冬の対馬海峡を渡ってきた冷たい北風が、標高の低い山が連なる北九州に雪を降らせることは少ないが、それでも朝晩はまだまだ寒い。
市内中央部にある小高い丘陵地帯の森を歩くと、その冷たさが幾分和らぐのを感じる。森の木立が風の勢いを弱め、木漏れ日の僅かな暖かさや、森の地面に堆積した落葉の温もりがあるからだろう。
寒さを忘れる理由は他にもある。幹や枝がぎしぎしとしなる音、木立の上から聴こえてくる冬鳥たちの賑やかなさえずり、樹々の葉がまるでコーラスのように右から左へとざわざわと通り抜けていく音。四方八方から聴こえてくるシンフォニックな自然音は、思わず足を止め、うっとり聴き入ってしまうほど美しい。
ところが、それが時々ぴたりと止むときがある。賑やかだった鳥たちも突然鳴き止む。森は一斉にしーんと静まり返り、動きのない沈黙へ落ちていく。




若い頃、冬になると友人と共に長野や群馬などのゲレンデスキーによく行ったが、奥日光にある戦場ヶ原や小田代ヶ原でのクロスカントリースキーもよく一人で出かけた。
湿原地帯を一周するには５〜６時間はかかる広大さだが、普段は立ち入り禁止の湿原区域内に、雪が積もればどこへでも自由に入っていけるのが楽しかった。奥日光の冬の気温はマイナス10℃以下。人もいなければ、獣一匹すら出会わない。無風の深い森の中で目を閉じれば、音の無い世界が四方八方果てしなく広がっていた。




ヒーリングワークによってリラクゼーションが深まると、思考と感情の動きが完全に停止することがある。身体の緊張と思考感情は相互に連動している。ところが興味深いことに、施術中そのリラクゼーションはクライエントだけではなく、施術する側にも共鳴して起こる。
ある脳科学者が、私のヒーリングワーク施術中に、両者の脳波を測定したことがある。ヒーリングを受けている人の脳波だけでなく、施術する側もアルファ波だったことが分かった。
この同調の中で静寂が共鳴し、クライエントとヒーラーとの境界線が消え、両者共に深く寛ぎ、身体感覚が消えていく。まるで空中に二つの魂が、光となって浮かんで出会っているかのようだ。会話や肉体的な触れ合いとは異なる、親密な一体感である。
「ダイナミックスティルネス」と呼ばれているこのような深い安らぎの状態が続くと、ある時点でクライエントに生命力の再点火が起こることがある。私はそれを実際に「ブレスオブライフ」と名付けられたヒーリングワークのトレーニング最中に感じた。臍の下数センチにある生命力の源泉と言われているところで、小さなポップコーンが弾けるように、「何か」がポンと音を立てて弾ける音が微かに聞こえたのだ。

こうした深い一体感は、多くの人々と共に瞑想した時にも感じたことがある。1980年代にアメリカオレゴン州の、市街地からは遠く離れた荒涼とした丘陵地帯に広がる谷間で、世界中から２万人を超える人々が集まって共に瞑想するイベントに、１週間テント暮らしをしながら参加した。
２万人が呼吸音すら聞こえないような完全な沈黙に入ると、その静けさはまるで広い海を前にするような深さだ。もはや老若男女、国籍、人種の違い、ありとあらゆる差異による分離感は消えてしまう。自分が小さな水滴の一つとなり、海の中に融けてしまうかのような一体感だった。

瞑想やヒーリング、或いは自然環境の中にいることによって、思考と感情が消える背景には、静寂と共鳴することを通じて、分離感覚が消え、自分と周囲とが溶け合い、一体感が生まれることによって、リラクゼーションが起こるという共通点がある。

いじめや競争、暴力、闘いは元を正せば個人感覚という緊張した分離感から生じるのだと思う。
自然界は共生と分かち合いと調和の世界。いじめや学級崩壊が多い学校の児童生徒たちは、数日間、海、山、川など自然環境の中で、自由に一緒に遊ばせてあげれば、大地との繋がりを取り戻し、本来持って生まれた心身の健康さを自ずと回復することができるに違いない。




創造性の源は静寂であり、愛の源泉もまた静寂である。芸術としての絵画や音楽、舞踊、文学などが、それに触れる人に感動を与え、喜びをもたらし、穏やかな安らぎと生命力を取り戻してくれるのは、静寂に根ざした実存の源に導いてくれるからだと思う。
平和な世界とは、争いがない状態ではなく、私たちの心が源泉に寛ぐことができたなら、自然と表に現れ出でるものではないだろうか。

森の静寂に寄り添うとき、森はそのようにして実存の神秘へと誘ってくれる。

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ギタリストの土谷光さんの新しいオリジナル曲
〝Small Gift - In the Silent Forest〟は、
『noteで出会った素敵なnoterさん達のいくつかの記事と写真にインスパイアされて作った曲です♪』とのこと。
素敵すぎです！
是非お聴きください！

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ありがとうございます