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スターウォーズの特殊効果を支えた1970年代の心理学実験-5最終回

このような経緯。

ILMのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(ILM executive creative director)であり、『アビス(Abyss)』から『マンダロリアン(Mandalorian)』まで数多くの映画や番組の視覚効果を手がけたジョン・ノール(John Knoll)は、「『スター・ウォーズ』が公開されたとき、私は14歳だった」と振り返る。

ILMの長年の従業員であり、弟のトーマス・ノール(Thomas Knoll)とともに、Photoshopの共同発明者(co-inventor of Photoshop)でもある彼は、物理的なモデルに代わるデジタル革命の先陣を切ってきた。

しかし、彼はミニチュアモデルや、それを撮影するために必要なメカニカルシステムの熱烈なファンであり続けた。

ノールは、「純粋にノスタルジックな観点から、古い技術への愛着があるのは確かです。」「ミニチュアは本当にクールだと思う。きちんと撮影すれば、素晴らしいものになります。」と言う。

ILM Knoll Goodson Razor Crest モーションコントロール

物理的なミニチュアとモーションコントロールは、『マンダロリアン』の賞金稼ぎディン・ジャリン(Din Djarin)の物語で、『スター・ウォーズ』の世界に思いがけず戻ってくることになる。番組の第1シーズンの制作中、製作総指揮のジョン・ファヴロー(Jon Favreau)は、ジャリンが乗るピカピカの金属製船「レイザー・クレスト号(Razor Crest)」のCGショットのリアルさに疑問を抱いた。
「表面の輝きはもっと明るいのだろうか」と、少し懐疑的な目で見ていた。
「どうなんでしょう。リファレンスモデルを作った方がよさそうだ。」とノールは振り返る。

現実と比較してシミュレーションを検証するというアプリアードとクレイクの取り組みにならい、ノールと彼のチームは旧式の方法でレイザークレストのミニチュアモデルを作成した。番組のエフェクト予算が決まっていたため、ノールはDIYのアプローチを採用し、自宅のガレージで映画品質のモーションコントロールシステムを安価に製作した。

コンピューターモデルの検証にとどまらず、最終的には、シリーズに登場するレイザークレストの多くのシーンで、彼の自作装置とそのモデルを使用することになった。

『マンダロリアン』でのミニチュアベースの仕事の成功は、ILMにおけるモーションコントロールの復活に拍車をかけているようなものである。

ノールは、今後の番組で使用する、より精巧なリグを新たに構築し、その使い方を新世代のエフェクトアーティストに教えている。

「もし私がバスにはねられたとしても、私だけで終わることはないでしょう。」と彼は笑う。
「このまま未来につなげたい。」と思っている。

ILM レイザークレストのブルースクリーン

OGのモーション・コントロール・システムについては、2台とも博物館の展示品になっている。

ダイクストラフレックス(Dykstraflex)は2008年に、ジョージ・ルーカス(George Lucas)によって映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)に寄贈され、ノールはその再組み立てと修復を主導した。ボッセルマン(Bosselmann)はバークレー・リグ(Berkeley rig)をサンフランシスコ近代美術館(San Francisco Museum of Modern Art)に寄贈した。

カリフォルニア大学バークレー校の環境シミュレーションラボ(UC Berkeley's Environmental Simulation Lab)は、さまざまな学術誌に掲載された研究成果や、世界中の都市開発プロジェクトに影響を与えたことで、その遺産は今も生き続けている。また、アメリカの文化や歴史に深く刻まれた映画の記憶も、この研究室によって生み出されたものである。

1977年、アプリアード(Appleyard)は、自身の研究所の環境シミュレーション研究の応用可能性について、奇妙な予言めいた文章を残している。「...現存するものとはまったく異なる未来の環境が、研究室や製図板、そして世界中の想像力のある人々の心の中で構想されている。」想像力豊かな人たちは、科学的探求という現実的な力によって、少なからず駆り立てられているのです。」

「その力は、科学ファンの皆さんと共にあります。いつも。」

著者について

ジェイソン・ストートン(Jason Stoughton)


科学コミュニケーション担当スタッフ・アソシエイト
米国のNSF(National Science Foundation/全米科学財団/国立科学財団)の科学コミュニケーターとして、NSFが支援する研究によって生み出された発見や成果に関するストーリーやその他のコンテンツを執筆している。

基礎科学の価値を理解し、それが人々や社会にどのような利益をもたらすかを理解させることに重点を置いている。NSFに来る前は、NIST(National Institute of Standards and Technology/国立標準技術研究所)の広報室に勤務し、サイエンスライティングや写真撮影、内部コミュニケーションや教育ツアーの指導、PBSで全米、BBCなどで国際放映されたドキュメンタリー映画「The Last Artifact」のプログラム担当を務めた。NIST入社以前は、映画・テレビ業界で15年間、クリエイティブ・ディレクターからチーフ・コーヒー・フェッチャーまで、さまざまな職務に就いていたため、危うくキャリアを棒に振るところだった。テレビ向けの教育用公共広告の制作と脚本で、エミー賞を数回受賞している。

2023年05月04日---銀河系映画戦線に和解はない
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2023年05月08日---「スター・ウォーズ」の特殊効果を支えた1970年代の心理学実験。
https://note.com/digicreatorito/n/n96571a4159e5
2023年05月09日---「スター・ウォーズ」の特殊効果を支えた1970年代の心理学実験-2。
https://note.com/digicreatorito/n/n0ea56010e84c
2023年05月10日---「スター・ウォーズ」の特殊効果を支えた1970年代の心理学実験-3。
https://note.com/digicreatorito/n/n11f1e3283e67
2023年05月13日---「スター・ウォーズ」の特殊効果を支えた1970年代の心理学実験-4。
https://note.com/digicreatorito/n/n729df60d47bc

https://new.nsf.gov/science-matters/1970s-psychology-experiment-behind-star-wars

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