見出し画像

【海外登山10】「パミール山脈を臨む3800Mの草原」 エンゲレス・ピーク高原の登り方/行き方

イントロ

本記事では、2023年8月に登ってきた
タジキスタン、ワハーン回廊最奥のエンゲレス・ピーク草原について、
紹介しようと思います。
最近ずっと連載してきたタジキスタン記事で、
エンゲレス・ピーク高原(Engels Peak Meadow)までの
行き方を紹介しました。行き方と旅行記が中心となり、
登山面の詳細をあまり伝えられませんでした。
本記事において、より詳細なエンゲレス・ピーク高原の情報を
紹介します。

本記事では、
エンゲレス・ピーク高原登山の見どころ
概要や難易度、
装備や注意点、
実際の行程
についてシェアしていきます。

本記事では
①挑戦したい方が
 無事に帰って来れるような役立つ情報を提供する
②ワハーン回廊やタジキスタン、中央アジアに興味を持ってもらう
ことが目標です。
最後まで読んでいただければ幸いです!!



エンゲレス・ピーク高原の見どころ

[エンゲレス・ピーク高原(Engels Peak Meadow)]

中央に聳える雪化粧の山がエンゲレス・ピーク

タジキスタンのパミール山脈の一部であり、6510Mの高さを誇るエンゲレス・ピーク。社会主義/共産主義に多大な貢献をした学者の一人であるフリードリヒ・エンゲレスの功績を讃えるために、ソ連時代にエンゲレス・ピークという名前がこの山に冠せられたそうです。
その全貌を広大な谷間と深い緑の高原と一緒に臨むことができるのが、3800M地点にあるエンゲレス・ピーク高原です。この高原までであれば、ワハーン回廊最奥の村、ランガール(Langar)や近隣のゾング(Zong)からデイハイクで挑戦ができます。また、さらに聳えるパミール天井を目指す登山家も、この高原をベースキャンプとして必ず立ち寄ります。
また、この高原には現地の人々の生活が息づいています。乾燥地帯である山際に住む人々にとって、パミール山脈からの雪解け水の生活の基盤です。また、短い夏に緑が映えるエンゲレス・ピーク高原には、地元の牛/羊飼いがやってきます。こども達も水辺で遊びながら、牛や羊と遊ぶ光景を見かけることがあるかもしれません。


[キシティジャラブ渓谷(Kishtijarob Valley)]

エンゲレスピークから南に伸びる氷河であるキシティジャラブ氷河からの雪解けが形作った渓谷。この水がランガールとその周辺の村々の喉を潤しています。

[ランガール(Langar)]

とにかくゆっくりと時間が流れるワハーン回廊最奥の村。ランガールやその周辺の村々では、羊/牛飼いや農業、運転手や宿泊施設の運営をしながら生活をしています。何もない村のように思えるかもしれないが、この地に住む人々の生活の中にも、長い歴史の息づかいが聞こえてきます。例えば、イラン方面から来たゾロアスター教の信仰も受け継がれています。最たる例、一般のお家などにお邪魔すると、四角を重ね合わせたように天井の様式を見ると思います。ゾロアスター教において、太陽とその光は信仰の重要な要素です。最初の四角形が神アフラ=マズダ、次の四角が火、その次のには地球、などなどの意味が込められているそうです。

ゾロアスター教を象徴する天窓

また、神聖なものなので、写真を撮ることができませんでしたが、ワハーン回廊を含めたゴルノ・バタフシャン自治州ではシーア派のイスラーム教を崇拝しています。ワハーン回廊の多くの人々が崇拝する4人イマーム(宗教的指導者)であるアリー、ハサン、フサイン、アリー・ザイヌルアディーンを象徴する柱が4本家に飾ってあります。ランガールを含めたワハーン回廊の村々では、ホームステイという形式で宿泊施設に泊まることになるので、是非、建築様式などを見てみると面白いかもしれません。
また、轟音響かす川の対岸はアフガニスタンです。向こう岸では、川遊びをする子どもがいたり、タリバンの旗が掲揚されていたり。入国の難しいアフガニスタンを眺めてみるのもいいでしょう。

川の向こう側にあるアフガニスタンを眺める。

【ランガール北側のパミールハイウェイ】

ただただまっすぐ続く道路。

ランガールの北側に伸びる道路を進んでいくといよいよ人を寄せ付けない広大で乾燥した高原が広がっています。やがてその道路は交差点に交わります。それがパミールハイウェイです。1200KM以上に及ぶアフガニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスをまたぐ道路です。パミールハイウェイは通称名であり、正式名称はM41です。このハイウェイの制覇を目指して、世界中から自転車、バイク、車を引き連れた観光客が来ます。


