです。

たとえば仲良し4人組がいて、
いつも何をするにもいっしょに行動していたのに、自分を除く3人がディズニーランドに遊びに行ったとします。

知らなければそれまでですが、
ひょんなことからその話が耳に入ると、ちょっと傷つきますよね?

その傷口から孤独感が忍び入り、
心にじわじわと広がってしまいます。

「仲間はずれにされちゃった。どうしてだろう? 何か嫌われることをしたかな?」
などと考え、直接尋ねる勇気も出ないままに孤独感を深めていく。

そういうことはよくあります。

また友だち同士、グループラインでメッセージをやりとりしていて、
ふと「自分のメッセージは大半が既読スルーされてる」などと気づく。

そんなときも孤独感が心にするりと忍び入ってきます。

ほかにも
「会議で発言したのに無視された」とか、
「自分だけ連絡事項を伝えてもらえなかった」
「飲み会のお誘いがない」
「上司が声をかけてくれない」など、
ふとした瞬間に孤独感を覚える場面は誰にでも、
いくらでもあります。

「孤独感ってヤツは人を選ばず、隙あらば心に忍び入ってくるものなのだ」 と軽く考えるくらいで、
ちょうどいいかなあと思います。

さらに言うと、
孤独感にオリジナリティはありません。

孤独感に襲われると、
それを「誰も経験したことのない、自分だけに生じた特別な痛み」のように感じるかもしれません。

孤独に悩む人がよく「自分の気持ちなんか、誰もわかってくれない」などと言うのも、
どこかで自分の孤独感は特別だと思っているからでしょう。

たしかに人生で起こることも、それをどう感じるかも、人それぞれです。

十把一絡げにはできないものです。

しかし現実には、
孤独感というものは各人各様でありながら、
実は「ステレオタイプ」なものなのです。

たとえば失恋したときの孤独感。

いかにステレオタイプなものであるかは音楽を聞くとよくわかります。

Jポップや演歌はもとより、
海外のポップス、ロック、ジャズ、クラシックまで、
あらゆる種類の音楽を全世界横断的に見てみると、失恋をテーマにした曲がどれほど多いことか!!

いわゆる流行りの歌に至っては、
ボクの感覚では少なく見積もっても半分以上が失恋ソングではないかと思います。

そういった失恋ソングを片っ端から聞きまくってみる。

自分の抱えていた〝失恋由来の孤独感〟が、これでもかというくらい見つかります。

つまり自分にとっての大失恋も、
そのショックがもたらす孤独感も、
世間一般、〝あるある〟なものだったりします。

唯一無二の特別なものとして苦しむことはないと言えます。

それは失恋に限ったことではありません。

音楽をはじめ小説、芝居、ドラマ、映画、マンガなどの創作世界では、
多種多様な孤独感を描き出しています。

フィクションのみならずノンフィクションでも孤独感はさまざまに描かれます。

ひとりぼっちのときにじわじわと心に忍び寄る孤独感は、
どんなケースもほぼほぼ同じで、
ステレオタイプなものなのです。

なにもボクは、
みなさんの失恋とか孤独感を「ありきたりだ」とバカにしたいのではありません。

繰り返しますが、
孤独感は大半が気分的なものですから、
自分だけに襲いかかる特別なものと、
おおげさに受け止めないほうがいい、ということです。

それから、孤独感に対する感受性が強いために、
いたずらに〝無用の孤独感〟に苦しめられる場合があります。

先ほどのディズニーランドなどの例で言うと、
相手の側にこんな事情があったかもしれません。

順に可能性をあげてみましょう。

「仲良し4人組の3人がたまたま顔を合わせたときに、これからディズニーランドに行こうかと盛り上がっただけで、ひとりを仲間はずれにしたわけではない」

「みんな、ちょっと忙しくて、たまたまグループラインにメッセージを書く暇がなかっただけで、意図的に既読スルーしたわけではない。特定のひとりに既読スルーが頻発しているとしても、たまたま重なっただけのことだ」

