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向日葵と漁火の季節



 公園の花壇に植えられた向日葵ひまわりが、夏を先取りするかのように咲き始めた。先月芽を出したばかりなのに、いつの間にか成長し、あっけらかんと太陽に向かって花びらを広げている。以前は人の背丈を超えるのが当たり前だった。最近は品種改良されて小さいものが主流になってしまったようだ。
人の顔ほどもある大きな向日葵が蝉しぐれに囲まれながら、ギラギラの空を見上げて豪快に笑っている姿の方が夏らしいと思うのだが…。

名前の「日に向かうアオイ」は、葉の形が双葉葵フタバアオイに似ているところから名付けられたという説と、葵が「四方に向いて花が開き、開いて回る」ものを象徴する漢字だからという説もある。どちらも納得できる。

成長期には本当に東を向いて日の出を待っている。見出し写真がまさにそれだった。太陽が上り始めると太陽の位置に合わせて東から西へと向きを変え、夜の間に再び西から東の方へ向きを変えて再び日の出を待つ。この動きは日光を最大効率で吸収できるようにするためのようだ。
成熟期になると東に向きを固定しほとんど動かなくなる。
東向きのヒマワリは、朝日を浴びて花の表面温度が高くなり、花粉が放出されやすい。そのため朝はミツバチが多く集まってくる。つまり向日葵はミツバチが採餌と受粉しやすいように東向きに固定するという叡智を持っているということだ。


 ところで向日葵が日中の夏の風物詩ならば、夜の風物詩として地元北九州で思い浮かぶのは響灘の「漁火」。日暮れと共に海上で待機していた漁船に一斉に光が焚かれ、その光に惹きつけられてイカが集まってくる。
夕闇が深まるにつれ、水平線の彼方に漁火がひとつふたつと増えていく光景は、星屑がぱらぱらと空から舞い降りて、海面にきらきら漂っているようにも見え、とても幻想的だ。

この漁火夜焚きイカ釣りシーズンは5~11月頃。特に響灘、玄界灘に面する北部九州や山口県から日本海エリアにかけて盛んである。釣れるのはイカの中で最高級とされる ケンサキイカ。刺身でも天ぷらでも独特な甘味が濃く格別な味。
北部九州ではヤリイカ、山陰ではシロイカ、福井ではマイカと呼ばれるそうだ。

(一社)長門市観光コンベンション協会HPより引用


 夏の風物詩はまだまだ他にもたくさんあるが、気がつけば風物詩に囲まれて生きている。誰もが感じる風物詩もあれば、一人だけの風物詩もある。
季節ごとに身の回りにある事柄を楽しみに変えるのは、日本人ならではの風流な時の過ごし方だと思う。

夏から秋にかけては虫の声を聴きながら、暑い夜に、そして秋の夜長に風情を感じるのは昔から日本人に馴染みのある風習だったようだ。

『万葉集』にはすでに、「影草の生いたる野外やどの夕影になく蟋蟀こおろぎは聞けど飽かぬも」という歌が残されています。
平安時代には、かごに入れた虫の鳴き声を楽しむのが貴族の風流な遊びとして流行したそうです。
清少納言の『枕草子』の『虫は』という章では「虫は鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。」と好ましい虫として、鳴く虫が挙げられています。
『新古今和歌集』には「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む」(藤原良経)との歌がみられます。
貴族や大名たちの風流な遊びだった虫の鳴き声を楽しむ文化は、江戸時代になって庶民にも広がりました。

ウェザーニュース


しかしながら不思議なことに日本人には風情のある虫の鳴き声も、西洋人にとっては雑音にしか聞こえないらしい。
東京医科歯科大学の角田忠信教授の研究によれば、虫の音を聴いた時の右左脳の働きを日本人と西洋人とで比べると、日本人は言語脳(左脳)で処理することに対し、西洋人は音楽脳(右脳)で処理するためだという。日本人は「虫の音」を「虫の声」として聞いているそうだ。
他にも「波」「風」「雨の音」「小川のせせらぎ」などがある。
参照:MAG2 NEWS https://www.mag2.com/p/news/233784

虫の絶滅種の増加と個体数が激減している昨今、虫の声は「奇跡の声」になりつつある。
風物詩とは小さな幸せを見つけること。
しかしそれら一つ一つは奇跡の光景なのかもしれない。
そしてその奇跡は気がつけば身の回りに無尽蔵に溢れている。
今しかできないこうした地球上の楽しみ方をいろいろと発見しながら、四季折々の風情を感じていたい。





北九州市 県立中央公園

































































北九州市 県営中央公園






響灘に沈む夕陽と漁火















福岡県遠賀郡芦屋町 夏井が浜





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西村由紀江




自然音 田舎の夜




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