見出し画像

カニエ・ウェスト×タイ・ダラー・サイン、予測不可能な才能の競演:『VULTURES 1』

Kanye West(カニエ・ウェスト)は、2000年代初頭にプロデューサーとして頭角を現し、その才能で世間を魅了しました。その後、ラッパーとしての道を歩み、これまでに10枚ものソロアルバムを世に送り出しました。そのうち9枚が全米チャートのトップに輝き、最初の6枚のアルバムはローリングストーン誌の「史上最高のアルバム500選」にまで選ばれ、同誌の「史上最高の100人の作曲家」の1人にも選出されました。また、彼は自身のレーベルGOOD MusicからKid CudiTeyana Taylorなどの若手アーティストを輩出し、現代のラップシーンをリードしてきました。

さらに、彼のファッションブランド『Yeezy』は、ナイキやアディダス、GAPとのコラボレーションで世界を席巻しました。しかし、一方で、彼の大胆な言動や振る舞いはしばしばメディアやSNSで論争の的となり、彼自身も何かと話題を提供しています。

一方、Ty Dolla $ign(タイ・ダラー・サイン)は2010年に同郷のラッパーYGと共に注目を集め、2014年には若手ラッパーの登龍門として知られるXXL誌の「Freshman Class」に選出され、全米にその名を轟かせました。彼のオリジナリティあふれる歌声は、スヌープ・ドッグから『ネイト・ドッグの生まれ変わり』と賞賛され、多くのラップスターとアーティストとのコラボレーションを果たしました。特に、Post MaloneMegan Thee StallionFifth Harmonyなどの楽曲でゲストシンガーとして参加し、彼らのヒットに貢献しました。
彼はこれまで3枚のソロアルバムをリリースし、その音楽的才能を示してきました。さらに、JeremihDVSNなどの実力派アーティストとの共同作業によるコラボアルバムも発表し、メインストリームからアンダーグラウンドに至るまで、幅広い音楽ジャンルでの存在感を放っています。

そして前々から噂されていたコラボアルバム『VULTURES 1』がついに2024年2月10日にリリースされました。

この記事では、このコラボアルバムに焦点を当て、その魅力に迫っていきます。ご興味のある方は、ぜひ最後までお付き合いください。

レーベル  : YZY
リリース日 : 2024年2月10日
名前    : ¥$, Kanye West & Ty Dolla $ign
本名    :    Kanye West / Kanye Omari West
        Ty Dolla $ign / Tyrone William Griffin Jr.
年齢    : Kanye West / 46歳
        Ty Dolla $ign / 41歳
出身地   :    Kanye West / イリノイ州シカゴ
        Ty Dolla $ign / カリフォルニア州ロサンゼルス


カニエ・ウェストの物議を醸した言動:GOOD Musicの終焉

冒頭でも触れた通り、カニエ・ウェストはキャリアを通じてその発言が話題となっており、2005年のスピーチでは、ハリケーン・カトリーナへの政府とメディアの人種格差に対する批判で「ジョージ・ブッシュは黒人のことを気にしていない」とテレビの生放送で述べました。2013年には、キリスト教の第六戒を引用して中絶に反対を表明し、2022年には中絶を黒人の「虐殺と人口統制」とみなしました。彼はアフリカ人の400年間の奴隷化は「選択のように聞こえる」と述べ、後にその発言が精神的な奴隷化を指しており、自由な思考を主張したと説明しました。

また、同年には反ユダヤ主義的な発言を行い、Vogue、ユニバーサル・ミュージックグループ、バレンシアガ、GAP、アディダスとの協力、スポンサーシップ、提携が終了しました。さらには、ヒトラーを賞賛し、ホロコーストを否定する発言をし、X(Twitter)でダビデの星に絡まる卍字を描いた画像を投稿し、その後一時的にアカウントが停止されました。

彼はこれらの発言に対して謝罪していますが、自身のレーベルGOOD MusicはDef Jam Recordingsとの提携が終了し、GOOD Musicの社長であり、ラッパーのPusha Tは社長職から辞任しました。さらに、Pusha Tは正式にレーベルを離れたことを発表し、カニエ・ウェストもDef Jam Recordingsとの契約が終了するなど、事実上レーベルは幕を閉じることとなりました。

カニエ・ウェストとタイ・ダラー・サイン:音楽界の意外な結びつき

一見すると、カニエ・ウェストタイ・ダラー・サインは異なる世界に属しているように見えますが、実は彼らには深い関わりがあります。2015年、カニエ・ウェストのアルバム『The Life of Pablo』からシングルカットされた『Fade』で共演し、また、カニエ・ウェストリアーナポール・マッカートニーの3人のビッグネームが共演したシングル『FourFiveSeconds』では、タイ・ダラー・サインがソングライターとして参加しています。