「会議での発言はすべて議事録に残している。終了時間が迫っていたので、その場では発言を聞くに留めただけ。誰も無視などしていないし、次の会議で議論する予定だ!」

「連絡事項が伝わらなかったのは、単なるミス。たまたま連絡先から洩れていただけ!」

「飲み会に誘わなかったのは、忙しそうだったから。他意はないよ!!」

「問題なく仕事を進めているから、上司として声をかける必要を感じなかっただけ!」

もしこういった〝真相〟があったとしたら、
ムダに孤独感に絡め取られていたことになりますよね?

取り越し苦労だったわけです。

とはいえ、孤独感をキャッチするたびにいちいち事情を探ったり、
相手の真意をたしかめたりするのは面倒なことです。

この程度の孤独感なら、悩むだけ時間のムダ。

〝心の習慣〟として、「適宜、スルーする」ワザを覚えることをおすすめします。

そのためのキーワードは
「幽霊だと思って恐れていたものが、よくよく見たら、枯れたススキの穂だった」という話しです。

「怖いな」「イヤだな」と感じる気分というのは、正体がわからないところから発するものです。

正体がわかれば、「なあんだ」となることが多いのです。

孤独感もそう。

ひとたび心に入ってくると
「孤独だ!寂しい!不安だ!」というマイナス感情を、
心のなかでどんどん膨らませ、
モンスター化させてしまう部分があります。

たいがいは根拠のない思いこみに過ぎないのです。

 孤独感はひき始めの風邪のようなもの 病気にたとえて、
孤独感はひき始めの風邪のようなものだと、
ボクは考えています。

風邪って、大した病気ではないけれど、
「万病のもと」と言われますよね。

症状が軽くとも、放っておくと、
肺炎などの重篤な病気を引き起こす危険があります。

同様に孤独感も、
ひとりぼっちの寂しさを必要以上に深刻に受け止め、
「自分は孤独だ。誰からも好かれない」
と思い詰めると、しだいに〝孤独感症状〟が重くなります。

すると心が鬱気味になっていき、
最悪の場合、鬱病を発症しないとも限りません。

その種の鬱症状は、大きく分けて二つあります。

ひとつは、孤独感に苦しめられる原因を自分自身に求め、
「自分は誰からも好かれず、相手にもされない人間だ」
「社会からも、学校・会社からも、家族からも見放された、落ちこぼれだ」
というふうに自己評価をとことん低下させてしまうものです。

そのままにしておくと、どんどん気分が落ちこみます。

外に出たり、人と交流したりすることが億劫になり、
孤独感をいっそう深めることになります。 

そうすると自殺願望を誘発してしまう可能性もあるので注意が必要です。

もうひとつは、積もり積もった鬱屈を外に向かって爆発させるものです。

他者や社会に対して非常に攻撃的になり
「自分をないがしろにするこの社会には、価値がない。そんな社会に生きている意味はない。自分もろともぶっ壊してやる」

「どいつもこいつも気に食わない。誰でもいい、この憎悪をぶつけてやる」
というような思考・行動に走る危険があります。

多くはそこまでには至りませんが、
現実に起きている無差別殺傷事件などを見ると、
孤独感がいかに人の心を狂わせるかがわかります。

いずれにせよ、孤独感というのはつまり、
深刻に捉える必要はないけれど、侮ると大変なことになるもの。

いたずらに溜め込まないよう注意が必要です。
 
大事なのは孤独感が心に忍び入ったと察知したら、できるだけ早い機会に心から追い出すよう策を講じることです。

風邪だって、ひき始めに手当てをすれば症状を悪化させなくてすみますよね。

だから「ここのところひとりでいることが多くて、人恋しいな」
「仲間がいなくて、寂しいな」など、少しでも孤独を感じたら、
そのマイナス気分を溜め込まないように気をつけたいものです。


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