方山れいこ

「障害のある社会をデザインで変える」株式会社方角というデザイン会社の代表をしています。…

方山れいこ

「障害のある社会をデザインで変える」株式会社方角というデザイン会社の代表をしています。 アクセシビリティ・インクルーシブデザインのニュースとたまにエッセイ。 https://reikokatayama.com https://hogaku.co.jp/

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    方山がたまに書くエッセイを見てください

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    ユニバーサル/インクルーシブデザインに関わる話を綴っていきます。

最近の記事

光の与え方

毎年恒例のカロリーメイトの受験生モチーフ広告、今年は数学好きと美術好きの2人の学生の、テンポの良い美しい掛け合いが印象的なCM。 Xで流れてきたあのCMをはじめて見たとき、思わず息が止まりそうになった。 17歳の私が、まさにそこにいた。 とにかく生きることにやる気がなかった。 周りは受験に向けての勉強を始める中、自分だけ勉強できなくて、テストでは毎回赤点を取る。何に向けて頑張れば良いかわからなかった高校2年生の秋の終わり。たまたま夜更かしして、深夜に放送されていた歌番組で

    • 耳が聞こえる人間が世界ろう者会議に行った話

      7/11〜7/15まで、韓国済州島で開かれた世界ろう者会議(World Federation for the Deaf)に参加してきました! 4年に1度開かれるこのビッグイベント、お隣の国韓国での開催ということで、これは行くしかない、と思い切って1人で行って参りました。 参加者がほぼDeafの中、通訳者でもない聴者(耳の聞こえる人)はほぼおらず、毎日新鮮な日々を過ごしました。そんな聴者が体験した5日間をまとめましたので是非ご覧ください。 行こうと思ったきっかけ1月にシンガポ

      • 3月15日のこと

        3月15日。穏やかな春の日差し差し込む山手線に走る影を横目に、私は座席に腰掛けた。何気なくチェックしたFacebookの一番上のフィードを見て、まるで胸の内側から皮をヒリっと剥がれるような感覚を覚えた。 『この度、娘が藝大に合格しました! いいね***件』 11年前の3月15日は死にたくなるくらいよく晴れていた。合格発表を見る前にFacebookを見ると、同じ予備校の友人たちの投稿が踊っていた。 『藝大受かりました!』『合格しました!』 それらをひとしきり見終わった後、p

        • 障害者に関するPRを出す時に今年とても気にしたこと

          こんにちは、方山れいこです。 突然ですがみなさん、障害者やLGBTQなど、特定の人々(特にマイノリティ)に関する文章のPRを出された経験はありますか? 私は「障害のある社会をデザインで変える」会社、株式会社方角を経営しています。デザイン制作に加え、主に聴覚障害者向けのサービスやプロダクトを開発しています。 今年はありがたいことに、色々とメディアに出させていただいたり、自らPRを打ったりする機会が多い年でした。また自分の意見を公の場で述べたり、Voicyでほぼ毎日配信もさせ

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          私がデザイナーになったわけ

          「デザイナーになりたいと思ったわけ」と「デザイナーになったわけ」。大体の人の中では同じ話を指しているのかもしれないが、私の中では全く違う話である。 美術系の大学院も修了間際。就職先も決まらずフラフラしている私に、当時出入りしていたインターン先の人事の方はよく親身になって話を聞いてくださった。 「方山さん、就職とか興味ないの?」 「いや、全然興味ないっす」 「なんかいいなって思う会社とかないの…?」 「あー、なんかかっこいいなーって思ってるとこはありますけど」 その人事の方が

          私がデザイナーになったわけ

          なぜインクルーシブデザインを行なう会社がノーコード開発に力を入れるのか

          株式会社方角の方山と申します。突然ですが、弊社は2022年4月、ノーコードWEB制作ツール「STUDIO」の認定パートナー「STUDIO Partners」となりました。 参考:弊社のPartners紹介ページ STUDIOでのWEB制作を本格的に始めたのは、遡ること2020年。代表である私方山がフリーランスデザイナーになったばかりで無一文だった頃、ライスワークとして始めたのがきっかけです。 会社化した現在、エキマトペやYY Probeなど、聞こえない方・聞こえづらい方向

          なぜインクルーシブデザインを行なう会社がノーコード開発に力を入れるのか

          「しゃべらないパーティー」の作り方

          株式会社方角の代表の方山です。10月より弊社はプチ拡大移転をし、先日クローズドの移転パーティーを行ないました。 今回は初めて自分がパーティーを主催するので、せっかくならうちの会社ならではの移転パーティーにしたいと思い、こんなコンセプトを掲げました。 「しゃべらない」 従来のパーティーは、しゃべってたまにご飯食べてしゃべって飲んで・・・って感じが普通ですよね。 弊社はエキマトペやYY Probeといった、耳の聞こえない・聞こえづらい方々向けのサービスのデザインをすることが

          「しゃべらないパーティー」の作り方

          手話を1年習ったらどの程度までできるようになるのか

          耳の聞こえない・聞こえづらい方へ駅の情報を視覚的にわかりやすくするエキマトペというプロジェクトにデザイナーとして携わったことにより、私の人生で大きく変わった出来事がありました。 ※エキマトペはこんなものです▼ いくつかあるその大きな出来事のうちの一つに、手話を習い始めたことがあります。 2021年10月より手話を習い始め、ちょうど1年が経った今、どのくらい手話ができるようになったのか書き起こしてみました。 アメリカでは手話は人気の言語らしいですし、2025年には聴覚障害者の

