悪い芝居vol.24『アイスとけるとヤバイ』

■2019/08/16 19:00 梅田・HEP HALL
 今年2回目(いや、6月のは2本立てだったから3回目か)の悪い芝居。まるですっかりファンのようだが、そういう意識はあまりない。事実、行こうかどうか迷ったのだけど、チラシが可愛かったので行ってみた。

 まぁ、ギャルが主人公らしい、というところに興味津々だったのだ。自分とはほど遠い人種なので、どう描かれているのかが気になっていた。作家は男性だし。男性がギャルをどう描くのか。そこが今回の観劇の、一番のポイントだった。

 だが、期待していた感じとはちょっと違った。ギャルがメインのお話というよりは、コールドスリープをめぐる群像劇といった方が良い。主人公は少なくとも3人。何らかの葛藤を持っている登場人物をカウントすると8人かな。それぞれのキャラクターが強くて(強すぎて)骨格となるストーリー自体は薄く感じた。

 といっても決してそれが悪いというわけでもない。登場人物一人一人の葛藤を描きだすと、その人数が増えれば増えるほど、全体あるいはそれぞれのストーリーは必然的に薄くなる。1人の物語で120分使えるのと、8人で120分を分け合うのとでは、その濃度は違って当然だ。むしろ一つ一つのストーリーやエピソードが薄くなった分、場面転換を増やして物語をテンポ良く進められたり、その合間合間に色んなネタを仕込みやすいというメリットもある。

 で、6月に『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』を観たときにも感じたが、この劇団は、強いキャラクターと複数のエピソードのガッチャンコから生まれるテンポの良さやグルーヴ感がウリなのだろう。歌あり、コントあり、時にはちょっとほろっとさせたり、観客を巻き込もうとしたり、ダンスを踊ったり、あれやこれやで観客を楽しませようとする。それがめちゃくちゃ楽しい。観劇後、スッキリした気分で帰路につける。

 なんだけど、『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』の時も書いた通り、僕はこの手の演劇があまり好みではないんだよなぁ。

 それと、役者(登場人物)の一人が観客に話しかけるのは、正直、不要だと思った。芝居の途中で、観客に話しかけるのは、あれはあれで使いようによっては面白いんだけど、せっかくのテンポの良さ、グルーヴ感が、そこで止まってしまう。閑話休題。箸休め。次の場面へのつなぎ。って感じがしてしまう。客いじりがしたいのなら、芝居のテンポを止めてしまわないように、もっといじり方を研究した方が良い。というか、あの客いじりはなくても成立させられそうだったので、あれがないとこの演劇は成立しない、必要不可欠だと観客に思わせるところまで作り上げなきゃならない。

 僕は映画とか映像ドラマの脚本を学んだのだが、映像ドラマの世界では、基本的にモノローグやナレーションは使うなと言われる。使うならそのモノローグやナレーションが、そのドラマのクオリティを上げ、その作品のスタイルとなるような使い方をしろ、と言われたものだ。例えば『北の国から』なんて、純のモノローグがなければ成立しないよね。『北の国から』の物語にも見事にマッチしていて、完全にあのドラマのスタイルになっている。あそこまでのクオリティは難しいけど、でも、手法は色々とあるよ。観客に話しかける人物を複数にして、会話のテンポを小気味よくすることで、演劇全体のテンポが損なわれないようにするとかね。

 で、実際のところ、あの客いじりは、どこまで台本に書かれているんだろうと思って、戯曲本も買って読んだけど、大体、書かれてた。どうせ観客をいじるなら(いや、実際には戯曲に書かれているから、あくまで台詞であって、あまり観客をいじってはいないんだけど)大まかな方向性だけ決めといて、その劇場や観客の雰囲気を読みつつ、ほとんどアドリブの方が良いと思った。どうせならもっと観客をいじり倒せば良いのに。漫才とかでも観客をいじる時は、「今日はいつもよりババアが多い」とか、ご当地ネタを入れたりとか、その場所に合わせたいじり方をするよね。それが、戯曲本を読んだことで、ほとんど台本通りなんだ……と分かって、残念な気持ちがした。

 せっかくテンポが良くて、次々とたたみかけるように場面転換していって、観客を巻き込む力もあるのに、もったいない。そのくらい、あの観客に話しかけるという設定は、僕はナシだと思うよ。もうほとんど、それに尽きると言っても良いくらい。

 あ、あと、この観劇の一番の目的、ギャルの描き方、については、ん〜、正直言うとよく分からんのだが、ステレオタイプを抜けてはいないかな。大人が考える「ギャルってこんな感じだろ」の範疇って気がした。心情とか思想とか、もっと掘り下げてほしい。

作・演出 山崎彬
音楽 岡田太郎

出演
清水みさと (オーストラ・マコンドー) 寿とがり
潮みか 錦鯉眠子
中西柚貴 八野純白
岩井七世 近藤春夏
山崎彬 中道秋冬/NA
吉田雄樹(丸福ボンバーズ) 近藤夢/丸腰の刺客2
植田順平 神成岩窟/影山濁流斎/キャッチ
東直輝 脳見茂作/丸腰の刺客1/あいす
久道成光(劇団4ドル50セント) 幅川陽/炎上寺タケル
佐藤かりん 鐘音都/百一本桜和美
鶴田まこ(Cheeky) 西日沈美/カラオケ屋
畑中華香 近藤霧/前説子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?