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逮捕から頂点へ:21 Savageのアメリカン・ドリーム

ヒップホップ界において、常に進化し続けるアーティストの一人として注目されている21 Savage(21サヴェージ)
彼の音楽は、デビュー以来、独自のスタイルと深みを増してきました。
ストリートからインスピレーションを受けたリリックと、独特のフローで彼はリスナーをなお魅了し続けています。
2018年にリリースされたセカンドアルバム『I Am > I Was』は、見事全米チャートでトップに輝きました。2020年には、盟友Metro Boomin(メトロ・ブーミン)と手を組んだ『Savage Mode II』で再びチャートの頂点に立ち、2022年にはラップ界の巨星ドレイクと共演したアルバム『Her Loss』で自身3度目の全米チャート1位を獲得しました。

そして2024年1月、彼のファンが心待ちにしていた3枚目のソロアルバム『american dream』が遂に発表されました。この記事では、21サヴェージのこの最新作にフォーカスし、その魅力を紹介していきます。

レーベル  : Epic Records, Slaughter Gang & Sony Music Entertainment
リリース日 : 2024年1月12日
名前    : 21 Savage
本名    :    Shéyaa Bin Abraham-Joseph
年齢    :    31歳
出身地   :   ジョージア州アトランタ


逮捕からアメリカンドリームまでの知られざる道のり

2010年代に脚光を浴び、今もなおアメリカのラップ界を魅了し続ける21サヴェージですが、彼のキャリアには予期せぬ転機が訪れました。2019年2月3日、アメリカ移民税関捜査局(ICE)によって、不法移民として逮捕されるという衝撃的な出来事が起こりました。捜査局によると、彼は実はイギリス国籍を持つ人物で、有効なビザなしで米国に滞在していたとされています。

これまで21サヴェージはインタビューで「ジョージア州ディケーター出身」と公言していましたが、ICEの広報担当者は、彼のこれまでの公開されていた経歴は全て虚偽であると指摘し、「彼の公的なイメージは全て偽りです」と明言しました。これにより、彼のラップキャリアにも暗雲が立ち込め始めました。その後、彼が1992年10月22日にロンドンのニューアムで生まれたことを示す出生証明書が公開され、彼のイギリス出身であることが確認されたのです。

21サヴェージは、イギリスで誕生したことを積極的に秘密にしていたわけではありませんが、強制送還の心配からか、他人に対してはあまりそのことを口にしてこなかったようです。

ビザが何なのか知らなかったんだ。初めてアメリカに来たのは7歳の時だった。自分がここで生まれたのではないことは知っていたけれど、それが大人になるときにどういう意味を持つのか、それが自分の人生にどう影響するのかは知らなかった。隠していたわけではないよ。でも、強制送還されたくなかったから『俺はここで生まれたわけではない』と世間にカミングアウトするつもりはなかった。

こうして、21サヴェージは逮捕され、その後ICEにより拘留されました。彼は弁護士を通じて移民法廷での手続きを進め、一時的な拘留から解放されることになりました。その後、彼は移民法廷の審理を待つこととなります。2023年には、ドレイクとの共同アルバムをリリースし、「It's All A Blur」ツアーを開始しました。しかし、21サヴェージは入国管理上の問題からカナダへの入国が叶わず、結果としてトラヴィス・スコットがカナダでの「It's All a Blur Tour」のステージに代役として立つことになりました。

翌年の2023年10月、ドレイクは新曲「8am in Charlotte」で、21サヴェージがアメリカの永住権、いわゆるグリーンカードを取得したとラップしました。この発表の後、21サヴェージの弁護士は彼が正式にアメリカの永住権を取得したこと、そして彼の海外旅行が可能になったことを発表しました。
21サヴェージは自身のInstagramに動画を投稿し、これには彼のロンドンでの幼少期の思い出の映像が含まれており、これは、彼の移民としての苦境からの解放と、新しい未来への一歩を象徴するものでした。

2024年1月、21サヴェージは自らの伝記映画「american dream: the 21 Savage Story」の予告編を公開しました。この予告編では、彼の家族が拘留される様子、ICEによる家宅捜査、そして移民裁判の厳しい瞬間などが描かれています。この映画はアメリカの独立記念日に合わせて公開される予定で、21サヴェージの人生に隠された多くのドラマと転機が深く探求されることが期待されています。彼の経験した困難や成功の物語が、視聴者にどのような影響を与えるか、多くの注目が集まっています。

収録曲について

約5年ぶりにソロアルバムをリリースした21サヴェージの新作は、「american dream」という大胆なタイトルで、文字通り、アメリカでの成功をテーマにしています。
このアルバムは全15曲が収録されており、Lil DurkYoung Thugメトロ・ブーミンBurna BoyDoja CatSummer WalkerBrent Faiyazなど実力派揃いの豪華なゲストが参加しています。

