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優秀なマーケターが持つ6つの要素。あるいは“ブルシットクエスチョン”の遠ざけ方

デジタルマーケティングカンパニー・DIGITALIFTの鹿熊亮甫が、第一線で活躍するマーケターとの対談を通じ、デジタル時代のマーケティングを解剖していく連載シリーズ「次世代マーケ論考」。

第四回は、マーケティングを中心にスタートアップに必要なナレッジ・ヒトにアクセスできるコミュニティ「ビタミンゼミ」を主宰する高梨大輔さんをゲストに招き、「愚かな勤勉 vs. 優れた怠惰」をテーマにお話を伺いました。

世界が複雑化するに連れ、マーケティングの技法が高度化する時代に、マーケターたちはどのようなアクションを取るべきなのか。

二人が考える「優秀なマーケターが持つ6つの要素」を取り上げ、マーケターキャリアの本質に迫りました。

優秀なマーケターは、他人の脳を借りる

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鹿熊:高梨さんは「ビタミンゼミ」を運営している関係で、マーケターの方々とお話しする機会が多いと思います。「この人は優秀だな」と感じるマーケターに、なにか共通点はありますか?

高梨:僕は現役のマーケターを引退しているので、何かを言うのは違うかなとも思いつつ、特定の技術に秀でているというより、KPIをしっかり押さえているマーケターは、やはり優秀だなと感じます。

経営において、もっとも重要な数字はなにか。それを理解しているマーケターは、やはり行動が違いますよね。

鹿熊:たしかにそうですね。結局マーケティングは経営の手段でしかないので、手段に習熟するよりも、解決すべき問を正確に把握していることの方が重要です。

もちろん、解決策までセットで持っていたら最強ですが。

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高梨:ただ、あらゆる解決策を持つことは、もはや構造的に難しい気がしています。

マーケティングにはやるべきことが多すぎるので、あらゆる解決策を持っているフルスタックな人材なんて、見たことがありません。

僕が現役のマーケターだった時代は、押さえておくべき要素が限定的でした。SEOと運用型広告、あとはアフィリエイト。それくらいできれば、マーケターを名乗れたし、それで飯が食えたんです。

でも、いまはやるべきことが無数にあります。これらを一人でやるなんて、実質的にムリだと思っています。

鹿熊:僕も広告のことであればずっと語れますが、アプリのことを話せるかと問われると……。自信を持って「私はプロフェッショナルです」とは言えません。

自分が得意ではない領域を担当するときは、人に聞くなり、その道のプロをアサインするなりして、他人の脳を借りるようにしています。

高梨:翻って、他人の脳を借りられるマーケターは優秀なんだと思います。

話を聞けるネットワークを持っているとか、質の高い質問ができるとか、「彼には教えてあげてもいいな」と思える人間であれば、最終的にはマーケターとしての職務を果たすことができるので。

愚かな勤勉と、優れた怠惰

高梨:マーケティングの世界に身を置いていて気付いたのですが、数年前に「センター試験だけやっていればよかった時代」が終わった気がしませんか?

鹿熊:分かります、すごくピンとくる例えです。自由回答とまではいかないけれど、センター試験には出なかったような問題が、出題され始めました。思考力・判断力を問われる時代になった結果だとも思います。

「難関大学の試験」を想像してもらうと分かりやすいかもしれません。全ての問題を自力で解こうとしていると時間切れになる、という感じですよね。

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高梨:まさにおっしゃる通りです。東大を受験する人なら解けるかもしれないけど、僕のように、そうじゃない人が必死に勉強したところで、限界がある。

少し前に、ムダで無意味な仕事が増えていく理論を解説した書籍『ブルシットジョブ』が流行りましたよね。それと同じで、複雑化した世界が生み出した問題は、「ブルシットクエスチョン」だと思っています。

問としては存在しているものの、「本当に自分で解く必要があるんだっけ?」と。分かる人に聞いた方が圧倒的に早いし、正確なので、僕は人に聞くことをお勧めしています。

鹿熊:受験勉強をしていたら、多くの人が塾か予備校に通いますよね。それってつまるところ、解答を知っている人に、解き方を教えてもらっているということです。

ただ、こと仕事になると、全部自分で解決しようとしてしまう。難しい問題を自分で解こうとする姿勢は素晴らしいのですが、それが最適解なのかと言えば、そうではない気がしますね。

