「出会って4光年で合体」 感想(ネタバレあり)

どうやら私はアマチュアリズムに横合いからぶん殴られるのが好きらしい。
どうしたってこの物語は商品として間違っている。
通常エロ漫画は382ページもないし、エロに至るまでに300ページは使わない、使えない。ポルノは即物的なものだからだ。
一般小説ならばあるいは、だけれども、テーマ的に18禁以外に選択肢がない。
つまり、物語の射程の広さに、陳列棚がまったく合っていない。八百屋にGP03デンドロビウムが飾ってあるようなものだ。普通は埋もれて、無視されてしまう。というか、完成しないのだ。読まれるための理路が絶望的だから。だから、この物語が私に届いたのは奇跡に近い。
もちろんこの物語の完成度は私を越えて、もっともっと広く届くべき規模を備えていることに疑いはない(流石に万人受けするとは言えないが)
作品でぶん殴られたら大声で痛いと叫ぶのが読者としての礼儀であろうと信じる。

この話を読んだとき、「月姫」や「ひぐらし」や「和風wiz」に出会った時と同じ感動があった。
これらの作品に共通する部分はあまりないが、似通っているものがあるとするならば、読者の感想から「これを誰かに伝えなければならない」という熱を感じることだろう。

私はこの「伝えなければ」という熱を信じている。単に熱い感想というだけでは足りない、その熱量を。
もちろん私向きでない場合もあるし(SAOとか)、あんまり売れないこともあるが、概ね外れたことはない。
物語に浮かされた人間の熱意というものは、殊の外だれかに伝わるものなのだ。
私以外にも初めてエロ同人を買ったという人を散見したのがその証左だ。

この物語を特別ユニークなものにしているのは、独特の語り口と商業誌ではありえない漫画表現であろう。

この信頼できない語り手は、基本的にキャラクタの内面を語らない。軽妙な口調で事象を述べていく。また、場面が頻繁に切り替わる。過去に飛び、時空を飛び、虚構を飛ぶ。
読者は物語に没入できないまま、謎の提示と短いエピソードの積み重ねによって鼻面を引き回される。

同時に、商業誌の漫画では見ることのない表現に圧倒されていく。
画面当たりの文字の異常な多さ(小説パートすらある)と特異な配置。かと思えば、山を登っていくだけで文字もなく13ページ使う。週刊連載ならば、それだけで1話が終わってしまう分量だ。到底読みやすいとは言えない。
エロゲと対比する感想を多く見たが、確かにグラフィックノベルに近い読み味になっていると感じる。
個人的にはとても映画に近しい感じがした。押井守が言う、主観的な時間と客観的な時間の使い分けがこの漫画にはあるように感じた。画面構成は漫画のそれだが(さよなら絵梨のようでなくの意)、詰め込んでいる部分と余白の部分のコントラストが読者の時間を支配している。劇場映画化を期待する人が多いのも、私と同様に感じた人が多かったからではないか。

では、なにが魅力なのか。
こう問われると、これだ、とはっきり言明することが難しい。
執拗なまでに精緻に組んだ物語であることは初読時でもはっきりわかる。創作をかじった人間なら、「ここまで構成に拘らないと作品にならないのか」と打ちのめされることだろう。
読書メモにも書いた通り、一見無駄なエピソードが後に回収される事例がめっちゃくちゃいっぱいあった(なんだあの目次数)
久しぶりに読書メモを作りながら読んだが、とても楽しかった。パズルを解くことには根源的な喜びがある。

SF的な構想の広さを褒める向きもあろう。
タイトルの『出会って4光年で合体』が、単なる『出会って4秒で合体』のダジャレでなく、本筋として回収されるなんて誰が想像しようか。
だって、エロ同人なんだよ? 普通タイトルは単なるダジャレだろうに。
ポルノミームに論理的考察を付けていくと、先史から4光年先まで話が広がるのかと驚く。こんなにきちんと「セックスしないと出られない部屋」に理由がついているのを見たことがない。

ポルノでなければ描けなかった物語を礼賛することも、また正しい。
どうしたってポルノは色眼鏡で見られるし、一段低い評価を受けることが普通だ。切っても切れない関係にも関わらず、大抵目を背けて生きている。
名作といわれているエロゲや日活ロマンポルノなんかも、エロ部分なしでも成立するものが多い(後に全年齢版なんかが出たりするのがその証拠だ)
だが、この作品はそれなしでは成立しない。
そりゃ多少描写をマイルドにすれば18禁ではなくせるかもしれないが、最初と最後の精液描写を無しにしては意味がないだろう。嫌悪を抱くこと必定の最初のあれが、同じものにも関わらず、相手を得るというただそれだけでとても美しいものに昇華される。
ポルノに親しむ者は快哉をあげずにはいられないだろう。

私が思うに、この作品の魅力は振れ幅なのだ。

我々はなぜ物語を求めるのだろう、かの上位存在のように。
娯楽だから?
もちろんそうだろう。
ただ、それだけならわざわざ18禁の同人誌を買う必要はない。世の中には傑作・名作とお墨付きのコンテンツが既に山ほどある。
でも、そうじゃない。
我々はいつも新しい物語を求めている。
見たことも感じたこともない感動と感情を自分の中に見い出すことを求めている。

この作品は新しかった。
私の中の感じたことがない感動のパズルを一つ埋めた。
それは間違いなくエロ漫画だったからだ。
エロ漫画を買うという行為は、感動しようとする心の動きを少し鈍くする。普通感動したくてエロ漫画は買わない。というか、感動とエロは食い合わせが悪い。
感想にも「抜けなかったが感動した」とか、「抜いちゃってすすまない」とかあったので、普遍的にそうなのだろう。
なのに、そこから感動してしまうので情緒がめちゃくちゃになる。
ほとんどの感想が「すごい」になっていたのもそのせいだろう。
「泣いた」とか「面白かった」とかの単純な感情の形にならない。
成り立ちとしてまっすぐ感動につながる構造になってないし、猥褻物で感動するように心が準備できていない。甘いものとしょっぱい物を同時に口に含んだ感想に近い。
にもかかわらずそれを成立させるのだから、この作品は非凡なのだ。

あなたに合うかどうか、お話は読んでのおたのしみ。
唯一無二、空前絶後であることには折り紙をつける。


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