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吹き替え声優は何を演じるべきか?「キャラ」「感情」そして…。

こんにちは!
ボクは外国映画の日本語吹き替え版の音響監督(ディレクター)をやったり、声優さん向けのワークショップをやったりもしているんですが、そこでよく感じることについて書いてみたいと思います。

それは「売れてる声優さん」と「売れてない声優さん(声優の卵含む)」は、その演技というかパフォーマンスの質がかなり違う、ということです。
金ローなんかを見ててもあるじゃないですか。画面の人物とばっちりマッチしてる声優さんと、画面から浮いてる声優さん・・・その違いは?

それは声の良し悪しではなく、演技が上手い下手のテクニカルな問題でもなく、キャリアあるなしでもなく、才能あるなしでもない・・・その声優さんが「なにを大切に演じているか」の部分がまったく違っているのです。

たとえば声優養成所の新人さんを集めてオーディションをするとします。20~30人の声優の卵の皆さんの芝居をザーッと聴かせていただくと「あ、この人は数年後に売れるな」という人が1人2人、ハッキリわかったりします。で、実際にその人はだいたい数年後に売れるんですがw・・・だって演技が全然違うんですよ。

声の持ってる情報量が圧倒的に多いんです。


人気の声優さんの声っていつまでも聴いていられるのに、イマイチな声優さんの声はすぐに聴き飽きたり、よくありますよね。
いや、そのイマイチな声優さんだって努力していい声出してるんですよ。発声だって活舌だってしっかりしてるし、カッコイイ声、可愛い声が出せるし、表面上は人気の声優さんと大差ないように聴こえます・・・でも聴き飽きるんです。
その理由は声の情報量が少ないからです。キャラも感情も金太郎飴みたいでずーっと同じような声なので視聴者は「それ、さっき聴いたな」みたいな気持ちになってしまうんです。

さて、この情報量の差はいったいどこから生まれるのでしょうか?

「キャラ」を演じる。「感情」を演じる。

声優の皆さんは演じる時、なにを大切にしていますか?
ボクがいままでにお会いした声優さんの多くは、①「キャラクター」を大切にセリフを喋り、そして②「感情を込めること」を大切にセリフを喋っていました。

①「キャラ」を演じる。

「キャラをつくって演じる」ということですね。
具体的には画面上の人物の「声色」と「口調」をおのおの工夫して「キャラ」を作り、その声でセリフを喋ってゆきます。
可愛いキャラは可愛らしく、ワイルドなキャラはワイルドに、天真爛漫なキャラは天真爛漫に、ずるいキャラはずるそうに、おばあちゃんはおばあちゃんらしく、先生は先生らしく、上流階級の人は上流階級らしく、イケメンはイケメンらしく。
声優さんはそのキャラの一貫性に注意を払い、キャラが崩れないこと・キャラを逸脱しないことに気を配りながら演じます。

②「感情」を演じる。

台本に書いてあるセリフを感情を込めて、ニュアンスに工夫に工夫を重ねて声を作って、その感情の声色でセリフを喋ります。
勇敢な台詞は勇敢な声で、くやしい台詞はくやしそうな声で、緊迫感のあるシーンは緊迫感のある声で、悲しいシーンは悲嘆にくれた声で、恋愛のシーンはドキドキで。
まずその感情の声を作って、その声色でセリフを塗りつぶしてゆくような喋り方をする方が多い印象です。

「キャラを演じる」「感情を演じる」は声優さんのパフォーマンスの定番で、養成所の声優の卵の皆さんとか、多くの声優さんがこれらの方法で映像に声をつけています・・・が!これらには欠点もあるのです。それは「芝居が単調になりがち」なこと。つまり冒頭に書いた「声の情報量が少ない」の原因はここにあるのです。

「キャラを演じる」「感情を演じる」の欠点。

具体的に説明してゆきましょう。
「キャラを演じる」場合、声優はキャラの一貫性を重視して演じるので、シーン全体・作品全体を通じて同じような声で芝居がキープされがちなんです。金太郎飴です。
「感情を演じる」場合も、声優は作った感情をセリフに込めて喋るので、その人物がその感情である時間ずっと、同じような声で芝居がキープされてしまい、表現が金太郎飴になってしまうことがよくあります。
結果、どちらの場合も芝居が単調になり、「声の情報量」が少なくなってしまうのです。これが欠点です。

ところがそれに対して、あなたの大好きな声優さんのパフォーマンスを思い出してみてください。圧倒されるような豊かな情感のディテールと、圧倒的な情報量に溢れるものですよね。
「キャラ」の魅力、豊かな「感情」がありながら金太郎飴にならず、次から次から新しいディテールが溢れてきます。なぜそんなパフォーマンスができるのでしょうか?
そう、多くの観客の心を掴み、揺さぶり続けるような素晴らしいパフォーマンスをする声優さんは、じつは「キャラを演じる」「感情を演じる」だけでなく、3つめの要素を演じているのです。

それが「コミュニケーションを演じる」です。


「コミュニケーションを演じる」ことによって、「キャラ」そして「感情」の表現にドライブがかかって、圧倒的な情報量と魅力を発しはじめるのです。ではその演じ方を解説してゆきましょう。

③「コミュニケーションを演じる」には?

「コミュニケーションを演じる」というと、リアクション芝居を工夫する事を連想する俳優さんが多いようですが、そういう事ではありません。
そもそもリアクションは工夫してはダメなのです。リアクションを工夫すると、つい「キャラ」でリアクションをしたり「感情」でリアクションしてしまいがちで、それは逆に「芝居の金太郎飴化」を進める原因になります。

コミュニケーションするとは何か・・・それはひと言で言うと「外界に目を向ける」ということです。

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