また、カニエ・ウェストのシングル「All Mines」(2018)においては、タイ・ダラー・サインがソングライティングとバックボーカルを務めたことからも分かるように、カニエ・ウェストは彼の声に特別な魅力を感じていたようです。その後のインタビューで、カニエ・ウェストタイ・ダラー・サインへの深い賞賛と尊敬を公に表し、彼の才能に対する称賛を惜しみませんでした。カニエ・ウェストは、タイ・ダラー・サインのキャリアとアーティスティックな成長を積極的に支援し、彼の才能が存分に発揮されるよう尽力したいと述べています。

クレイジーだよ。今までで最高のタッグだ。俺らが一緒にジョイントする時はいつも「よー、それはただの〜」って感じなんだ。毎週毎週、ただひたすらスキルを向上させようとしているんだ。 Tyは今生きているアーティストの中で最も才能のあるアーティストの1人だ。サポートするために、あちこち動き回ったり、プロデュースしたり、全て自分でチョップしたり、俺にできることは何でもするよ。

この新作の始まりは、2023年6月に日本で2人がレコーディングしている姿が目撃されたことに遡ります。しかし、カニエがDef Jam Recordingsとの契約終了に伴い、先に述べた通り、計画されていたリリース日から大幅に遅れることになりました。

その後、10月にアルバムからの最初のシングル『VULTURES』がリリースされました。この曲には、カニエと同郷のLil DurkBump Jがゲスト参加しましたが、カニエが『俺が反ユダヤ主義者なのはどうして?俺はユダヤ人の女とヤッただけ』というラップが含まれており、この歌詞はメディアから強く批判されました。

¥$, Ye, Ty Dolla $ign feat. Bump J & Lil Durk - VULTURES

その後、12月にはマイアミでリスニングイベントが開催され、Chris BrownOffsetKodak BlackLil DurkBump JFreddie Gibbs、さらには彼の娘であるNorth Westなど、多くのゲストが参加しました。

しかし、アルバムのリリース日は度々延期され、最初は『VULTURES』というタイトルでしたが、年が明けた1月に『VULTURES 1』と改題され、また事前に公開されていたアートワークも現在のものに差し替えられました。

さらに、カニエは自身のInstagramで、続編として『VULTURES 2』が2024年3月8日、『VULTURES 3』が4月5日にリリースされる予定であることを明らかにしました。そして、2024年夏から2025年初めにかけて、この作品のツアーがブラジルや中国の万里の長城、エジプトのギザのピラミッドなどで行われる予定であることも公表されました。

収録曲について

今作、『VULTURES 1』は、カニエのデビューアルバム『The College Dropout』のリリースから20周年にあたる2月10日にリリースされました。このアルバムには全16曲が収録されており、Travis ScottPlayboi CartiFreddie GibbsQuavoなど、多彩なゲストアーティストが参加しています。さらに、カニエ自身がほぼ全曲でプロデュースに携わっており、そのクリエイティブな手腕が光ります。また、TimbalandJPEGMAFIAMustardWheezyなどの個性豊かなプロデューサー陣も、このアルバムに彩りを与えています。

『TALKING』

アルバムの4曲目『TALKING』は、2024年2月にアルバムからのセカンドシングルとしてリリースされました。この曲では、彼の元妻キム・カーダシアンとの間に生まれた長女であるNorth Westが特別ゲストとして参加しています。
この曲でタイ・ダラー・サインは、娘の人生に寄り添い続け、自分が若い頃に犯した過ちを娘が避けることを望んでいるとラップしています。また、MVでは、タイ・ダラー・サインの実娘であるJailynn Crystalも出演し、家族の絆と愛情が表現されています。

¥$, Ye, Ty Dolla $ign feat. North West - Talking

『DO IT』

7曲目の『DO IT』は、MustardWheezyらが共同プロデュースした曲で、タイ・ダラー・サインのアルバム『Featuring Ty Dolla Sign』に収録予定であった未発表曲『I Just Wanna Know』をサンプリングしています。この曲は、イントロから故Nipsey Hussleのフレーズがループされ、さらに曲の途中からJuvenileのクラブアンセム『Back That Azz Up (Back That Thang Up)』(1998)をサンプリングしています。後半では、疾走感に溢れるビートが印象的に展開され、リスナーを魅了しています。

