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第4回 会社の看板を捨て、個人で勝負しろ

 コロナが時代を加速させています。私たちの価値観は大きく変わり、新しい生活への転換を余儀なくされています。企業のデジタル化は急速に進み、在宅勤務により、必要な人、不必要な人が明確になってきました。これからは、管理者よりも実践者が、同質化した人材より異質な人材が必要とされるようになることでしょう。

「これから生き残る人、取り残される人」 前回までのお話
    第1回 コロナが時代を加速させる
    第2回 実践者の時代、管理者は去れ
    第3回 異質を恐れるな、同質化を恐れろ

今回は、「会社の看板を捨て、個人で勝負しろ」と題して、より具体的に、これから生き残る人、必要とされる人についてお話をしていきます。

明日、会社が潰れても大丈夫?

 「明日、会社が潰れても大丈夫ですか?」と問われたときに、胸を張って「大丈夫!」と答えられる人は、どれだけいるでしょう。決して多くはないことかと思います。日本では、多くの場合、社会人になると同時に「就職」ではなく「就社」し定年まで勤めあげることを前提としてきた社会構造に大きな要因があるからです。多くの人が、入社後、社風に合わせる同質化教育をされ、分業化された組織の中で歯車の一つとしての役割を与えられ、出世のためには失敗をしないようにリスクを避け、挑戦をしないように過ごしていくことが正しいとされてきました。国内経済、人口も右肩上がりであった昭和の時代には、それは当たり前であり、それが当時の日本経済を大きく成長させた原動力でもありました。
 「失われた30年」とも言われる平成の時代に、転職・起業する人も増えてはきましたが、全体のごく一部であり、多くの企業では、「就社」を前提とした昭和の価値観で企業経営が行われてきました。そして、令和の時代に入り、経済も低成長が続き、人生100年時代となり、もはや、今の仕事の仕方は通用しないことに、多くの人が、気づき始め、特にコロナの影響でより先行き不透明になった現在では、もはや、はっきりと働き方を変えなくてはいけないと感じている方が多くいらっしゃることかと思います。

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個人の価値が問われる時代

 働き方を変えると言っても、会社が用意する「働き方改革」のことではありません。会社の用意する「働き方改革」は、時短や〇〇休みのような対処療法でしかなく、歯車に油をさす程度のことでしかありません。本当の「働き方改革」は他者に求めるのではなく、自分自身で主体的に変え、自分自身の価値を高めていくことなのです。
 ここでいう「価値」とは、自分のオリジナリティ(他人が真似のできないもの)であり、顧客が求めるもの(お金を支払ってくれるもの)のことです。その価値は、一朝一夕で作り上げることはできないものですが、常に意識の根底に置いて、日々、努力を続けることにより得ることができます。逆に、意識になければ、決して得られることがないでしょう。
 もし自分だけの「価値」を持つことができたならば、怖いものはありません。ある日、突然、会社が潰れても、会社を解雇されても、自らの価値をいかして新しい挑戦をすることができるからです。そんな自分になったと想像してみてください。なんて自由で、なんて楽しい人生になることでしょう。

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会社の看板を捨てて勝負できるか

 人には、2つのタイプがいます。1つは「会社の看板にぶら下がっている人」、もう1つは「会社の看板を支えている人」です。前者は、会社の看板に価値があり、個人には価値がない人。後者は、個人に価値があり、その個人が会社の価値を高めている人です。
 「会社の看板にぶら下がっている人」は、自己紹介をする場面で、多くの人は「私は○○社の課長の○○です。当社は、業界No.1の実績を誇り、そこの■■という部署で、△△を担当しています」といった紹介をしてしまっているのではないでしょうか。長い説明の割に、相手には、個人の価値はほとんど伝わっていません。
 「会社の看板を支えている人」は、自己紹介の場面では、「私は〇〇です。私は、■■を信条としており、◇◇を経験し、△△を得意としております」と紹介をしたならば、相手に個人の価値が伝わり、相手はその人が属する会社にも興味が湧いてくることでしょう。
 あなたは、どちらが良いでしょう。もちろん後者の「会社の看板を支えている人」ですね。大切なのは、自分自身の価値といえる信条、経験、スキルであり、これらが、個人の価値といえるものなのです。そして、これらは自然に身につくものではなく、自らが会社の看板をに頼らず、自らを高めることを意識していかなければ決して身につかないものです。

