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「バーチャルファースト」なカルチャーをデザインするには

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Designing A Virtual First Culture That Supports Creativity

Dropbox社は最も早くバーチャルファーストに移行している会社の1つです。この新時代の働き方を効果的に、健全に、そしてクリエイティブなエネルギーを与えるようなものとして続けるためのヒントを、同社の編集責任者であるTiffani Jones Brown氏が語ってくれました。

昨年のリモートワークへの突然の移行は、多くの人の働き方を劇的に変えました。それは、私たちがデジタルでバーチャルな働き方により強く依存するようになる、新時代の到来を告げるものでした。結果として、多くの企業は変化への適応を迫られ、そこで働く人とチームが変化に対応できるように手を打つ必要がありました。私たちの習慣が突然変わったにもかかわらず、多くの研究が在宅勤務の利点を示してきています。

2021年、他の多くの企業と同様に、Dropboxも完全な「バーチャルファースト」への移行を決断しました。それ以降、彼らは急速に従業員がスムーズに移行するための実証プロセス、プラクティス、そしてツールをプロトタイプ化し、その結果の1つがVirtual First toolkitとなりました。

Dropboxの編集責任者であるTiffani Jones Brown氏が、同社内のチームがリモートワークを始めてから8ヶ月間で学んだことを共有してくれました。今回は、この新時代の働き方を効果的に、健全に、そしてクリエイティブなエネルギーを与えるようなものとして続けるためのヒントをご紹介します。

──まずはクリエイティビティについて聞かせてください。働く場所の変化は、従業員のクリエイティビティにどんな影響を与えたと思いますか?

全ての組織については分かりませんが、私がいるチームに関しては、あるいは会社としても大抵の部署で、多くの気づきがありました。

解決すべき明確な課題:デザインスクールなどでは、クリエイティビティには健全な制約が必要だと教えられます。これは、組織にとっても同じだと思うのです。解決すべき明確な課題が無ければ、ついつい方法論に固執してしまったり(目線が近すぎて、クリエイティブであることを忘れてしまう)、あるいは非現実的な発想に終始してしまったりします(目線が遠すぎて、本来の目的を忘れてしまう)。ですから、私たちがDropboxで取り組んでいることの1つが、課題をより明確に定義することなのです。私たちは一体何をするためにここにいるのか? 私たちは誰のために、なぜそれをするのか? 私たちはそれをどこからどこへ持って行きたいのか? 私たちは人々のどんな苦しみを和らげるのか? といった疑問を提起することで課題を明確にします。明確な目標を持ちながらも、アプローチの仕方に柔軟性を持たせるなど、チームに適度な使命感を持たせると、よりクリエイティブなアイデアが生まれることに気がつきました。

集中するための時間:パンデミックが起こったとき、多くの企業では会議やメッセージのやりとりの数が大幅に増加しました。その結果、時間外労働が増え、燃え尽き症候群の報告も増えました。何か着想を得た人は、仕事のパフォーマンスを上げるために邪魔されることのない時間が必要だと言ってくるのですが、多くの会社ではいまだに(テクノロジーの問題ではなく)自然に邪魔するような作りになっています。Dropboxではこの問題に対して、「コアコラボレーションアワーズ」(CCH)という時間帯を設けることで対応しています。私たちは皆、1日に4時間の深く集中し、クリエイティブに思考するための時間を与えられているのです。私は、より多くの集中するための時間を与えられたことで、考える内容と書く内容のクオリティがずっと高くなったと感じています。つまり、もっと多くのアイデアを思いつき、それらにもっと深く踏み込めるようになったのです。

Virtual First Toolkit:時間管理の方法

クリエイティブな実験を重ねるというカルチャー:金額が大きく人々にストレスがかかっている場合ほど、いちばん確実なソリューションに飛びついてしまうものです。しかし私の経験では、とりあえずやってみるというアプローチを良しとする会社の方が、長期的には発想がより豊かです。パンデミックの間、私たちは皆突然に、リモートワークの環境に置かれました。すなわち、私たちは既存の働き方の効果と一体感を保ちながら、新たな働き方を急いで作り出さなければならなかったのです。Dropboxでは、この混乱した実験により、Virtual First toolkits、パンデミックによる燃え尽き症候群を防ぐための月1回の金曜日の休日、会議時間の大幅な削減など、あらゆる種類の文化的イノベーションが生まれました。

