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育児期間10年。都内SE→新潟ベンチャーCDOの諦めない働き方

株式会社DERTA(デルタ)は、地方企業や地域に根ざした課題を「デザイン」「デジタル」そして、起業家・クリエイターが所属する「共創コミュニティ」の力で解決する会社です。
2022年に設立したDERTAには、3度の起業を経験した代表の坂井をはじめ、PM・UXデザインやマーケティング・SNS戦略など、さまざまな専門領域を持つメンバーが在籍しています。

今回は、DERTAの立ち上げメンバーで取締役CDO(最高デザイン責任者:Chief Design Officer)である須貝さんにインタビュー。

慶應義塾大学法学部卒業後、大手旅行会社のプログラマーや制作会社で大手クライアントと対峙するPM等を経験。結婚・出産を機に新潟へ移住後、10年の育児期間を経て完全復帰。現在は都内のUI/UXデザイン会社でのPMとDERTA CDOを務める。エンジニアからCDOという経歴の変遷や感じているDERTAの強み、子育てを経たからこそ実現したい世界感などを語ってもらいました。

須貝 美智子
山口県出身。東京で大手企業のWEBサイト制作などに携わったのち、結婚・出産を機に新潟に移住。2019年東京のUI/UXデザイン会社に完全リモートで参画し、プロジェクトマネジメント、UXデザイン、イベント企画・運営などを担当。2022年、新潟で株式会社DERTAを設立し、同社CDOを務める。



基準は「旅」をしながらできる職種

もともと、わたしは山口県の田舎が出身です。マクドナルドがない、百貨店もない、最寄り駅が無人駅で18歳まで自動改札を見たこともない。そんな地元では職種の選択肢も少なく、親の背中を見るうちにいつからか「公務員になればいいのかな」と思い、都内の法学部政治学科に進学しました。

地元と東京の環境のちがいに衝撃を受けながらも、実際に法学部の授業を受け始めます。法学を学べば、こうあったらいいなという世界を実現する手段になると思っていたはずが、過去の判例を学べば学ぶほど自分ではどうにもならない世界だと思い知らされていったんです。

ちょうどそんなとき、通っていた大学と協定関係にあったスタンフォード大学のALC(American Language & Culture)というプログラムに応募しました。それは、スタンフォード大学で単位を取得し、アメリカのカリフォルニア州にある「ヨセミテ国立公園」という場所に滞在することもできるプログラムでした。実は、ずっと関心を寄せていた場所でもあったんです。高校時代、「自然保護の父」と呼ばれたジョン・ミューアの生涯を描いたテレビ番組にくぎ付けになってしまい、自然を大事にするスピリットを継承するすばらしさに感銘を受けた経験がきっかけでした。

留学当時の写真

無事にそのプログラムには合格し、念願のヨセミテ国立公園を味わうことができました。その余韻から抜け出せず、その後バックパッカーにはまってアメリカ中の行ってみたい国立公園を行脚したことも、いい思い出です(笑)この旅をきっかけに、「旅をしながらできる仕事」として選んだのがエンジニアでした。

感動するプロダクトだから、クオリティを諦めない

新卒では、関心の先にあった旅行会社にプログラマーとして新卒入社。組織規模も大きかったので決まったことをルーティンでこなすことに違和感を覚えながら、悶々とした日々を3年ほど過ごしました。入社時に思い描いていた「本質的な価値を生み出す」ことが手に入らないものだと感じてしまい、なんとか現状を変えようとボーナスを全てつぎ込み、専門学校へ。半年間働きながらwebデザインを学んだのち、web業界に転職しました。

都内の映画・CM関連の制作会社と、出版社のweb部門の2社で経験を積みましたが、ここではとにかくクオリティへのこだわりを学びましたね。
映画・CM関連の制作会社では、子どものころから絵を描きつづけてきたようなデザイナーも在籍する中、私が見いだしてもらえたスキルはマネジメントの領域。クルマのwebサイトのPM(プロジェクトマネジメント)などを行いましたが、大きなお金が動くプロジェクトだったので対価としてどんなバリューを出せるかを常に求められつづける環境に身を置きました。時代と逆行するかもしれませんが、当時はMTGの時間はAMかPMか書かないとわからないような世界線にいたこともありましたね(笑)

