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オンラインシンポジウム「郊外住宅地再生フォーラム2020」開催記録6 〜こま武蔵台・研究

2020年6月6日、郊外未来デザインラボでは「郊外住宅地再生フォーラム2020」を開催しました。ここでは、その報告として、フォーラム前半の事例報告の内容を紹介します。後半のディスカッションについては、2021年7月に発行予定のプロジェクトレポートに掲載しています。全体概要についての記事はコチラ

事例報告③新百合ヶ丘

<研究(東京大学 准教授 樋野公宏)>

遠郊外のまちづくり

 私からも引き続きこま武蔵台の話をさせていただきます。まず東京圏の都心通勤圏の図をみていただきたいのですが、言うまでもなく、都心通勤圏は縮小していて、遠郊外と言われるエリアが生まれてきているということです。物理的な距離は何も変わっていないんですが、社会的にそれまで通勤圏だったところが遠郊外と言われるようになってきたという状況があるわけです。
 こま武蔵台では、地域住民、企業、それから大学による連携で今まちづくりを進めているところです。まず住民としては自治会があります。自治会ではお年寄りから子育て世代まで住みたい・住んでみようと思うまちづくりを目指して活動されています。福祉ネットは2000年に社協のモデル事業としてスタートしたと伺っております。主な事業としては配食サービス、それからショッピングセンターの空き店舗を利用してサロン活動を行っています。移送サービス、買い物の代行、部屋の掃除、草取りなどを行うお助け隊も活動を行っています。

多主体連携の可能性


 我々は2015年9月から、東急不動産 R&D センターとの共同研究ということで関わりを始めています。我々の他には、子供が参加できるまちづくり活動を企画してくれるballoonというNPOも一緒になって動いているところです。その共同研究が始まった後は調査を行ったり、あるいは学生の演習という形で地元の協力を得て提案を行ったり、成果を還元するということを行ってきております。
 さらに、昨年、げんきネット武蔵台という新たなNPOが立ち上がりました。自治会によるまちづくりだけでは担えない部分を担っていくことが期待されています。

地域の課題


 これは先ほど申し上げた学生の演習で、最終成果物としてまとめたものの一枚を引用したものです。ここにこの地域の課題が集約されています。左上から順に人口減少、高齢化、買い物する場所であるとか飲食店が少ない、それから気軽に集まれる場所も少ない。右上にいきまして、空き家が増えていること、それから坂や階段で外出がしづらい状況にあること、交通弱者の発生、あとはリモートワークで働かれている方々の横の繋がりがないことが課題になっていました。
 2008年にこの地域のショッピングセンターの核店舗であったスーパーが撤退しました。その時の様子は「買い物難民団地」とマスコミに言われた時期がありました。それから5年ほど経って空き店舗に朝採れファームという店舗が入ったんですが、スーパーのような品揃えではありませんので、依然として利用する人の割合は7.5%ぐらいです。多くの人が車を使って、近くにある飯能のお店(40%)、高麗川駅の周りのスーパー(25%)に行き、地域のお店を使う人は少ないというのが現状です。この状態が続くと、またお店がなくなってしまうことが懸念されるわけです
 一方で年代別・交通手段別にいいますと、75歳以上の方の徒歩利用が、この朝採れファームでは多いということも分かっています。今後さらに高齢化が進むわけですから、こうした場所が重要になってくると考えられるわけです。

「疎」も資源になりうる


 この地域には資源もたくさんあります。多様なスキルを持った住民の方がいらっしゃいます。内田さんの説明にあったように、巾着田をはじめとする自然環境や観光地もあります。地区内には公園やポケットパークなどもたくさん点在しておりますし、我々がリノベーションを行った空き家もあります。2019年の演習で学生たちは「疎であることは課題だ」と言っているんですが、今のコロナの状況では「密」の反対である「疎」というのも資源になりうる。地域に人を集める材料になりうるということが言えるわけです。
 5月にzoomで地域の方々にインタビューをさせていただいたところ、朝採れファームの利用が増えているという声が聞かれました。これは複数の方から聞かれておりまして、実際に販売をしている人の声のようです。それから子供と歩いたりジョギングしたりする姿をよく見かけるというのは、時間的なゆとりができた方が増えているということかと思います。また、それを許容するようなオープンスペースが多いというのも、この地区の資源が活きたと思います。
 また、都内からと思われる引っ越しを数件見かけたという声も聞かれました。3件の方はどうも車のナンバーを見る限り東京の方のようで、もう引っ越しが済んでいて、あと2件ぐらいも内定してるようだという話でした。このような動きが出てきているようです。
 このインタビューはzoomで行いました。地域の方々がオンラインで会議をするのは難しいかなと勝手に思い込んでいたんですが、十分こうしたインタビューもできました。私が自宅から現地に行くには東京を経由して3時間くらいかかるんですけれども、こういった形でお話ができる、ディスカッションができるのであれば、専門家の関わり方というのもこれからは変わってくるんではないかと期待しているところです。以上です。