福島第一原発の廃炉への今と周辺の街を見てきました

福島第一原発で起きたことと今の状況
2011年の東日本大震災のことは多くの人が覚えているかと思います。大きな地震の後に、東北の太平洋側には大きな津波が押し寄せました。私も都内から津波の様子をテレビを見たときに大変なことが起こっていると感じたのを覚えています。その後も余震が続き予断を許さない状況が続きました。
その時福島第一原発では、地震によって発電所のすべての外部電源を失いましたが、非常用電源が動いたため、一時的には原子炉の冷却をすることができました。しかしその後の津波により、地下にあった非常用発電機や原子炉の熱を冷やすためのポンプ設備などが水没し、燃料を冷やすことができなくなりました。
原子力発電の仕組みは、燃料の中にあるウランが核分裂を起こすときに発する高熱を利用して、水を蒸気に変えてタービンを回します。燃料の中で核分裂は続き、冷やさないで放置しておくと過剰な熱を発してしまい、燃料棒が水蒸気中にむき出しになり、燃料自体が溶けてしまいます。原子力発電の燃料は高い放射能を持っており、人間に害があると言われている放射性物質を発するため、何重もの壁で安全に守られています。

福島第一原発では稼働していた1~3号機で冷却ができなくなり、燃料が過剰な熱を発してしまったため事故がおこってしまいました。
1号機、3号機では燃料がむき出しになり、水蒸気と反応して水素が発生し爆破して、そこから放射性物質が大気に放出されてしまいました。その後2号機でも冷却ができなくなり1号機の爆破により空いたと思われる穴から放射性物質を大気に放出してしまいました。
近隣エリアでも安全に人が生活できる放射線量を上回ってしまい、避難を余儀なくされてしまいました。現在でもまだ機関困難区域というエリアがあり居住はできない土地がありますが、特定復興再生拠点として少しづつ復興を進めているエリアもあります。

引用:復興庁のHPよりhttps://fukushima-updates.reconstruction.go.jp/faq/fk_040.html

また福島第一原発事故では、燃料が過熱し高温になりすぎて燃料自体を溶かしてしまうメルトダウンという現象も起こってしまいました。燃料は棒状に敷き詰められ何本も束ねた状態で燃料格納容器に格納されています。燃料は核分裂を続けるため、人が遮蔽物なく近くによると人体に影響があるレベルで被爆してしまいます。普段は燃料棒が集まった燃料集合体をクレーンで、放射性物質を遮ってくれる水の中を移動させますが、燃料自体が溶けてしまうとクレーンで取り除くことができません。しかしメルトダウンした燃料(燃料デブリ)は他の金属も巻き込み、大量の放射性物質を放出するため、廃炉を進めるには安全に取り除かなくてはなりません。約800tあると言われている燃料デブリを取り出すために、特殊なカメラ付きのロボットアームが開発されたりしていますが、一日に取り出せる量は数グラムだそうです。
安全に廃炉にするには、まだまだ長い道のりだということがわかると思います。今は1日約4000人もの方が出入りをし、廃炉に向けての作業を行っています。写真を撮っている場所は第1号機の原子炉建屋から80m離れた場所ですが、このように私服でも立ち入ったり作業ができるほどの放射線レベルに落ちています。とはいえ原子炉の近くにはまだほんの短い時間しか近づくことができず、ロボットを活用したり、人にしかできない作業は交代交代で取り組んでいるそうです。
今回案内してくれた経済産業省の木野正登さんは、福島を第二の故郷だと思っており、福島の復興や廃炉問題に人生をささげるとおっしゃっていました。