登山行程の概要/難易度/注意点

これ先から下線が引かれている地名は、
クリックするとGoogle Mapに飛ぶようになっています。
是非、参考にしてみてください。
また地名の()内にMapsMe内の名称も記載しておきます。

概要

地図はMaps.Meより

合計所要時間:11時間
歩行距離: 16km
歩行時間:9時間
最高標高:約3800M
開始標高:約2700M
獲得標高: 1060M
出発時の宿泊地:Homestay Mulloniyoz(Langar中心部から徒歩3分ほどの宿泊施設)
歩行開始地点: Homestay Mulloniyoz
歩行終点:Homestay Mulloniyoz

8:10:Homestay Mulloniyoz(ランガールの宿泊施設) 出発 
↓ 710M
8:30:登山口
↓ 1.4KM
9:40:ペトログリフ(Modern Petroglygs)
↓ 1KM
11:20:キシティジャラブ渓谷(Kishtijarob Valley)水路
↓5KM
14:20:エンゲレス・ピーク高原
↓16KM
19:00:Homestay Mulloniyoz(宿泊施設)

難易度

体力  :★★★★☆
技術  :★★★☆☆
アクスセス:★★★★★
(★が多ければ多いほど難易度が高くなると考えてください。)

・体力面
距離と標高獲得を考慮すると体力が求められます。
3800Mの高さまで行くので、充分に高所順応が必要です。
高山病が心配な方は、登山前に二泊三日ほどランガールに宿泊して、
体力回復と高度順応してから登ることをお勧めします。

・技術面
Maps.Meといったオフラインのマップを持っておきましょう。
前半の登りは道が分かりづく、明確な標識がないので、オフラインマップを使うことが求められます。また、急勾配の下り道があります。

・アクセス
登山するよりも最寄りの村までたどり着く方がしんどいです。
公共交通機関でのランガール(起点となる村)までの行き方については、
下記の記事をそれぞれを順を追って読んでもらえれば、
参考になるかと思います!!
時間のない方はそれぞれの記事の①のパート読めば大丈夫です!!
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方#1 準備編
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方#2 ドゥシャンベ編
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方+旅行記#3 ドゥシャンベ→ホログ編
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方+旅行記#4 ホログ→ビビファティマ/ヤムチャン要塞編
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方+旅行記#5 ビビファティマ→エンゲレス・ピーク高原編

・宿泊
日程はどうであれ、
ランガールの宿泊が必須になります。
その際に、割高ですが一番有名で利便性が高いホステルが、
Hostel BEHRUZ Minimarket-Cafe-Taxiです。
私の場合は、安いホームステイのHomestay Mulloniyozを選びました。
Google Map上には出てきませんが、
「グジュ・ホームステイ・ムロニヨズ」と地元の方に言えば、
案内してくれるかもしれません。

シーズン

7月中旬から9月初旬までであれば、
日がない
防寒具を持たなくていい
観光客が多い分アクセスがいい
という理由からお勧めです。
これよりも早すぎたり、遅すぎると、
とにかく寒いです。

装備

1.  携帯浄水器
ランガールや近隣の村々では、通りの水道から水が流れ出ています。
ローカルの人々はそのまま飲んでいますが、少し茶色ので、
私の場合はフィルターを使いました。
エンゲレス・ピーク高原の湧水はフィルターなしでも
飲めました。

ランガールで見かけた水道。少し濁っていましたが、地元民はストレートに飲んでいました。念の為私はフィルターを使って飲みました。

2. オフラインマップ
特にMapsMeがオススメです。
道の大枠をとらえるために、マップを持っておくべきです。
特に序盤の登りは迷いやすいです!!

3. ダウン/フリースなどの秋/冬装備
朝晩は冷え込みます。
(7月から8月でも)必ず10度の寒さを
耐えられる服装を持っておきましょう。

4 . サングラス/アイマスク
目のケアを怠らないように!!
加えて、日の入りが20時と遅いので、
早めに休みたい方はアイマスクを持ってきましょう。

6. 行動食や軽食
本ハイキングやワハーン回廊までの道のりは長いです。
首都ドゥシャンベなどで買い込んでおきましょう!!