やる気を引き出すような目的:私は一度共同創業者と一緒に働いたのですが、彼は素晴らしいストーリーテラーでした。彼は、想像力を掻き立てるような、そしてやる気を引き出すような話し方で、自社のミッションを表現することができたのです。チームというものは、感情的な面で結びつく「理由」によって動くものでもあって、それはただの実務的な使命感を超えた何かです。「理由」は、世の中に起こしたいと思っている変化に関するものかもしれませんし、もっとシンプルに、更に技術を高めたいというようなものかもしれません。私は、従業員があなた自身の目的に深く結びついたと感じることで、単なる働きアリから脱して仕事に思いや魂を込めるようになり、そこからクリエイティビティが生まれるものだと思います。

──こうした仕事がリモートワークになると、何が起こるでしょうか?

リモートワークがDropboxのクリエイティビティにどう関係するかについては、私たちもまだ考え続けています。ただ従業員の声として、アイディアについて批判的な立場で考えたり、自分のデザインのプロトタイプを作るような、独立して行うクリエイティブな活動にリモートワークが向いているというものがありました。一方で、かつてはチーム内のブレストやちょっとした立ち話から得られていたような、偶然の発見とか協力して行うクリエイティブな活動には向いていないという意見も聞きました。

Justin Tran氏 によるDropboxのイラスト

それこそ、私たちがDropboxで見つけ出そうとしているものです。クリエイティビティにフォーカスすることの重要性についてはすでにお話ししました。しかし、コラボレーションも重要なのです。つまり、深く集中して仕事をするための時間と、ブレストを行って一緒に答えを探す時間がどちらも必要になることが自然なのです。リモートワークの中でこの両者のちょうど良いバランスを見つけ出すことは難しいです。なぜなら、少なくともDropboxの場合は不必要なミーティングをあえて減らそうとしているからです。また、オフィスにいれば普通にできる、ちょっとイスの向きを変えて質問をしたり、ランチの合間の会話から閃きを得たりするような機会がリモートワークではほとんどないからです。

私たちは、自分たちの働き方の中に突然の閃きが生まれるような瞬間を入れ込む実験をしてきました。たとえば、ミーティングの始めに台本無しの会話を5分~10分するように推奨したり、全員出席ミーティングではランダムに休憩室に人を割り当てて初対面の人と会えるようにしたり、批評に関するビデオを非同期で共有して、自分の時間をうまく使えるようにしたりしました。バーチャルファーストに移行してから、働き方の中の繋がりができる瞬間とはもはや突然、自然に起こるものではなく、意図的にデザインしなければならないものだということがわかりました。

カルチャーをもっとクリエイティブなものにしたいなら、クリエイティビティをはっきりと重視し、モデル化し、それに報酬を与えるのが良いと思います。たとえば、次のような質問が有効だと思います。「私たちにとって理想的なクリエイティビティとはどんなものだろう?」「社内でそれを本当に体現している人は誰だろう?」「従業員の中でもっともクリエイティブな人にどう報いたらよいだろう?」人々がそれを「見る」ことができれば、それを「する」ことが容易になり、特にインセンティブがあればなおさらです。

──もっと具体的に、従業員はリモートワークの中でどうやって考えを共有したり、誰かの意見に基づいてアイデアを重ねたりできるでしょうか? 何か良い方法やツールはありますか?

Dropboxで役に立ったことことをいくつかご紹介します。

ツール

デジタルホワイトボード:Miroのようなデジタルホワイトボードツールがあれば、本物のホワイトボードが無くてもチームはコラボレーションやブレストができます。

昔ながらの書類:Dropbox Paperのような昔ながらの普通の書類は、アイデアをドラフトしたり、デザインを見直したり、メンバー間の同期を取ることに役立ちます。

方法

機動性:チームがオンラインになるタイミングを合わせることができれば、Slackのようなツールを使って短いミーティングで機動的にアイデアを練ることができます。(メールでの正式なレスポンスを一日中待たなければならなかったり、集中したい時に邪魔されたりするよりはこの方が良いでしょう)

ライティングの基礎:バーチャルファーストとはつまり、一日中読んだり書いたりしているということです。ですから、ライティングの技術を磨く必要があります。たとえば、結論を本文に埋めるのではなく冒頭に置いたり、記載を簡潔にすれば分量は半分にできるはずです。また、相手の表情を読めない場合には相手の意図を知ることが難しいので、口調には特に注意を払うことなどが必要となります。

Justin Tran氏 によるDropboxのイラスト

──クリエイティブで生産的な働き方のカルチャーを作り、維持する上での最大の課題は何でしょうか?