その次の出版社時代では、これから出版する本のプロモーションサイトなどを手がけていました。プロダクトをきちんと届けるお手伝いをしていたという意味では似たような仕事だったかもしれません。

経験がない中、この2社で頑張れたのはプロダクトに感動していたからなんです。「このクルマすごい素敵だな」と惚れ込んでいたし、「この本の素晴らしさが伝わるクオリティを担保しなければいけない」という気持ちもあった。こんなに頑張ってものづくりをする人たちのために何とかしたい、と純粋に思っていたんでしょうね。いいものをきちんと魅せるために、アウトプットのクオリティを自分が引き上げないといけない責任を感じていたし、その気持ちは今も変わりません。

少し脱線しますが、20代後半の頃に言われて印象に残っている言葉があるんです。自分より上の世代のカメラマンさんとご一緒したとき「みちこさんが本気で向き合っているから、おじさんたちも頑張らなきゃと思っているんだよね」と言ってもらえたんです。当時、経験も浅い中、プロの職人さんに動いてもらわなきゃいけない立場だったので、すごく嬉しくて。実はこの方とは15年の時を経て、最近また一緒にお仕事ができていたりします。当時の他のメンバーにも「あのチームは特別だった」と言って頂いたり。皆さんとは今でも交流があり、仲良くさせて頂いています。本気度ってなんにでも共通するなと。違う仕事をしていても、同じ気持ちで取り組めるとそういう繋がりも培えるんですよね。

仕事を全て辞め、たった一度の子育てにフルコミット

結婚・妊娠を期に、夫の地元である新潟への移住を決意します。地元が自然に囲まれていたこともあり、新潟のほうが子育てしやすいと考えがあったからです。仕事は一度全て辞めました。
いま、中学2年と小学5年の男の子の母なのですが、次男が小学校にあがる10年ほどは育児をやりきると決めていました。子育てって一回しかないじゃないですか。だから悔いを残したくなかったんです。
現在、子どもたちはサッカーのクラブチームや、ダンス、プログラミングなどそれぞれの分野で毎日のように練習に励んでいますが、わたしもこの子たちの夢を全力で応援しています。一方で、子どもたちもわたしが家でPCに向かって泣いたり笑ったりしながら全力で働く様子を見ているので、すごく応援してくれているのを感じますね。

育児期間は、1日2-3時間ほどの時短勤務からスタートし、新潟の制作会社でディレクションなどを手伝っていました。無事に次男が小学校に入学したころ、東京で開催されたWorld IA Day(情報設計の勉強会)参加をきっかけに東京のUI/UXデザイン会社に完全リモートでの参画を決意。新潟に居ながら東京の新規事業などの案件に携われるのでとても刺激になっています。長い間、ビジネスから離れていた自分が通用するのかという不安が大きかったですし、無力さを感じ泣きそうになったことも数え切れません。正直、今も足りないと思うことだらけです。ですが、エンジニア出身のPMという経歴を生かして多様な職種の人と情報の分断が起きないコミュニケーションを心がけています。

(参考)同UI/UXデザイン会社のインタビュー記事:自分の夢も!子どもたちの夢も!ポジティブに欲張る新潟在住プロジェクトマネージャー

DERTA起業と兼業のメリット

その後、DERTAを起業することになります。もともと、DERTA代表の坂井さんとは新潟の制作会社を通じてお仕事でご挨拶したことがありました。その後、とある勉強会で感化されて、新潟でもビジネスナレッジをシェアする勉強会を開催したいと思うようになり、坂井さんと話していたら東京と新潟での情報格差という共通課題を持っていたことが分かり、すごく盛り上がってしまって。2019年に初の勉強会を開催し、第二回目にはいきなり100人ほどが集まり、需要の高さも実感もしました。その後、勉強会を続けるうちに企業から依頼されることも増え、2022年1月に法人化に至ったという経緯です。

