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第3回 異質を恐れるな、同質化を恐れろ

社内に人材がいない⁉

 最近、様々な業界の経営者の方々と話をさせていただく機会が増えましたが、良くお聞きするのが「うちの社員からなかなか良いアイディアが出てこないんだよ」「こちらから指示をするまで動かないんだよね」といった悩みの声です。また、同時に「革新的な人材を採用したい」という声もよくお聞きします。そうおっしゃる方は、大企業・歴史の長い一般的には一流企業といわる企業ほど多いように感じます。
 本来は、こういった企業は、優秀な新卒社員を採用しているはずなのに、「社内に人材がいない」という会社が意外に多いのです。とすれば、入社後に会社が人材を育てきれていないことが理由としか考えられません
 今回は「第1回 コロナが時代を加速させる」「第2回 実践者の時代、管理者は去れ!」に続き、「異質を恐れるな、同質化を恐れろ」と題して、これから生き残れる人材についてお話します。

同質化人材を育てる日本企業

 戦後、日本は高度成長期を超えGDP世界2位の経済大国へと奇跡ともいえる成長を遂げました。社会学者エズラ・ヴォーゲルは1979年に『ジャパン アズ ナンバーワン: アメリカへの教訓』という本を出版、戦後の日本経済の高度経済成長の要因を分析し、日本的経営は高く評価されました。日本の高い経済成長の基盤になったのは、日本人の学習への意欲と読書習慣であり、ピラミッド型の組織による縦割り統制でした。日本型経営は、一部の特権階級が情報を握り、組織を効率的に分業化し、社員は与えられた仕事をルールの中で繰り返していくことで精度を高め、結果を出してきました。その時代には、営業一筋、製造一筋、経理一筋といった人間が優秀とされ、会社も彼らを重宝してきました。その場合、企業は自社への帰属意識が高く、同じように考え、同じ行動をする社員の方が都合が良く、企業はそういった同質化した社員を大量育成してきました。社員も意識して周りの空気を読み、忖度して同質化していきました。当時は、それが最善の方法であり、効率的であったことは結果が証明しています。
 

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同質化人材は価値を生めなくなった

 しかし、1990年代に入ると、日本型経営は機能不全を起こし始めました。それは少し歴史を振り返ってみるとわかります。1989年にベルリンの壁が崩壊し、1991年ソ連がロシアとなり東西の冷戦は終わりを告げました。冷戦終結後、米国はそれまで軍事利用されてきたインターネットを世界に広げていき、人々は等しく情報を得ることができるようになりました。現在では、パソコン、スマホなどで誰でもすぐに情報を得ることができますが、以前は一部の特権階級が情報を独占し、縦割り統制された組織に指示を与えることが普通でした。ネットが普及するに伴い、情報は誰しも公平に得られるものになったと同時に、誰もが情報発信者にもなったことで、情報は指数関数的に増えてきました。それは、ネット普及以前の「どう情報を取るか」の時代から、「得られた情報をどう活用するか」に転換していったともいえます。
 すると、積極的に育成してきた同質化人材は、上司からの指示を待ち、自発的に考えることをしてこなかったがゆえに、新しいアイディアを生み出すことが苦手なので、価値を生まない人材になってしまったのです

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なぜ同質化してしまうのか?どうすればよいのか?

 今お読みになられている方の中にも、「私は自分なりの考えを持っている」「私は同質化などしていない」と思われる方も多いかと思います。しかし、同じ会社、同じ仕事を続けていれば、周りと同質化していくことは自然なことですし、自分では気が付きにくいものです。会社に入社したとき、転職をしたときの初日を思い出してください。もの凄く緊張して、違和感を覚え、自宅に帰るとヘトヘトに疲れていたのではないでしょうか。そして、その違和感を消すために、自然に周りの空気を読み、自然に同調し、やがて、同じ会社、同じ部署の人々と同質化していくのです。
 これからは、今までまわりからは、変わった人、協調性のない人と思われていた人材にこそ、今後はスポットライトがあたるようになるでしょう。これからは、一人ひとりが得られた情報をどう活用していくかを考え、互いの意見をぶつけ合うことで新しいアイディアを生み出すことこそが、価値の創造につながる時代となるでしょう。これからは、価値を生む人材になるためには、「同質化人材」と対極にいる「異質な人材」を目指すべきです。異質といっても変わり者という意味ではなく、まわりに忖度しない「自分の軸(主義・主張)を持った人という意味です。

異質な人材を目指し、革新を起こす!

 では、個人が異質な人材になるためにはどうすれば良いのでしょうか。異質な人材は「環境」が育てます。難しいことではありませんが、個人・企業ともに努力は必要です。
 個人の努力としては、常に安定しない、新鮮な環境に、自らを置くように心がけると良いのです。同じような悩みを持つ社外の人間に会うのも効果的でしょう。しかし、余りに 旧態依然としている職場環境の場合には、転職を考えてみるのも良いかもしれません。そして、「常に新鮮な子供の様な気持ちを持ち、その気持ちに従い素直に行動し、自分の軸(主義・主張)をつくりあげていく」ことを心掛けていけば良いのです。
 企業の努力としては、積極的な仕事のローテーションを実施して、社員が常に新鮮に仕事に取り組める環境を作ったり、プロパー社員だけはなく中途入社を積極的に採用することも効果的でしょう。新たなプロジェクトは、異業種であったり、企業規模の違う会社と取り組むことで革新を生む確率が高まるでしょう。そして、「責任を明確にして、自由に判断し行動できる環境を提供する」ことができれば、人材は自然に育ちます。
 異質を恐れずに同質化を恐れて、自分の軸を持った人材こそが、これから生き残れる人材であり、必要とされる人材になるでしょう。

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(つづく)

【連載】「これから生き残る人、取り残される人」(予定)
 第1回 コロナが時代を加速させる
 第2回 実践者の時代、管理者は去れ
 第3回 異質を恐れるな、同質化を恐れろ
 第4回 会社の看板を捨て、個人で勝負しろ
 第5回 失敗を恐れるな、挑戦こそロマンだ

 ★過去のこの著者の連載
 【緊急連載】完全リモートワーク経営術
 【連載】デジタルシフト成功への道
鈴木 康弘(Yasuhiro Suzuki)
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、日本オムニチャネル協会会長も兼任。
著書: 「アマゾンエフェクト! ―「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか」 (プレジデント社) 

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