娑婆には見当たらない恋

塚原音子とは、死ぬほど我の強い女子高校生である。そして、私はそんな彼女にオチた女だ。彼女を知って、恋と地獄は落ちるものなのだと初めて納得した。

誰ソ彼ホテルというアプリゲームを知っているだろうか。

あの世とこの世の狭間に位置する黄昏ホテル。そこへ訪れるのは、生と死の分からない迷えるもの達だった。塚原音子はホテルでそんなワケありのお客様を相手にしつつ、ここへ迷いこんでしまった自らについての真相を知っていく。

粗筋はこんなところとして、私はこのゲームの主人公塚原音子への愛をぶちまけたいと思う。

だって、周りに理解者がいない。プレイヤーは大勢いるはずなのに、何故か周りには0人。こういうことはよくあると流していたが、さすがに堪えきれなくなってきたのだ。

「虚構と実人生のギャップに苦しむ姿ってドラマチックじゃないですか」

これは、彼女が好きなアイドルについて語った際に放った言葉である。厳しいオーディションを受け、アイドルを勝ち取っていく姿の魅力を語っている最中、彼女は割となんてことない風にそう言った。その言葉を受けて、大外は「君は残酷だ」と返す。私もそう思う。

アイドルを推しているから、その言葉は嫌な風に刺さった。推しがギャップに苦しんでいると分かったら、彼女達の虚構を推すのにかなり躊躇うと思う。あまり考えたくない部分を突かれた気分だった。

でも、私はこれでオチた。

自分でもなぜだか分からない。「嫌だな」と思いつつ、「え、好きだ」と思ったのだ。お陰で情緒がめちゃくちゃになった。理由はないし、本当に突然落とされてしまうものらしい、「好き」とは。

多分、この時彼女の「キュートな自分勝手さ」に惚れてしまったのだと思う。


塚原音子、大外聖生、阿鳥遥斗

※ここからは、少なくともTRUEルートラストまでプレイ済みの人のみに読んで欲しい。

塚原にとって、大外は傷だ。

TRUEルートもAnotherルートも、彼女は大外と同じ場所に落ちる覚悟が多分ある。塚原にとって、彼は憎むべき敵のはずだけど、どこか同じ穴のムジナだという認識があるのではないだろうか。自分が人の道をひょいっと外れられることに、大外のおかげで気付かされたはず。

そして、塚原にとって、阿鳥も傷だ。

阿鳥というか、誰ソ彼ホテルで共に働いた「阿鳥先輩」かな。あの時地獄に落ちてしまった彼のことを、彼女は一生忘れないだろう。自分のケツは自分で持つらしい彼女は、阿鳥先輩が幸せになるためなら、人の道を外れることも厭わないはず。

「わたしをあなたの傷にしてね」が、この3人の関係を1番表していると私は思う。

大外にとっても塚原は傷で、そして阿鳥も傷だ。彼が両親に否定されたと感じたのには、阿鳥がその一因にある。傷の受け止め方を知らなくて、それを愛した大外。けれど可哀想に阿鳥ではなくて、塚原が致命傷になってしまった。彼女のおかげで運命をねじ曲げられ、地獄に落ちてしまったのだから。

阿鳥にとっては、塚原が傷であり、そしてカサブタだ。彼女のお陰で、阿鳥先輩はただ「つまらない」だけのイケメンで無くなったから。この「つまらない」はあくまで自称であり、ズレていると思うけれど。塚原は大外を運命としたけど、阿鳥の運命は塚原ではないだろうか。自分をつまらないと嘆く割には、彼のポリシーもかなり変わっている。フツーでなくてはいけないと思っていたんだろうけど、そこから外れる選択肢が見えたのかもしれないと、塚原の襟首を掴むスチルを見て私は思ったりした。全部無自覚だろうけど。(阿鳥先輩の魅力と欠点ってそこだと思う。)

大外にとって塚原は最大の理解者だけど、塚原にとっての最大の理解者は塚原自身だと思う。大外は塚原をかなり「こうあって欲しい」に当てはめていて、それは当たっていることもあるけど、外れてるところもある。外れているから、大外は地獄に落ちたんだと思うし。

塚原の最大の理解者は、塚原だけど、自分を全部を理解出来ている訳ではない。誰にも計り知れない器とかいうより、自分でも根拠のよく分からない理念とそれにそぐわない感情が山ほどあるんじゃないかな。倫理観よりもそんな理念で行動する少女。無自覚でノーガードだったそんな側面を、ぶっ叩いてきたのが大外聖生という男。

塚原音子の行動理念は、「塚原音子だから」としか言えない。そして、それが私には、魅力に思えてならない。

塚原音子が、塚原音子なところが好き。

つまるところ私は、彼女の我に惚れてしまったのだろう。

恋は人をちょっと変える

私は彼女を好きになったおかげで、「好き」を大事にしたいと思った。

鼻で笑われたらと思って怖かったけど、どうしても愛をぶちまけたいと思うようになった。

ペラペラの我を少しずつ強化していきたいと考えるようになった。

ありがとう、塚原音子ちゃん。大好きです。

ボトルに便箋詰めて、流すような心地でここに愛を垂れ流しておきます。









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