第二回目に開催した勉強会のスタッフメンバー

いまは、UI/UXデザイン会社とDERTAのCDOを兼業していますが、両社に所属するメリットを感じています。東京での新規事業案件に携わりながら、地方が抱える課題をリアルに把握し解決にも挑む。わたしだからこそ見える景色、できることがあると信じているんです。

一緒に働くDERTAのメンバーは前向きですごく素直でポジティブなので気持ちがいいです。先日も、SNSなどで話題だったchatGPTを利用して、問いを入力すればDERTAの各メンバーが言いそうな回答を吐き出してくれるスプレッドシートをつくってくれたメンバーが突如表れたのは、最高でした!こういった、変化を恐れず新しいものを取り入れようとする姿勢はDERTAらしいと思います。
メンバーにフィードバックを伝える会でも、何も言っていないのに誰かがmiroを装飾しだしたらみんなそれに乗っかって全力で遊んだり。誰が言うでもなく、「楽しむ」。愛すべき人たちだなあと噛みしめています。

一方で、ある程度しっかり自分を持っていて、いい意味で自信があって独立している人が多い。卑下しないところは素敵だし、そういう抜け感もあるところが、すごく、好きです。

DERTAは「新潟でネクストアクションを起こせる場所」

いま、DERTAではサービス開発やチーム組成、アウトプットのクオリティ管理などの役割を担っています。正直なところ、わたし自身ビジョンは特にないんですよね。でも誰かのやりたいことに「それいいね!実現しようよ」と乗っかるのが得意で好きなんです。
DERTA CEOの坂井さんも、ビジョナリーで新潟や世の中を少しでも良くしようと考えている人です。会話の中で見つかる小さな「あったらいいな」をつなぎ合わせると、DERTAが掲げる「アップデートローカル」に繋がっていく。まだまだ抽象的なんだけど、叶えたい未来がたくさん見つかる貴重な場所でNo.2でいることに居心地の良さがあります。

DERTAには、とても可能性を感じています。日本のGDPの6割は地方というデータもあり、DERTAが新潟で地方創生のロールモデルとなれたら日本全体を少しでもアップデートできるんじゃないかと本気で考えている。これは、いま都内で本業を抱えながら手伝ってくれているパートナーメンバーも同じ気持ちだと思います。


あとは、「新潟でネクストアクションを起こせる場所」になりつつあるなと。一緒に働けることを嬉しく思うハイブリットな人材がどんどんジョインしてくれていて。他県でもなかなかない環境だと思うんですよね。Uターンで人材が地方に戻ることはあるかもしれませんが、都内の案件をこなしながら同時進行で地方のいまの情報にもタッチし続けられる。この環境は、DERTAの特徴であり強みです。
他にも、新潟在住の他業種からDERTAに参画してくれたメンバーたちもキーマンです。デジタルやデザインに触れてこなかった彼ら彼女らが社内の重要ポジションで、分からないことを「分からない」と言ってくれる。この感覚を持ちビジネス展開できるからこそ、クライアントにも寄り添えることができるのだと思います。

挑戦するのは「社会のデザイン」

わたしは、10年間の子育て期間を経てキャリアを諦めそうになっていた時期もあります。長い間、第一線を離れていたし、子育て中心に生きていたので社会に置いていかれていた感があり、復帰するのは、本当に怖かったんです。
地方では、予算や会社方針の都合でクオリティを諦めなければいけないシーンにも直面し、時には絶望していたこともありました。もし、育休明けのキャリア形成で悩んでいる方がこの記事を読んでいてくれたとしたら。いまは、コロナ禍を経て間口が広がっています。自分に合う働き方を探して、いつかたどり着くことができるといいなと思います。

そしていずれ、そういう方が働く場所もつくっていきたいです。デジタル化によって勤務場所や仕事内容のバリエーションも増やすことができるはずです。そのうえ、デザインは結局、「設計」であり「最適化」。いろんなことを整理すると不必要な要素があぶり出されます。そこから新しい雇用形態が生み出せるといいな、と。
もしかしたら、いまの働き方を通じて「社会のデザイン」に挑戦したいのかもしれないですね。