高梨:僕の感覚では、偏差値50くらいまでは、本で勉強するのが最強の方法だと思っています。たった1,500円程度で購入でき、数時間あれば読破できるので、学習の費用対効果がすごく高い。

しかし、偏差値を50から60まで上げようと思ったら、途端に学習コストが上がるんです。時間はかかるし、時間をかけても解けるようになるとは限らない。そうであれば、話を聞きにいった方が早いと思っています。

マーケターは日々課題を解かなければいけない職業なので、独学で勉強し続ける行為が、ときに「愚かな勤勉」になることを自覚しなければいけません。

強いマーケターには、弱いつながりがある

鹿熊:そういった意味で、ビタミンゼミはマーケターの学習コストを大幅に下げるコミュニティですよね。

高梨:一応、そうしたコンセプトで運営しています。

過去にアンケートを取った際は、「登壇者に気軽に質問できる」という点が最も支持されていました。登壇する側の人が、「応援したい」という気持ちで参加してくれているので、議論が活発になっているのかもしれません。

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鹿熊:ビタミンゼミは、ちゃんと課題を持っている人が参加している印象があります。セミナーだとフワッとした質疑応答で終わるケースが少なくないのですが、ビタミンゼミはかなり詳細な質問が飛んでくる。

高梨:セミクローズドな環境だということも、少なからず影響しているはずです。

また、多くの参加者は共通の課題を持っていたりするので、一つの質問が大勢の課題を解決するケースも散見されます。

「いかに課題を特定し、いかに質の高い質問をするか」が、現代のマーケターの勝敗を分ける要素になっているかを感じますね。

鹿熊:横のつながりができていくことも考えれば、やはり、マーケターには「弱いつながり」が重要なんだと思います。

高梨:ちなみに鹿熊さんは、いま駆け出しのマーケターだったとして、個々の能力に習熟する道と、他人の脳を借りる道、どちらを選びますか?

鹿熊:間違いなく後者ですね。優秀な他人の脳を借りた方が、絶対的に早いので。

テストで例えるなら、脳を借りるというより、もはや解いてもらうこともすると思います。「現代文のテストを代わりに解いてください」で100点が取れるなら、僕はお願いしますよ。スピードが求められる仕事であれば、なおさらです。

お金がかかるかもしれませんが、全方位そうすることもできますよね。

ただ、共通言語がなければお願いすることもできないので、最低限の勉強は独学します。高梨さんの言葉を借りれば、偏差値50までは自分でやるということですね。

高梨さんは人に教える機会も多いと思うのですが、どのような人になら、無償でもアドバイスしたいと感じますか?

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高梨:自分の好きなサービスにひたすら触れている人とか、自社プロダクトを偏愛している人ですね。そういう人って、面白いんですよ。面白い人は、他人とどう接しようが、インスピレーションを与えます。

僕の周りには、そういう人が多いんです。だから、「教えてあげている」というより、お互いに好影響を与えあっているという気持ちです。

ビタミンゼミに参加してくれる人たちは、基本的にエクイティで資金調達をしているスタートアップのメンバーなので、切迫感が違います。

やり切らなければ試合終了なので、24時間365日、サービスのことばかり考えている。そういう人たちは、やはり人にインスピレーションを与えるだけの魅力があります。

そうした意味で、自社サービスをとことん愛している人は、他人の脳を借りやすいのではないかと思います。VCの方々が最終的には人を見て投資するのと、きっと同じことです。

駆け出しマーケターが磨くべき、6つの指標

鹿熊:これまでの話を振り返ると、職人気質なマーケターを目指していない限り、やはり他人の脳を借りるのが重要だと。要するに、「友だちをつくる能力」を持っていることが望ましいということになります。語呂が悪いので、いったん「関係構築力」としましょうか。

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高梨:アダム・グラントの世界観ですよね。テイカーは最終的に何もしてもらえなくなるので、自分が持てる限りの知識やノウハウを積極的に提供するスタンスが重要だと思います。

そういう意味で、知識を持っていることも重要ですね。

トップマーケターと言われる人たちは、何がすごいのかというと、「見ているピースの量」が違うんです。解くべき課題と、解かなくてもいい課題を判別できるので、一つの行動が経営に与えるインパクトが変わってくる。