優先順位が不明瞭であったり、優先すべきものが多すぎたりすると、組織の創造性や生産性に大きな影響を与えます。ひっきりなしのアプリの通知とミーティングですでに混乱しているカルチャーの上にばらばらな優先順位を付けたら、新しい考えを思いつくことに集中することもその時間を見つけることも非常に難しいでしょう。

また私は、明確な方向性を示しつつ、その方向性を人々が自分なりに追求できるようにするという微妙なバランスが必要だと考えています。たとえば私たちのバーチャル・ファーストに関するリサーチでは、多くの人がリモートワーク環境でどのように行動すべきかについての明確な指針を求めたことがわかっています(たとえば、「オンライン時間は午前9時から午後1時」「XYZのような類のミーティング禁止」「午後1時から5時までは集中できる時間を確保する」というようなものが明確な指針で、不明確な指針は「午後のどこかに集中する時間を設ける」というようなものです)。

私自身は仕事において自主性が尊重されるべきと思っているので、この結果には驚きました。しかし、パンデミックと突然のリモートワークで、人々がストレスを感じていたことを思えば当然です。明確な指針があれば不確実性が和らぎ、そのおかげで人々はもっとリラックスして自分なりのやり方を見つけられるようになりました。

──バーチャルファーストに移行する中でDropboxが得た大きな学びとは何でしょうか?

まだまだ学び続けているところです。しかし少なくとも私にとってもっとも大きかったのは、ミーティングを減らすことは一筋縄ではいかないということです。ミーティングに関する社内の考え方を変えるためには何ヶ月もの時間が必要でした。これは、もともと私たちの多くが影響力よりも存在感に重きを置くような考え方を植え付けられているからだと思います。ミーティングに出席することは、存在感を示す手っ取り早い方法です。ミーティングを減らすことは、ずる休みをするように思う人もいます。彼らは、出席しないことを責められるのではないかと思ってしまうのです。こういう思い込みには、明確な方針を示すことが役に立ちます(ミーティングを意思決定、議論、討論の場とし、進捗報告や参考情報はチャットやメールで済ますこと)。

私たちはリサーチャーに従業員の様子をフォローしてもらい、バーチャルファーストがどのように進んでいるかを見てもらっています。私たち自身に人間中心のデザインの原則を当てはめること、そしてここから得られた気づきによって働き方をアップデートすることが有効でした。

(画像:Virtual First Onboarding Game

──自分の会社をクリエイティブ重視のカルチャーに初めて変えていこうとしている人に、何かアドバイスはありませんか?

Paul Graham氏の『Maker’s schedule, Manager’s schedule』を読んでみることをお勧めします。そうすれば、典型的なエンジニア、デザイナー、ライター、あるいは発明家が日々の仕事のクリエイティビティを最大化するために何が必要なのか、ヒントが得られるはずです。

また、次のような質問をして、個人個人の考え方を反映することも良いです。「どのような時が一番クリエイティブになれていると思いますか?」「最高の考えを出すためには、どんな状況や枠組が役に立ちますか?」「やる気が出る時、やる気が無くなる時はどんな時ですか?」「今現在、あなたのクリエイティビティにとって最大の阻害要因は何ですか?」同じ質問を従業員に投げかければ、どんな働き方が彼らのクリエイティビティに効くのかを理解することができるでしょう。creative energy worksheetsを使ってみて気づきを得ることもできます。

最後に、私はどうでもいいものは徹底的に排除するようにしています。今あなたが考えていることは、会社にとって重要な「シグナル」なのか、それとも単なる「ノイズ」でなのしょうか?今やっていることの中で1つ止めるとしたら何を止めますか?創造性を発揮しようとするあまり、企業は従業員の皿の上に物を増やしてしまうことがあります。何かを追加する前に、"何を奪うのか?"と問いかけるようにしています。

Justin Tran氏によるDropboxのイラスト

──あなた自身はどうでしょうか? 自分の中にあるクリエイティブな部分にアクセスして、クリエイティブかつ生産的であり続けるためのコツやテクニックはあるでしょうか?

