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ホン雑記 Vol.729「比類なき生きがい」

昨日のNHKのハートネットTVがひたすら良かった。


世界中のアート市場から注目を集める「やまなみ工房」は、障害者福祉施設でもある。施設が開所された35年前には、ごく一般的な障害者支援の施設だった。

ある日、入所者のひとりが作業に使っていた1枚の紙切れに鉛筆でイタズラ書きをしていた。スタッフらは「ちょっと、何してんの」ということになるわけだけど、現施設長の山下完和氏はその彼の目がキラキラしてるのを見逃がさなかった。
普段はひとつこなして1円にも満たない内職しかなかった。山下氏は思う。入所者はやっぱりずっとつまらないと思いながら作業を続けていたのか。それから山下氏は入居者たちがどうしたら少しでも笑顔でいられるのかを考えるようになった。
その末に無二のアート集団は出来上がった。いや、山下氏の中にはそんな感覚もないんだろうけど。


思わず…というか、意味もまったくわからず泣いてしまった作品がふたつあった。思えば共通項は明らかに「圧倒的な量」だ。

ひとりは粘土でひたすらにオリジナルの地蔵を作る人だった。高さ10cmほどの地蔵が自分の作業机を埋め尽くすとその日の作業が終わる。

正己地蔵(Masami jizo)

これは完全にうろ覚えだが、製作者の山際正己さんは1体作るたびに「ようやったなー、日本一やなー、ありがとうさん」みたいなことをいちいち言っていくんだけど、そこでまず泣いた。
少しの、だけど強烈な嫉妬と、純粋な圧倒的崇高さを感じた。それはなんというかもう「山際正己」という自然現象だ。嫉妬の原因は「こんな人に敵うはずがない」だろうか。が、それによってオレはまた「自分は何かを作りたい人なんだなぁ」と思う。


もうひとりは酒井美穂子さんという方で、この人は何かを作ってすらいない。ただひたすらに施設内で、そしてそれ以外の場所で、睡眠時間以外の全時間を「サッポロ一番 しょうゆ味」の袋を触り、眺めることだけに費やしている。いったい何が彼女をそこまで掻き立てるのか、誰にもわからない。
心が波打った。「何者かにならなければ」「こんなことをしてる時間はない」と、行動がまるで伴わないままいつも焦ってるオレに対しての真っ向からのアンチテーゼだった。が、実のところオレが待ち焦がれていた人なのかもしれない、とも思った。

タイトル不明(Unknown )/ サッポロ一番醤油ラ ーメン(Sapporo Ichiban Soy Sauce Ramen)

1日に1回いじくる袋を取り換える決まりがある。たしか朝自前の袋を持って来て工房に置いていく暮らしだったと思う。それにスタッフが付箋で日付を貼り付けていくのだ。これはボロ泣きした。

オレは自分の音楽作品(未発表のものには特に)でもよく「これ、なんか意味ある?」と思ってしまうんだけど、そのことが売れる売れないよりも何より怖い。いつも戻ってきてるから細々とやってるんだけども。
だけど彼女のその一般的には意図不明とすら思われかねない人生は、彼女自身よりもむしろ他者のオレを強烈に鼓舞した。「はい。意味あるんです」と言ってもらってるようだった。
(タイトル画は「『無意味、のようなもの』展」時の写真)


施設長の山下氏も結構変わってる感じの人なんで、彼もありのままの人たちにはずいぶん救い上げられてきたのかなぁ。




p.s.
山下氏と入居者たちで作った絵本作品を載せときます。

http://a-yamanami.jp/information/staff-report/001_monogatari.pdf




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