せっかく彼らに質問する機会があっても、彼らが見ているピースが見えないことには、質問が的外れになってしまいます。最低でも偏差値50、可能なら55くらいまでに伸ばしておかないと、大成できないと思います。

あとは、リスペクトも重要です。質問をするときって、相手のことを忠実に調べるじゃないですか。商談もそうだと思います。それが重要なことを理解している人は多いと思うのですが、自社でも徹底できる人は少ないんです。

マーケターは他部署との連携が求められる仕事ですから、隣の部署のメンバーがどんな経験を持っているのか、何に悩んでいるのか、それを念頭に働いているか否かで、成果は大幅に変わると思います。

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鹿熊:関係構築力、知識と情報量、リスペクト。あと、個人的には、仮説設定力もある気がします。

スタートアップに特化した話かもしれませんが、社会が劇的なスピードで変化していく現代において、明日以降の未来は「未知」ですよね。昨日まで売れていた商品が売れなくなったり、そう思ったら売り上げ規模が数倍になったりして、やるべきことがコロコロと変わります。

文字通り「未知」なので、誰にも予測できないことですが、それでもマーケターは予測しなければいけない。ミクロな意味での仮説設定ではなく、社会の変化を予測するような、もっと大きな視点での仮説設定ができるかが、優れたマーケターになるための指標になる気がします。

高梨:「関係構築力」に関連するかもしれませんが、僕は偏愛力も重要だと思います。偏愛力を持った人間は、必然的にインスピレーションを与える側になりますし、そもそも馬力が違うので、そのまま課題を解決してしまうこともある。

メルカリの創業期は、社員が誰よりもプロダクトを触っていたと聞きました。それが、グロースに寄与したといいます。

その話を聞いたとき、すごく納得しました。触れば触るほどユーザーの気持ちが理解できるので、最適化されたサービスの開発につながっていくんです。

ちなみに、マーケティングのサポートしていた方たちが僕を抜いていく一番の要因は、圧倒的な当事者意識でした。それを考えれば、やはり偏愛は武器なんです。

鹿熊:それ、興味深い話ですね。でも、納得です。うちは代理店ですが、お客様のサービスを愛している社員は、やはり結果が出るのが早いので。底知れぬパワーが出るんだと思います。

高梨:そういう意味で、最後は行動量ですかね。他人の脳を借りるにせよ、自分で解決するにせよ、行動量がない人が困難を突破するケースは見たことがありません。

筋肉質な話になってしまいますが、手を動かした人とそうでない人では話の具体性も変わってくるので、少なくとも駆け出しの時点では手を動かす機会を増やすべきだと思います。

鹿熊:関係構築力、知識と情報量、リスペクト、仮説設定力、偏愛力、行動量。どれも必要不可欠だとおもいます。

ビタミンゼミは今後、上記の6つの能力が育つようなコンテンツを提供していくんですか?

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高梨:これまではそうしていたのですが、今後はアップデートしていきたいと考えています。

というのも、ビタミンゼミ以外にもマーケター向けのサロンはたくさんあって、左脳的に考えれば、コンテンツの内容は収斂されていくからです。

ある程度の解は存在するので、みんなで同じことをしても仕方がない。少なくとも、僕より優秀な人がいるので、彼らに任せたほうがいいと思っています。

考えているのは、稼がない勇気を持って、ビタミンゼミをユニークネスなコミュニティにすること。そのほうが、僕自身が楽しいというのもあります。

僕らが生きているのは資本主義ですから、「資本」について考えると、どうしても金融資本のことばかり考えてしまいます。でも本来は、それと同じくらい重要なものがたくさんあるはずなんです。

例えば経験資本とか、余暇資本とか、つながり資本とか。金融資産を80から100にするために歯をくいしばるより、他の資本をそれぞれ50にした方が、トータルで見たときの幸福度は向上します。

だから、そこから離れていくのが目標です。物差しを金融資本だけに置くと、どんどんつまらなくなる気がしていて。

もしこの考えに賛同してくれる支援者の方がいれば、ぜひ講師としてお手伝いいただきたいと思っています。

鹿熊:「マーケターを引退した」とはいえ、その考えのアップデートは、マーケターの必須能力である「仮説設定」ですね。新しいビタミンゼミ、楽しみにしています。


ビタミンゼミ
株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。100名を超える紹介制ビタミンゼミでは、信頼できる専門家から「一次情報」をスタートアップに届ける活動をしている。


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