猫との対話

トラオ 2.

最近姿を見掛けなくなったトラオを、私は時折思い出しては心配していた。だが昨日桜の樹の下で老人みたいに花見をしているトラオを見掛けた。
ガラも目つきもめっぽう悪かったトラオの背中はすっかり丸まって、喧嘩の敗北で切れたまま中途半端な尾っぽは健在。どこか風格さえ出て来た感のあるトラオは嘘みたいに穏やかに、満開の桜とその隙間から覗く青空を見上げている。

:
元気そうで好かった‥。
トラオ:
ああ‥ いつものばぁさんじゃないか。花見か?


口の悪さは相変わらずだが、傍目には「ニャー」としか聴こえないだろう。私とトラオのやり取りを少し離れたベンチから奇異な目で、80代になろうかと言うご婦人が静かに見つめている。

猫は呼吸に言葉を持つ。なので「ニャー」と声を発した時には既に会話が終わっており、私は人間語と猫語の狭間に静かなコミュニケーションを試みる。


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