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映画『マトリックス』からインスパイアされた!? Lupe Fiasco - DRILL MUSIC IN ZION (2022)

ヒップホップ界で最も才能ある言葉の使い手の一人であるシカゴのMC、Lupe Fiasco(ルーペ・フィアスコ)

Kanye West(カニエ・ウェスト)に見出され、2006年に発表したシングル「Kick, Push」が注目を集め、セカンドアルバム「Lupe Fiasco's The Cool」(2007)からのリードシングル「Superstar」 は、全米チャート10位を記録し、世界各国でチャートインしました。

また、レーベルとの確執からリリースが遅れ、ファンから署名運動が巻き起こった3枚目のアルバム「Lasers」では全米チャート1位を獲得。

その後、4枚のアルバムをリリースするなど精力的に活動している彼が、2022年に8枚目のアルバム「DRILL MUSIC IN ZION」をドロップ。

ここでは、このアルバムについて解説します。

レーベル  : 1st & 15th Entertainment
リリース日 : 2022年6月24日
名前    : Lupe Fiasco
本名    :    Lupe Fiasco / Wasalu Muhammad Jaco
年齢    : 40歳


出身地   :    イリノイ州シカゴ

リリースまでの経緯

2021年8月、Twitterで「24時間以内にゼロからアルバムを作るんだ...」とツイートし、多くのファンがアルバムへの期待を寄せました。

その後、このツイートについて24時間でリリースするのではなく、完成させる予定だったと話し、また72時間で完成させたようです。

参考までに。
新しいアルバムは24時間でリリースされるものではないよ。
24時間で完成させる予定だったんだ。
結局72時間かかったんだけどね。
今のところ、リリース日は未定だよ。
リリース日が決まったらお知らせするね。
期待して待っててね。

ルーペがこのような短い期間でアルバムを録音することを決めたのは、日本の侘び寂びの概念、つまり不完全さの中の美しさを評価することに触発されたからだといいます。

今作は映画マトリックスから影響を受けている?!

2015年のアルバム「Tetsuo & Youth」と同様、今作のアートワークも本人によるもので、斬新なデザインに仕上がっています。
タイトルに"Drill Music"が使われたことで、近年流行りとなっているドリルミュージックを連想させますが、本人はこれを否定しており、
タイトルとアートワークのイメージは、映画『マトリックス』からインスピレーションを受けたと明かしています。

このアルバム・タイトルは『マトリックス・リローデッド』の「ロボットがザイオンにドリルを打ち込む」というシーンにインスパイアされたんだ。
人間が住めるようになった小さな聖域の名前はみんなザイオンって知ってるよね。あそこはエージェントから離れた聖域なんだ。
でもそのシーンで、ロボットがザイオンに穴を開ける方法を見つけるんだ。
ザイオンで全員が静かにたたずんでいると、突然天井の破片が落ちてきて、壮大なシーンになるんだ。
そのシーンが、このジョイントのインスピレーションの源になっているんだ。

妹が最大の理解者?

アルバムのオープニングトラック「The Lion's Deen」は、ルーペの妹、アイーシャ・ジャコによるスポークンワード・モノローグ(詩の朗読によるパフォーマンス)であり、このトラックで彼女は、「ドリル・ミュージックとは何かという異なる側面、異なるタイプのドリル、「ザイオン」が意味する異なるタイプ」について論じ、このレコードのテーマを紹介しています。

「ドリル・ミュージック・イン・ザイオン」の意味は、妹と話し合ったときにはっきりと分かった。
タイトルの最良の定義は、実は俺の妹から得たんだ。
妹はこのアルバムのオープニングのレコード、アイーシャ・ジャコ
をやっている。彼女は僕の最初の2枚のレコード、Food & Liquorと The Coolのオープニングも担当してる。
このアルバムはたった3日で作ったため、このタイトルが本当は何であるかを表現する時間がそんなになかった。
彼女には"その中に入れば意味が分かる"と言って、タイトルを渡したんだ。

※詩より抜粋
生まれ変わるのだ 邪悪な者たちに蔑まれないように
利益のために地域社会や天然資源を略奪する
彼は言った「私の子供たちよ、あなた方ひとりひとりが預言者だ」
お金があなたの行いの総和であってはならない
心の中の雑草を刈り取れ
前を見て、横を見て、後ろを見て。
あなた達はそれぞれ新しい大地を切り開く刃物を持っている
コロンブスが見つけたと思った新世界を出現させるのだ
団結して天候を変えよう虐げられた人々の種を団結させよう
共に立ち上がり、祝福されるために正しく働こう
来るべき世代のために
ドリルダウン ザイオンはあなたの中にある

ここでは、大量消費主義は少数者の欲に力を与えると論じており、おおむね資本主義に批判的な様子が見て取れます。

『ストリートファイター』のケンとリュウのような関係?

今作では、100ドルのUSBマイクとGarageBandでレコーディングし、全て自宅のリビングで作業したことを明かしています。

「DRILL MUSIC IN ZION 」は、72時間かけてゼロから書き上げ、セルフレコーディングした。食事と睡眠のためだけに中断し、すべて自分のリビングルームで100ドルのUSBマイクを使ってGarageBandで行ったよ。

また、デビューアルバムから長年彼をサポートしているプロデューサーSoundtrakkが今作を全面プロデュース。

今回のSoundtrakkのアルバムでのプロダクションは「瑞々しいジャズ」と評され、このアルバムはジャズラップと特徴付けられました。

このSoundtrakkという人物は、冒頭で紹介したルーペ・フィアスコ「Kick, Push」「Superstar」などを手掛けたイリノイ州シカゴのノースサイド出身のプロデューサーで、グラミー賞に9回ノミネートされています。
またルーペ・フィアスコは、彼をお気に入りのプロデューサーとして挙げており、2人の関係をゲーム「ストリートファイター」のケンとリュウに例え、メディアでたびたび話しています。

そんな切っても切れない密接な2人がプロデュースした今作から、リードシングル「AUTOBOTO」が先行で公開。

Lupe Fiasco - AUTOBOTO (2022)

またアルバム6曲目に収録された「MS. MURAL」はシリーズとなっており、2015年のアルバム「Tetsuo & Youth」の「Mural」から始まり、2018年のアルバム「DROGAS WAVE」の「Mural Jr.」で続編が綴られ、本作はその三部作の最終回となるとみられています。

「MS. MURAL」では、ルーペが「芸術」の現状と彼が直面する倫理的ジレンマについて述べています。

Lupe Fiasco - MS. MURAL (2022)

このMURALというタイトルは、アーケードゲーム「パックマン」シリーズから引用したもので、アートワークも横向きにするとパックマンに見えることから、このシリーズの集大成を意図していると予想されています。

アートワークを横向きにすると!?
JR.
MS.

おわりに


デビュー作から16年、40歳を迎えたルーペ・フィアスコ
その多くの比喩を操る男は今、ラッパーとしてのキャリアが成熟してきたと感じているようです。

人はずっと肉体的には成長している訳だけど、アーティストとして、今背筋が伸びたような気がするよ。
とはいえ、道徳的に高いところにいるわけではなく、見晴らしがよくて視点が高いということなんだ。
もっと遠くまで見渡せるんだ。

批評家からも概ね好評なこのアルバムは、彼自身の思想や哲学をリスナーに大胆に表明しています。
そして彼自身が「これは俺のIllmaticだ」と宣言している以上、我々がこのアルバムを聴かない理由は存在しないことでしょう。


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