7.  トレッキングポール
ガレ場の急勾配を下がっていく際に必須です。

8. Windy
1週間の天気を無料で確認できるアプリです。
かなり正確な情報なだけではなく、
ピンポイントで一箇所の天気情報が見れます。

9. 現金を持っていきましょう
現金は本当に大切です!!!
ゲストハウス宿泊、出店、
アラティンアラシャンからの移動時などで、
何かと現金を使う機会が多いです。
ATMキャッシングや両替などで、
現金を持っておきましょう。


写真で眺める実際の行程

朝8時半に登山開始。メンバーは前日にであったロシア人2名+ドゥシャンベで知り合ったインド人/日本人+私の5人編成です。朝の気温は15度。

Maps.Meより

登山口には明確な標識がありません。Maps.Meに表示されるMini Marketを目指すといいです。水色の倉庫とその先にある(8月であれば)ひまわりが目標です。

とにかく滑りやすいがれ場が続きます。気をつけてトレイルを見ていれば、迷わないと思いますが、念の為オフラインマップで確認しながら進行しました。

道はこんなかんじ。

登山口から15分ほど歩くと枝分かれします。少し遠回りを厭わないのであれば、右側(墓地がある方)に進む黄色のルートがお勧めです(下のマップを参考に)。赤い登り道付近で、ペトログリフをみることができます。

Maps.Meより
ペトログリフ

このペトログリフで大体1時間ほどかかりました。日を遮るものがないのでとにかく小まめな水分補給を心がけました。そこからさらに登っていき、スタートから約700Mほど上がったところにキシティジャラブ渓谷(Kishtijarob Valley)水路が来ます。これ以降は、比較的なだらかで、渓谷の絶景を味わいながら進んでいくことができるパートです。ここまで来れば、しばらくは、楽しい時間が続きます。ここまで大体3時間くらいかかりました。

谷の絶景①
谷の絶景②

この比較的平坦な谷間を歩いていくと、最後の登りがやってきます。13時15分、歩き始めてから5時間以上過ぎて疲れてきている頃でした。

最後の登り。

1060Mも登っていることもあり、疲労困憊でしたが、ようやくエンゲレス・ピーク高原に到着しました。時間は14時でした。楽しいメンバーだったからか、あまり疲れることなく登れました。このメンバーで登れた本当に良かったと思います。

最も気をつけたいのが、下山。幸い夏のタジキスタンの日の入りまでの時間は長いです。しかし、キシティジャラブ渓谷(Kishtijarob Valley)水路以降の下山時に急なガレ場が続きます。トレッキングポールを使いながら下山がお勧めです。宿に戻れたのは18時ごろ。夕食を自身で調理する気にもならず、Homestayのオーナーにお願いして、オシュ(ポロフ)を作ってもらいました。なんとチキンプロフ!!最果ての地で食べるお肉は、フレッシュじゃない可能性があるので、食中毒になる可能性があり、ギャンブル要素があります。それでも空腹過ぎて食べちゃいました。一切問題がありませんでした。

その夜、一人でランガールの村を散策してみました。石が崩れ落ちた荒れ屋が多く、ガラんとした様子でした。もの寂しげに寒さが通る村。オーナー曰く、年々快適な暮らしや高賃金を求めて都市部やロシアへ出稼ぎに行き、そのまま住み着いてしまうケースも多いようです。ワハーン回廊の夏は短い。そして、長く極寒な冬が訪れる。そんな険しい環境でも、そこに残り生きていく人々がいます。ワハーン回廊で一生を生きていくって、どういうことだろうか。短い夏に家畜を太らせ、麦や芋を育て、秋には薪や藁をかき集め人と動物が生きるための準備をし、極寒の冬を生き延びて、また春を迎える。この生きるために必要なサイクルに加えて、お金を生み出すために働かなくてはならい。非常にたくましい行き方だと思います。オーナーは、「お金はいらないから冬に泊まるに来たらいい」と言っていました。冬の暮らしにこそ、家族やコミュニティと協力して生き抜く強さがみられるそうです。それと同時に、冬に感じられない、薪ストーブと居間で家族と一日中団欒する温もりがあるそうです。冬にここに来てみるのもいいかな、と少しだけここに戻ってくるという選択肢が気持ちが傾きました。



アクセス(行き方)

下記の記事をそれぞれを順を追って読んでもらえれば、
参考になるかと思います!!
時間のない方はそれぞれの記事の①のパート読めば大丈夫です!!
下記の記事では、
ドゥシャンベ→ホログ→ランガール(起点となる村)
という手順で進む経路です。

秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方#1 準備編
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方#2 ドゥシャンベ編
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方+旅行記#3 ドゥシャンベ→ホログ編
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方+旅行記#4 ホログ→ビビファティマ/ヤムチャン要塞編
秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方+旅行記#5 ビビファティマ→エンゲレス・ピーク高原編



アクセス(帰り方)

帰りの帰路が一番険しいです。
ヒッチハイクや運を総動員して帰る可能性があります。
現在、
『秘境 ワハーン回廊 自力での行き方/楽しみ方』シリーズで、
『#6帰還編』を執筆中です。
もう少々お待ちください。


この度も本記事を読んでいただきありがとうございました。
中央アジアでしか味わうことができない山の美しさを
これからも伝えていきます。
次回タジキスタンに行った際には、
北側を攻めてみたな〜。

この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?