復興中の第2号機(左)と第3号機(右)
第5号機の核燃料プール

今話題のALPS処理水とは?
今でも福島第一原発の燃料デブリを冷やし続けている水があります。それ以外に地下水が原子炉格納容器に浸水しており、燃料デブリに触れてしまうことで放射性物質を含んだ汚染水がつくられています。ALPS処理水とは、この汚染水をALPS(多核種除去設備)というさまざまな放射性物質を取り除くフィルターで処理した水です。このフィルターを通しても唯一取り除けないのがトリチウムという放射性物質ですが、トリチウムは水素の同位体であり不安定な物質の為放射能をもっています。
このトリチウムを含んだALPS処理水を海洋放出する計画があり、早ければ今年の春には海洋放出を実施します。放射性物質と言えどもトリチウムは自然界にも存在し、海洋放出する水は国の安全基準の40分の1、WHOの飲料水基準の7分の1までにも薄められます。
ALPS処理水は1日約140t増え続けています。昔は540tほど増えていましたが、地下水の侵入を防ぐ凍土壁などの対策で、汚染水の発生量を減らすことができたそうです。しかし、増え続けていることに変わりはなく、ALPS処理水を一時保管するためのタンクが1066基(23年4月6日現在)もあります。このタンクを作る場所も限られており、もうすでに97%を使用しているため、毎日でき続けるALPS処理水を放出する必要があるのです。
広い福島第一原発の敷地を移動していると、あらゆるところにタンクが置いてありALPS処理水が溜まっていることを実感しました。実は原発の敷地内で出た、使い捨ての作業着やごみは放射性廃棄物という扱いになるため、原発の敷地内で焼却などの処分をする必要があります。ALPS処理水のタンクは既にいっぱいですが、わずかな残された土地にはほかの廃棄物を処分する施設も建設する必要があります。
ALPS処理水の海洋放出に伴い安全性を再確認するために、福島第一原発の構内では、ヒラメやアワビの養殖もおこなわれていました。
わたしも実際にALPS処理水を持ってみましたが、たとえ飲んだとしても科学的に人間に害はないようです。実際に放射線測定器で測ってみたところ、ALPS処理水では何も反応せず、ネット通販で売っているラドン温泉の元では反応しました。安全性にしても厳重の注意が図られ、安全性が保たれているということを知ってほしいと感じました。

ALPS(多核種除去設備)
ALPS処理水を持つ私

ALPS処理水の海洋放出について。youtubeで解説しています
https://youtu.be/UijYBVc4G-s

周辺の様子と復興の状況
今回宿泊したのはJビレッジという施設で、スポーツができるグラウンドと会議室や宿泊施設も備えた、日本代表も訪れるなどサッカーの聖地のような施設です。Jビレッジは震災時に福島第一原発への物資を運んだり、復興に向かう人たちの拠点となっていました。当時の状況をJビレッジの当時コーチをしていた方にお伺いしました。
「震災直後は福島第一原発への物資や現場に向かう人の中継拠点となりました。トルシエジャパンも練習していた大切なグラウンドが駐車場になってしまい、胸が痛みました。グラウンドの芝は再生するのが難しく、一時はJビレッジもまた再生することができないのではないかと言われていました。2019年にはすべての施設が利用できるようになり、今ではU18の大会も開かれるなどして活況が戻っている。Jビレッジから福島の復興につながればいいと思う。」とお話ししてくれました。
私が写真を撮った綺麗な芝生も、震災直後は車が出入りし芝の跡形もない駐車場になっていたと思うと心が痛みました。

Jビレッジのセンターグラウンド

福島第一原発周りには、まだ住むことができない帰還困難区域というエリアがあります。平成29年5月からはそのエリア内でも特定復興再生拠点区域というものが制定され、居住するために除染やインフラ整備が行われています。とは言っても、現状は13年前に避難をしてから帰ってくる方は少なく人口は激減しています。
街は当時のまま残されており、人々が慌てて避難したあとも何もできなかったことがよくわかりました。12年前の時が止まったままで、住宅もそのまま、お店もそのまま残っていました。写真は2011年4月にオープン予定だったケーズデンキです。その後解体することもできず、オープン前の綺麗な状態でそのままであるものを見て、このエリアは時が止まったままであることを実感しました。

2011年4月オープン予定だったケーズデンキ

今回の視察で感じたこと
福島第一原発の中はもちろんのこと、周辺地域に足を踏み入れたのも初めての経験でした。
まず驚いたのが、たくさんの人が毎日廃炉に向けて作業をしているということです。今から電気を生み出すこともなく、花形とは言えない仕事かと思います。その仕事を社会のために、日本に生きていえるみんなのために行っている方々がいるということに感銘を受けました。
またALPS処理水や原子力発電ということについても、良く知られていない為、危険だとか危ないという風評被害が起こっているのも事実です。
福島第一原発の事故ではたくさんの方が被災し、甚大な被害がありましたが、それを風化させることもなく、教訓として前に進むことが大事だと思います。私にできることとして、事実を伝えながら、失敗を受け入れ明るい未来に向かって前に進んでいくことを続けようと決心しました。

伊藤菜々


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