          手話を1年習ったらどの程度までできるようになるのか

          父の10年日記

          私の父は、寡黙で厳しい父だった。 テレビは夜8時まで。ゲームは禁止。なので家にはゲームボーイすらない。当時「親ガチャ」なんて言葉があったら、悪い子供だったので多用していたかもしれない。 しかしそんな父のことを嫌ではなかった。父は昔から少し異質なオーラを放っていて、なんとも言えない威圧感があった。それが怖いこともあったが、安心材料でもあった。 父が普段どんなことをしているのか知りたくて、たまに父の書斎に忍び込んではその生体を理解できず撤退することを繰り返していた。 ある日いつ

          父の10年日記

          聖人君子じゃないけれど

          今年の1月、会社を設立した。 それまではフリーのUIUXデザイナーとして細々と仕事を請けていたが、親戚が零細企業の経営者だらけなこともあり、自然な流れで経営者となった。 節税5割・なんか面白そうだから5割の、勢いだけで創業した会社。スタートアップがよく掲げる「世の中を変えたい」とか「業界を盛り上げたい」みたいな気持ちはほとんどなかった。 そんな軽すぎる気持ちで会社を作り一年が経とうとする今、やっとスタートラインに立った気がする。 今年の夏の初めから、富士通さん、JRさん、

          聖人君子じゃないけれど

          ルーズソックスを握りしめて

          駅を颯爽と歩く女子高生3人組。黒くて長い髪で夏の風を象る姿がまぶしかった。私もあのくらいの歳の頃、確かにあんな風で肩を切って歩いていたかもしれないなと思ったその時だった。 3人のうち1人の格好に、私は少し驚いた。他の2人は学校指定と思われる靴下なのに対し、彼女だけが足元が白くクシュっとしていた「それ」を履いていたのだ。 「それ」を初めて見たのは小学生の頃だった。 90年代後半、コギャルが世間でもてはやされていた頃。その一風変わった格好を大人たちがどう思っていたか覚えていない

          ルーズソックスを握りしめて

          ツギハギの永久歯

          左右の奥歯がやたら染みる。冷たいものも、熱いものも、甘いものも、酸っぱいものも。3ヶ月前の検診の時もこんな症状が出ていた気がするが、ここまで症状は重くなかったような気がする。仕方ないので歯医者に行くことにした。 らしくないオーガニックな小物が並ぶ待合室で名前を呼ばれ、奥の部屋に誘導され、そのまま横たわった。 早速奥歯に風を当てられた。思わずウッと呻く。 「知覚過敏が進んでいますね。プラスチックのフタを被せましょう。少し痛いと思うんで、麻酔をしますね」麻酔という言葉に少々体が強

          ツギハギの永久歯

          裸の目(3/7週)

          先週は祖母は亡くなるというビッグイベントから幕を開けるというなかなかハードな一週間だった。 祖父が亡くなって11年。あの時は「おじいちゃんありがとう」と心の中で繰り返すことが多かったけれど、今回は「ただ甘えたい」という気持ちが強い。死んだら皆同じ、というわけではないようだ。 祖母の遺体は、孫たちの写真と共に荼毘に付した。わたしは初孫だったので孫の中でも必然的に写真が多く、そのたくさんの写真は祖母のもう動かない足を布団のように包んだ。自分の写真に囲まれながら棺の蓋をされる祖母の

          裸の目(3/7週)

          ガラス玉の音

          昨日未明、祖母が亡くなった。 寝たきりになって1年近く経っていた状態での逝去だったが、最期まで耳もよく聴こえ、目もよく見え、歯も状態よく残っていたのはさすがに生命の神秘みたいなモノを感じた。おじや父が60代に到底見えない謎の若さを持っている理由がよくわかった。 日付を跨ぐ頃にその呼吸が止まり、わたしたちはその魂が既に去った身体を握り締めながらひとしきり泣いた。その後そのまま実家に泊まり、朝が来たので起きて、食事をして生活は順調に再開したと思っていた。 だって思ったより落

          ガラス玉の音

          赤いドラキュラとハートのLIKE

          浪人生の頃から憧れていたアートディレクター石岡瑛子氏の個展を先月見に行った時のこと。 「ドラキュラ」という映画の衣装デザインを彼女が手がけた時のことを説明するキャプションの中に、その言葉はひっそりと存在した。 『あらゆる固定観念を嫌う瑛子は、・・・』 胸を鋭利な何かで鮮やかに突かれたような気がした。 日々仕事をしていて感じるのは、UIUXデザインというのは、ほぼ固定観念で成り立っているデザインなのではないかということである。 例えば「LIKE」の概念は「フォロー」とは違う、

          赤いドラキュラとハートのLIKE

          株式会社方角の生後1ヶ月を記念して

          1ヶ月前の1月4日、株式会社方角という会社を立ち上げた。なぜ1月4日なのかというと、法務省が一番早く開く日がこの日だったから。よく聞かれるが、読み方はそのまま「ほうがく」。方位とか方向とかの方角なのに、なぜか素直に読まれないのが最近の悩みだ。 自分が社長になるなんて1年前の自分は想像もしていなかったなんて言ったら笑われるだろうか。でも設立までの1年は、つむじ風が吹いたように全てが変わっていった1年だった。 2月の終わりに結婚が決まり、今後も同じ人生を歩んでいていいのか急に不

          株式会社方角の生後1ヶ月を記念して