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会社と違う環境で自分を磨け

 個人の価値とは、自分のオリジナリティであり、顧客が求めるものであり、個人の持つ信条、経験、スキルなのです。これらは、日本の「就社」の環境の中では、養いにくいことは前述しました。
 では、どうすれば良いのでしょうか、転職を重ねれば良いのでしょうか。それは違います。意識のない人が、転職を重ねたところで、結局、新しい環境に流され、価値を高めるどころか、中途半端になるのが関の山です。
 私は、社員、若い人に薦めているのは「会社と違う環境で自分を磨く」ことです。それは、自ら信条を持って、仕事に取組み、お客様と接し、社外の人と議論を交わし、多くの刺激を受けることです。若いうちに信条を持つことは難しいかもしれませんし、陳腐なものになってしまうかもしれませんが、信条を持って、仕事に取組み、お客様と接し、社外の人と議論を交わすことで、自らの信条に磨きをかけることができます。
 ときにはその信条が砕かれることがあるかもしれません、ときには、信条を自らの意思で変えることもあるかもしれません、しかし、それらを重ねることで、自らの信条は磨かれ、その信条に従って取り組んだ仕事は、貴重な経験となり、筋の通ったスキルを身につけることになるでしょう。

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新しい社員育成の形

 当社では、今年、今お読みいただいている「デジタルシフトマガジン」を開始しました。この取り組みは、日本のデジタルシフトを進歩させたい思いから、日本で数少ないデジタルシフト実践者による本当に役立つ情報発信を開始しました。私も執筆をはじめ、あることに気が付きました。それは、「自らの考えを文章にまとめることで、自分自身の信条が整理される」ことでした。私は、社員達にも執筆を薦め、数名の社員がデジタルシフトの現場をテーマにした執筆を始めています。すると、彼らに少しづつ変化が表れ、自らの考えが明確になってきているように感じるようになりました。
 もう一つの挑戦が、「デジタルシフト塾」です。これは、コロナ禍の3月末にスタートしたサービスですが、目的は、1)デジタルシフトの本質を学ぶ、2)あらゆる分野のゲストをお呼びしてディスカッションから学ぶ、3)塾生同士が意見を交換することにより刺激を受けあうこととしています。これも始めてみると、ゲストとのディスカッション、塾生同士の議論は私自身がとても勉強になることに気がつきました。今では、社員達も塾生の一員として参加し、多くの刺激を受けているようです。
 この話をさせていただいたのは、今回、お話をしてきた、個人の価値を高めるためには、会社とは違う環境で学ぶ場の事例になるかもと思ったからです。是非、ご興味のある方は、ご参加していただければと思います。

デジタルシフト塾の意義

 最後、少し脱線してしまいましたが、「会社の看板を捨て、個人で勝負しろ」をお読みいただき、会社の看板に頼らず、個人の価値を高めることにより、より自由に、より自分らしい仕事、人生を歩むための、ご参考にしていただければ幸いです。

(つづく)

【連載】「これから生き残る人、取り残される人」(予定)
 第1回 コロナが時代を加速させる
 第2回 実践者の時代、管理者は去れ
 第3回 異質を恐れるな、同質化を恐れろ
 第4回 会社の看板を捨て、個人で勝負しろ
 第5回 後ろを振り返るな、前を向いて挑戦しろ

 ★過去のこの著者の連載
 【緊急連載】完全リモートワーク経営術
 【連載】デジタルシフト成功への道
鈴木 康弘(Yasuhiro Suzuki)
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、日本オムニチャネル協会会長も兼任。
著書: 「アマゾンエフェクト! ―「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか」 (プレジデント社) 

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