私がもっともクリエイティブであると感じるのは、自分のコンディションを整えられているときです。私はこれを、日々瞑想し、頭をクリアにするために長い散歩をし、パソコンの画面を見ない時間を作り、定期的に休みを取ることによって実現しています。私の場合、休暇後に最高のアイデアが生まれることが多いので、その時間をとても大切にしています。

また、私は私と一緒にリスクを取ることに前向きである人たちと働くのが好きです。カリフォルニアの人たちの言葉を借りれば、私は「エネルギーに敏感な人間」なので、エネルギーに溢れた人がいればそれをよく感じ取ることができます。一緒にアイデアを考えて盛り上がったり、自分のアイデアに誰かが知的好奇心を刺激するような鋭い方法で反論したり挑戦してくれたりする感覚が好きなのです。

──私たちが避けるべき、「クリエイティビティの天敵」はあるでしょうか?

重苦しい官僚主義や複雑すぎるプロセスはクリエイティビティを圧迫すると思います。プロセスが創造性や集中力を高めるため手段ではなく、プロセス自体が目的化してしまうことを目にすることがよくあります。ですから、会議のスケジュールを決めたり何か新しいやり方をデザインしたりする時には、次のように自問することをお勧めします。「これによって複雑さが無くなり、より仕事に集中するためのリソースが生まれるだろうか?」あるいは、仕事のための仕事を作ってしまうだろうか?」「もっとシンプルにならないだろうか? 長さを半分にはできないだろうか? 難しさを半分にできないだろうか?」

──バーチャルファーストは将来に渡ってトレンドであり続けるでしょうか?あるいは、Covid-19が落ち着くのに伴って消えて行くのでしょうか?

バーチャルファーストの働き方、もっと広く言えばリモートワークは、すぐに無くなるとは考えていません。これについては多くの研究がされていますが、ひと言で言えば、パンデミック以前は従業員に在宅勤務をさせることに消極的だったどんなCEOも、今ではそれが可能であることを知っているのです。研究結果は、多くの人がリモートワークによって実現する柔軟さとワークライフバランスを歓迎していることを示唆しており、多くの人が、オフィスの外で働くとこんなにも生産性が上がるのかと驚いています。ですから、中には断固としてオフィス勤務に回帰する企業もあるでしょうが、私は、それよりも多くの企業が従業員のためにもっと柔軟な環境を用意し、それこそが競争上の差別化要因になるだろうと考えています。

Justin Tran氏によるDropboxのイラスト

──少し話は変わりますが、最後に教えてください。Dropboxは働き方のカルチャーだけでなく、会社の価値観も大切にしています。理想的な会社のカルチャーを作り出すために、会社の価値観をどうやって実用的なプラクティスに変換するのでしょうか?

素晴らしい質問です。私たちは数年前に「Dropbox’s values」を書き換えました。私たちがバーチャルファーストへの移行を決めたとき、私たちは私たち自身の価値観をまったく新しい形に表し直す必要を実感したのです。そのために、私たちは「これまで」と「これから」のいくつかの組み合わせを作り、4月中に実施したバーチャルファーストの導入キャンペーンで共有しました。

これまで → これから
毎日同期する → 同期しているのが当たり前
忙しさ → インパクトの大きさ
長時間労働 → 集中的な労働
繋がりの無さ → 一体感
合意することが第一 → 衝突しそれを乗り越える

私たちがこのフレームワークを気に入っているのは、これらはハイレベルのガイドラインと制約を課すものでありながら、社員がクリエイティブに物事に取り組めるようにしているからです。つまり、私たちの会社には自分なりのやり方で同じ方向に船を漕いでいる2,500人の船乗りがいることになります。

私たちはまたこれを使って、リモートで働く従業員をもっと広範囲にサポートするために開発しているツールのことを知らせました。私たちは昨年末に「Virtual First toolkit」の初版をリリースしました。よりアップデートされた、使い勝手の良いToolkitを近日中に更新する予定です。

Virtual First Toolkit: マインドセットを変えるには

Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧

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Design Matters Tokyo 22が来年5月に開催

Design Matters Tokyoは世界のデザイントレンドが学べる、コペンハーゲン発のデザインカンファレンスです。次回は2022年5月14日-15日に開催予定です。GoogleやTwitter、LEGOなどのグローバル企業はもちろん、今年はWhatever、みんなの銀行など国内のデザイナーも登壇予定です。イベントに関する情報はSNSを中心に発信していきますので是非フォローください(カンファレンス参加しない方も大歓迎です)。

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