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夏に食べたい、フィンランドの味。

初めてヘルシンキへ行ったのは、7月の終わりだった。
付き合いの長い友人達は事あるごとに、you must to come to Finland 
フィンランドに来なさい!を暗示のように自分に向かって繰り返すので、
一度は行っておかなければ、という気になったのだ。

ヘルシンキという街が、すっかり気に入ってその後も2度ほど彼らのところに世話になった。
冬のヘルシンキも好きだが、夏は特別だ。
特に JUHANNUS 夏至祭前後。
市内では、公園や美術館などで、さまざまなイベントが開催され、街にも活気があふれて、フィンランドの夏という気がする。

イチゴ、ブルーベリー、などの森の味がマーケットに出始めるのもこの時期から。
しかしこちらの方は、友人達のサマーコテージ付近でとって食べる方が美味しいような気がする。
フィンランドでは、様々なベリーがあり食用になるものがほとんど。
大地のエナジーをたっぷり蓄えた、それらを直接森からいただく贅沢は、
足早に過ぎ去っていく、短いフィンランドの夏の楽しみの一つ。

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Lohikeitto

初めてそれを食べたのは、最初のフィンランド滞在の最後の日だった。
その日、Jouniは仕事に行かなければならなかったので、Leena がヘルシンキの案内をしてくれるといった。
どこか行きたいところはない? と聞いてくれたのだが、
ヘルシンキに関しての予備知識がまったくなかった自分は、最後の日に特に観光なんてしなくてもいい、それより何処かでゆっくりコーヒーでも飲んで、Jouni が帰ってくるまで待とうといった。
じゃあ良かったら、私がこの街で大好きなところに行く?と彼女がいった。
それがいい、じゃあそうしよう、と二人で出かけることになった。
最初に路面電車トラムに乗って市内中心から北側に、確か数日前に行った、アラビアの店舗があった方向だ。

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しばらくして、バスに乗り換えて10分ほどで下車。
夏草が勢いよく伸びる草原の様なところにでた。
林の中に伸びた道の右側には、川が流れている。
その道を川の上流へと歩きながら、二人で話す。

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こんなに自然が残ったところが、ヘルシンキ市街中心地の近くにあるとは思わなかった。
へー、ここがLeena が好きな場所か。
彼女がどうしてここが好きなのかわかるような気がした。

場所の名前は、Vanhakaupunginkoski。
Leena にとっては、この辺りの風景が一番フィンランドらしいといった。
そういえば、彼女たちが連れて行ってくれた、両親のサマーコテージ近辺の自然に似ていた。

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吊り橋を過ぎて、小さな滝の横の階段を上ったところに、カフェがあった。

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ここで昼食を食べることになった。
オーダーしていい? と彼女が聞いてきた。
もちろん。
しばらくしてクリームシチューのようなものが出てきた。
これはなに? 初めてじゃないかな、これを食べるのは。
フィンランドの伝統的なサーモンのスープよ、とLeenaが教えてくれた。
フィンランド語で、lohikeitto。lohi はサーモンでkeitto はスープ、でサーモンスープとなる。

ミルク仕立ての、あっさりしたスープの具は、サーモン、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎなどが、食べやすい大きさに切ってあり、ちょうどいい柔らかさに調理してあった。
上に散ったディルの緑が、ミルクの白に対して鮮やか。
味付けはシンプル。
塩加減もきつくなく、一緒に来た黒っぽいパンを浸して食べる。
口に運ぶとき、ほんのりとレモンの香り。
サーモンの身と、ミルクの相性がとても良い。

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気に入った?と Leenaが聞く。
とても好きな味だ。そう伝えると、Leena が嬉しそうに教えてくれた。
伝統的なフィンランド料理であるこのスープは、特に夏の食べ物というわけではないけれど、このカフェではこれが一番美味しいのだそうだ。
確かに、冬、寒い時にこのスープは最高だろう。
だけどこれだったら、いつ食べてもいいなあ。
そう伝えると、Leenaがまじめな顔つきになって、絶対またフィンランドに帰ってくるのよ、といった。
Lohikeitto サーモンスープ
最初に大好きになった,自分にとっての夏のフィンランドの味だった。