「​american dream」

アルバムタイトルと同名のオープニングトラック「american dream」では、21サヴェージの母であるHeather Carmillia Josephがストーリーテラーとして登場します。このトラックで彼女は、母として息子の将来を思い描く重要性を語ります。試練や変化に直面しながらも、彼女は息子に適切な機会を提供し、成功へと導くためにひたむきに歩み続けました。このトラックでは、彼女の選択が無駄でなかったこと、そして息子がアメリカン・ドリームを追求する自由を手に入れたことへの満足感を表現しています。

21 Savage - american dream

「​all of me」

2曲目の「​all of me」は、イントロからRose Royce「Wishing on a Star」(1977)の歌声をサンプリングした曲で、21サヴェージは彼独特のゆったりしたフロウでラップしています。この曲では、困難な環境からの生き残り、成功への道のり、そして信頼と裏切りの複雑なダイナミクスをテーマにしています。また、自己のアイデンティティと成長についても深く反映されています。

21 Savage - all of me

Rose Royce - Wishing on a Star (1977)

「​redrum」

3曲目の「​redrum」は、「murder(殺人)」を逆さにした言葉で、これは1980年のホラー映画「シャイニング」へのオマージュです。この楽曲の終盤で使用されている「Little pigs, Little pigs, let me come in」というフレーズは、映画の有名なセリフをサンプリングしたものです。また、イントロではElza Laranjeiraの「Serenata Do Adeus」(1962)も取り入れられており、全体を通して21サヴェージが自身の成長環境や経験に基づく内容が盛り込まれています。この曲では、特に暴力やストリート文化のリアリティが際立つ要素が表現されています。

21 Savage - redrum

Elza Laranjeira - Serenata Do Adeus (1962)

The Shining (1980)

「​née-nah」

アルバム9曲目「Née-Nah」には、トラヴィス・スコットメトロ・ブーミンが参加。この楽曲では、贅沢な生活、パーティー、そして困難な状況についてのテーマが扱われていて、トラヴィス・スコットのパートでは、華やかなライフスタイルや様々な音楽スタイル、自己表現に焦点を当てています。
一方で、21サヴェージは自身の過去の苦労、成功、他者との関係について語り、力強く直接的な言葉選びを用いています。コーラス部分では、Slaughter Gang(21サヴェージのレーベル)への誇りと、敵対する者に対するハードな姿勢が表現されています。さらに、この曲のイントロではMalcolm McLarenの「About Her」(2004)がサンプリングされ、メトロ・ブーミンの特徴的なドープなサウンドが生かされています。

21 Savage, Travis Scott, Metro Boomin - née-nah

Malcolm McLaren - About Her (2004)

「​dark days」

アルバムのクロージングナンバー「dark days」は、アトランタ生まれの才能豊かな26歳のシンガー、Mariah the Scientistとの共作です。彼女は2023年にEpic Recordsと契約を交わし、同年リリースされた「To Be Eaten Alive」というアルバムで21サヴェージと初めて共演を果たしました。この曲は両者にとって2回目の共同作業で、メロディックなトラックに乗せられた歌詞は、ストリートの厳しい現実、名声と成功を目指す戦い、そしてそれに伴う感情的な重荷を映し出しています。

21 Savage, Mariah the Scientist - dark days

おわりに

21サヴェージの新作は、1月27日付けの全米アルバムチャートで1位を獲得しました。発売初週には1億6000万回のストリーミングを記録し、同じくその日にリリースされたKali Uchisのスペイン語アルバム「ORQUÍDEAS」を抑え、4作連続での首位獲得を達成しました。

「american dream」は、これまでの彼の作品と比較して、より深い自分自身への考察と感情的な表現が特徴です。
彼の生い立ちや経験に基づいた歌詞は、日記のように個人的であり、聴き手に彼の心の内側を垣間見せています​。

アルバムの内容は、タイトル「american dream」が示す通り、アメリカンドリームという"理想と現実"の矛盾や複雑さを探求しています。一方で、ストリートライフに対する冷静な視点を保ちながら、他方ではビザ問題による拘留後の日々を反映した曲もあります。こうした多様なテーマの組み合わせは、彼の音楽的な成長を如実に示しています。

また、トラップスタイルに加え、R&Bやアフロビートの要素が取り入れられたコラボレーションも、彼のアート性の進化を感じさせる要素です​​。
しかし、アルバム全体としては、貧困や移民問題といった深いテーマに十分に焦点を当てていないという批評もあります。多様なトピックを扱っているものの、その中でより深いメッセージを伝える部分ではやや不足している部分が見受けられます。
それでも、最終トラック「dark days」では、アメリカの貧困やギャング暴力に対する洞察力ある歌詞が、リスナーたちに深く刺さり、彼のアーティストとしての成長が評価されています​​。

プロダクション面では、メトロ・ブーミンをはじめとするプロデューサーがトラップサウンドをベースにしつつ、R&Bやドラマチックなトーンを取り入れたビートを提供し、トラヴィス・スコットドージャ・キャットヤング・サグなどのゲストアーティストもアルバムに彩りを加えています​​​​。

総じて、「american dream」は、21サヴェージのアーティストとしての成長と進化を示す作品であり、彼の個性と音楽的探求が見事に融合したアルバムとなっています。
まだ聴いていない方は、是非一度耳を傾けてみてはいかがでしょうか。


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