第7曲目『DO IT』は、MustardWheezyらの共同プロデュースによる楽曲であり、タイ・ダラー・サインのアルバム『Featuring Ty Dolla Sign』に収録される予定だった未発表曲『I Just Wanna Know』のサンプルを使用しています。イントロでは、故ニプシー・ハッスルのフレーズがループし、曲が進むにつれて、1998年のジュヴェナイルによるクラブアンセム『Back That Azz Up (Back That Thang Up)』のサンプリングが加わります。後半部分では、疾走感溢れるビートが特徴的に展開し、リスナーの心を捉えます。

¥$, Kanye West & Ty Dolla $ign feat. YG - DO IT

Nipsey Hussle feat. ft Ty Dolla $ign & Cardi B - Wanna Know (未発表曲)

Juvenile feat. Mannie Fresh, Lil Wayne - Back That Thang Up (1998)

『BURN』

9曲目の『BURN』では、タイ・ダラー・サインが美しいフックを歌い上げ、カニエが淡々とした口調でラップしているように聞こえますが、その歌詞の中でカニエは、2022年10月に複数の反ユダヤ主義的なコメントを発した後、ほとんどの提携会社から契約解除されたことや、2024年の大統領選挙キャンペーンが頓挫したこと、バレンシアガの広告スキャンダルがネット上で暴露されたことなど、個人的なトピックを取り上げています。特に『次のバレンシアガの広告塔はR. Kellyって聞いたぜ』などの歌詞では、児童ポルノなどの罪で有罪判決を受けたR. Kellyの名を挙げてバレンシアガを痛烈に批判しています。

¥$, Kanye West & Ty Dolla $ign - BURN

『CARNIVAL』

12曲目の『CARNIVAL』は、Rich The KidPlayboi Cartiがゲスト参加しており、アルバムから3枚目のシングルとしてリリースされました。この曲は、2月8日にシカゴのユナイテッドセンターで開催された今作のリスニングパーティーで披露され、当初のバージョンは、1983年のBlack Sabbathによる「Iron Man」のライブパフォーマンスをサンプリングしていました。しかし、バンドのリードシンガーであるオジー・オズボーンは、このサンプリングを承認していないと述べ、カニエは「反ユダヤ主義者であり、多くの人々に計り知れない苦痛を与えたために許可されなかった」とSNSに投稿しました。さらに、オズボーンの妻でマネージャーのシャロンは、カニエに対して法的措置を検討しているとメディアに語るなど、リリース前から物議を醸すこととなりました。

一方で、この曲は批評家から『VULTURES 1』のベストソングであるとも言われるほど高い賞賛を受けており、さらには、全米シングルチャートでは3位にランクインするなど、多くのオーディエンスからも支持を受けているようです。

¥$, Kanye West & Ty Dolla $ign feat. Rich The Kid & Playboi Carti - CARNIVAL

Ozzy Osbourne - Iron Man (Live)

おわりに

VULTURES 1』のリリースに至るまでの道のりは、一筋縄ではいかないものでした。カニエ・ウェストの反ユダヤ主義をはじめとする論争的なコメントは、彼のキャリアやビジネス関係に深刻な影響を及ぼしました。彼が所属していたレーベルGOOD Musicは、これらの発言を受けて提携を解消し、多くの関係者が辞職や離脱を余儀なくされました。これによりアルバムのリリースが遅れるなど、楽曲自体も論争の的となりました。
しかし、このような困難な状況の中、カニエタイ・ダラー・サインはインディーズでのリリースという道を選び、皮肉にもその論争がプロモーションとなり、批評家や聴衆の注目を集めるきっかけとなりました。

結果として、『VULTURES 1』は1億6,700万回以上のストリーミングを記録し、全米アルバムチャートで1位を獲得。この成功により、カニエジェイ・Zと肩を並べる形で史上3番目に多くの連続ナンバーワンデビューを達成したアーティストに名を連ね、タイ・ダラー・サインにとってはこれが初のチャート1位となりました。
加えて、2人は『VULTURES 2』および『VULTURES 3』のリリースを予告し、ツアーの計画も公表しました。彼らの音楽は常に新たな挑戦を追い求め、ファンにとってはこれからも待ち遠しい発表が続くことでしょう。

今回紹介した楽曲のDJプロモーション音源はこちら⬇️⬇️⬇️

※ DIGTRACKS.comは、音楽プロモーター、音楽業界に携わるプロフェッショナル(DJなど)専門のデジタル・レコードプールサービスです。
ご利用の際は必ず「ご利用規約」をご確認ください
最新HITチャート Digtracks.com ランキング #hiphop #rnb #dj #新譜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?