MUIKKU

二回目の夏のヘルシンキ。
前半のうちの4日間は、ひとりで留守番となった。
Jouni と Leena はまだ幼い二人の子供と一緒にイタリアへ。
ヘルシンキ到着初日、Leenaが迎えに来てくれた。
初めてあったときはまだ若かった二人、いまでは子供が二人いる一つの家族となった。
旅行好きの彼らは、幼い子供二人を連れてよく旅にでる。
彼らが帰国してからは、みんなでラップランンドに行く予定になっていたが
それまでは punavuoliという、市内でもにぎやかな地区にある、彼らのアパートを好きに使っていいということだった。


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ひとりといったが、Leena がいつものように気を使ってくれて、
彼女の兄、Jorma と Jouni の弟の Joel  (何故か彼らの家族はJで始まる名前が多い。)が4日間いろいろとヘルシンキ各所へ連れていってくれた。

kaivopuisto

その日は、ここで行われるというミュージックフェスティバルに、
Jouniの弟 Joel が彼女といくので、良かったら一緒に行かないかと誘ってくれた。
とりあえずなんでも、ひと通り経験するのが好きな自分は快諾し、
Joel達と3人で行くこととなった。

会場となっていたのは、前回のヘルシンキ滞在でも来たことがあり、気に入っていた場所。
kaivopuitso という名前の公園。
カイボは名前で、puistoはフィンランド語で公園の意味。
カイボ公園
かなり大きな公園で、ちょっとした丘陵が海沿いまで伸びている。
友人の住居から歩いてもそう遠くなく、公園までの道のりも、とても気分の良い散歩道。
今夏もすでに何度もここに足を運んだ。

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当日、公園の中の会場へと向かう道は、フェスティバルへと向かう人でにぎわっていた。
両脇に、出店が出ている。
食べ物のいい匂い。
その中に、面白いものを見つけて、Joelに問いかけた。


アメリカどころか、日本でも屋台では見かけた記憶がないその食べ物。
日本では、居酒屋などに行けばあるし、釣り好きの自分は、日本では自分でも作ってよく食べた。
懐かしい。
小魚を揚げたような食べ物。
ここフィンランドでは、よく淡水魚を食べる。
そこら中に湖、池が点在するこの国では、不思議なことではなかったが、
小魚を一匹丸ごと、頭や、苦みのある内臓ごと食べるのは、アメリカでは見たことがなかった。
アメリカでは、魚といえばすでに切り身になっていて、一匹丸ごと揚げたり、焼いたりするような料理はあまり見かけない。

食べる?と Joel が聞いてきた。
もちろんだ。
屋台の店員が、大きな鉄板からポテトフライを入れるように、小魚達を紙袋に入れてくれた。

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muikku ムイックという名前らしかった。
日本で似たような魚といえば、ハヤや、ワカサギに似たその魚
紙袋に入った見た目は、夏のヘルシンキの公園に何故だかよく似合っている気がした。

半月に切ったレモンと、マヨネーズのようなソースが一緒についてきた。
まずはそのまま食べる。
なんとも懐かしい味。
日本にいた頃に夏、渓流で過ごした日々の事を思い出した。
頭も、かすかな苦味のある腹の部分も丸ごといただく。
レモンを少し絞ってまた少し食べる。
マヨネーズソースもよくあう。
からっと上がっていて、うまい。
Joelも 紙袋からつまんで食べる。
こうなるとやっぱり、ビールが欲しくなる。
あった
サーバーからプラスチックのカップに注いでいるものを買った。

ヘルシンキの夏は、ほぼ20度前後の暑さでとても過ごしやすい。
(ここ数年は異常気象の為か、夏はかなり暑くなっているようだ)
小魚のから揚げを、屋台で買って、良い心地のする公園を歩きながら食べるというのは初めての体験だった。
一段と高くなっている、岩むき出しの場所に三人で座り、ムイックのから揚げを楽しむ。

この揚げたムイック、ここでは人気があるのか?と Joel に聞くと、ヘルシンキだけでなく、フィンランド中どこにでもある、みんなの好きな食べ物だという事だった。
魚好きの自分達日本人に似ている。
また一つ、この国で好きなものが増えた。

レストランや、食堂などでも普通にメニューにのっているらしいムイックのから揚げ。
屋台でこうして売っているのは、夏だけのようだ。
また夏にヘルシンキへ行って、あの公園でムイックを食べる日を夢見ている。

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